原油価格の高騰が止まらない。1990年代に1バレル当たり10~20ドル台で推移していた原油価格は、1998年末を底に上昇トレンドに入り、2008年初めには100ドルを突破。ここからさらに急上昇し、7月には147ドルにまで達した。とどまることを知らない原油価格の高騰は、何によってもたらされ、社会や経済にどんな影響を与えるのだろうか。
寿司の運命はいかに!?
7月15日、「原油高による経営難を背景に約20万隻の漁船が全国で一斉休漁」というニュースが世間をにぎわせた。漁船で用いる燃料価格が、ここ5年間で約3倍に跳ね上がり、日本各地で赤字で操業できない漁業者が増加していることを、漁業関係者が社会に訴えかけたのだ。原油高の影響として、ガソリン価格の高騰に目がいきやすいが、ほかにもさまざまな問題が出てきている。
今回の全国の漁船の一斉休漁に関して、東京築地市場では大きな影響はなく、またスーパーなども15日の一斉休漁を見越して、前日14日までに多めに仕入れるなどの対策をとった。そのため食卓への影響も少なかったようだ。しかし、今後について、中央卸売市場関係者は不安の色を隠せない。
「15日の一斉休漁で多くの漁船が漁に出なかったことで、16日の入荷量と販売量は7割ほど落ち込みました。ただ、16日は比較的商いが少ない水曜日だったことや、多くの業者が仕入れを休んだことで需要量も少なくなり、価格が跳ね上がるようなことはありませんでした。17日以降は、普段の市場の姿を取り戻しています。しかし、今回は1日のみの休漁でしたが、数日間の休漁となれば、大きな影響が出ることも考えられます」(中央卸売市場総務係担当者)
食卓から魚が消えることはないにしろ、このまま原油高が続けば、寿司や刺身などの魚を食べる機会が減ることも考えられるのだ。
思わぬ娯楽製品にも影響
そのほかにも原油、プラスチックやゴム、化学洗剤などの石油化学製品が、原油を主原料としているだけにダイレクトに影響を受けている。7月14日、三菱化学(株)は原油価格高騰に伴う原料ナフサ高騰分を転嫁するために、洗剤や接着剤、食品トレーの原料などになる石油化学製品27品目を、8月出荷分から10~15%値上げすることを発表した。
今年の6月にも三菱化学(株)や住友化学(株)、三井科学(株)は主要石油化学製品を値上げしている。この短期間の一斉値上げによって、最終製品メーカーは対応に追われているようだ。ただし、製品価格には、まだそれほど影響していない。それは、最終製品メーカーが高騰分を吸収してきたからだ。(ガチャガチャ[通称]として知られる)カプセルトイ業界2位の(株)ユージンに、原油高の影響を聞いた。
「確かにカプセルトイの主原料のプラスチックは、キロ単価が高騰しています。弊社の200円の商品では、カプセル部分に『PP(軟らかい側)』と『PS(無色で硬い側)』合わせて1個20gとプラスチックの使用量はわずかです。1個あたりのコストは1~2割程度の増、1個あたり1円に満たない計算になります。とは言え、1つあたりのコスト増は少なくても、月産全体ではかなりのコスト増になっていますね」(ユージン広報担当者)
カプセルトイは販売機の構造上、200円を210円にするなどの対策をとることは難しい。また、消費者のことを考えると簡単な値上げなど避けたいところなのだ。
「製品ではなくカプセル部分でコストの増加分を吸収できるように、コストが安いPPだけを使ったカプセルの実用に向けて開発を進めています」(ユージン広報担当者)
現在起こっている商品の値上がりを、「原油高が原因」と短絡的に見ることはできない。しかし、原油高は確実に私たちの生活に影響を及ぼしつつあるのだ。
(次ページ、「コンサルタント・インタビュー」へ続く)
この連載の記事
-
第7回
ビジネス
世界のカネ余り現象と怖い日本の将来 -
第6回
ビジネス
内部統制で遊ぼう -
第5回
ビジネス
企業が生き残るために今すべきこと -
第4回
ビジネス
AQUOSケータイから見た中国ビジネス -
第2回
ビジネス
合併や買収は、弱い社員の敵なのか!? -
第1回
ビジネス
忍び寄る正社員クライシス! -
ビジネス
経済予備校 -
ビジネス
経済予備校 - この連載の一覧へ