ワーキングプア。日本では「働く貧困層」と訳される。フルタイムで働いても最低生活水準を満たすに十分な所得を得られない勤労者のことをいう。世帯構成によって必要な生活費が異なるうえ、地域によって物価水準が異なるため、一概に年収300万円以下をワーキングプアと定義することはできないが、年収200万円以下の労働者は2006年には実に1000万人を超えている。この中には親元で暮らす人や共働き世帯も含まれるため、すべてがワーキングプアではない。しかし、その数は近年確実に増加しているようだ。
正社員使いつぶし……いまどき正社員なんてなるもんじゃないかも!?
実際にワーキングプアとは、どのような状態なのだろうか。その実態について、ワーキングプアなどの労働問題の解決に取り組んでいる首都圏青年ユニオンの河添誠氏に聞いた。
ワーキングプアは、派遣社員や契約社員、パートタイマーといった非正規社員の問題と捉えられることが多い。しかし昨今では、正規社員として働いているのに、ワーキングプアになってしまっている「正社員ワーキングプア」が増加しているようだ。
「低賃金で働く非正規社員が増加することで、正規社員の労働条件にも悪影響が出てきています。正規社員の数が絞りこまれ、1人あたり労働内容が増加し、非常に過密な労働を課せられているのです。その状況の中で、『正社員だから』と非正規社員以上の働きを強要され、長時間労働に従事せざるを得ない状態になっています」(河添氏)
では、身近な例として、まず美容師の業界のケースを紹介する。この業界では「正社員ワーキングプア」が深刻な問題になっているという。
■ケース「大手美容院の新入社員」
Aさんは美容師の専門学校を卒業し、春から大手の美容院に入社した。実務を通して、美容師としての技能を高めていくことに希望を抱いていた。しかし、入社して半年間の主な仕事は美容師の仕事ではなく、駅前でのチラシ配り。しかも、午前8時ごろから午後10時ごろまで労働を強いられる状況だった。
このケースについて、河添氏は「正規社員は残業代を払わなくてもいい」という考えが横行しているのが背景にあると語る。大手美容院にとって、チラシ配りはお店の売り上げに直結する重要な仕事で、時間をかけて多くの人に配る必要がある。本来はアルバイトやパートタイムなどに任すべき仕事だ。
しかし、例えば都心でチラシ配りのアルバイトを雇うとなると、少なくとも1時間あたり900円の雇用費が掛かってしまう。そこで、どれだけ長時間働かせても雇用費がかさまない下層の正規社員を使っているというのだ。このような状況を河添氏は「正規社員が使いつぶされている」と表現する。
(次ページ、IT系ワーキングプア・ケースへ続く)
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