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ベンチャー企業サスライトに聞く

弁当箱の試作品から始まった

2008年05月21日 02時13分更新

文● 吉川大郎/アスキーネタ帳編集部

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起業に関するラーメン挿話

 ただ、弁当箱の試作品には特許取得以上の重要なキーが隠されていると思われます。それは、弁当箱は「植松氏一人で作ったものではない」という事実。植松氏は当時、パソコンは使っていたとはいえプログラミングとは無縁の世界にいました。大学の専門は半導体の素材研究で、ハンダ付けとも無縁です。つまり、自分だけでは作り得なかったわけです。

 そこで、「ソフトを知っている人やハードを知っている人を探し出して、一生懸命お願いしました」(植松氏)。SASTIKの根底にあるコンセプトに、“自分の環境やデータを手軽に持ち運ぶ”という意味の「ポータブルパーソナリティ」という言葉がありますが、これの未来を力説し、技術を持つ仲間を集めたわけです。植松氏は、「当初から製品化前提で頼んだ」のだといいます。単に「作りたい」ではなく、ビジネス=起業を視野に入れたところに凄みがありますね。

サスライト代表取締役社長 植松真司氏

代表取締役社長 植松真司氏

 ところで、突然ですが、あなたがラーメン屋を起業するとしたらどうしますか? アジア圏のビジネスでは有名な方が教えて下さった話なのですが、この問いに対する回答パターンは大きく分けると2つ。A「有名なラーメン屋で修行を始める」、B「有能なラーメン職人に話を付けて雇う」というものです。日本人は圧倒的にAが多いのだとか。同じアジアでも、国外の人はBが多いのだそうです。ここに日本人のメンタリティが隠されているわけですが、特に“IT起業”というテーマでものを考える際、「私はプログラミングができないから」「システムの専門家ではないから」といった理由で、端から思考をやめてしまいがちですが、実は「できる人を見つけて協力してもらう」ことこそ、大事なのだと、植松さんのお話は教えてくれます。

 試作品ができたあとは、コンシューマ向け製品を出荷し、ベンチャーキャピタルから出資も受けられ、業績も順調。顧客からの要望で、法人向け製品にも進出をしました。その間、ハードウェア自体は大きな手を入れる必要はありませんでした。コンセプトが優れていたことの証左ですね。

 現在SASTEK IIIは、「安価なシンクライアント」という言葉に反応した企業からの問い合わせが凄まじいといいます。今後サスライトは、法人向けのビジネスを柱とし、ヒアリングに力を入れていくそうです。「ポータブルパーソナリティという考え方はどうあるべきか? まだまだ掘り進んでいきたいですね」と植松氏は最後に仰いました。

お詫びと訂正:

記事掲載当初、一部「SASTIK」が、「SASTEK」となっておりました。正しくは「SASTIK」です。読者の皆様はじめ、関係者各位に謹んでお詫び申し上げます。 (2008年5月27日)。

SASTIK IIIとは

 SASTIK IIIの動作はとてもシンプルです。ユーザーがSASTIK IIIをパソコンに挿すと、自動的に自分の会社のサーバに接続し、そのまま認証も済ませてメールやファイルサーバにアクセスできるようになるのです。

SASTIK III

SASTIK IIIをパソコンに挿すと表示されるツールバー

 ファイルサーバのファイルは、たとえばMicrosoft Officeなどで閲覧/編集/保存が可能なのですが、ユーザー側のパソコンには保存できません。接続先である会社のファイルサーバにのみ保存するので、情報漏えい対策もばっちりというわけです。作業が終わったユーザーは、SASTIK IIIを抜くだけ。パソコンは元通りになり、SASTIK IIIを挿してから作業した情報は一切残りません。

 SASTIK IIIの魅力は、どんなパソコンでも挿すだけでシンクライアントとなり、抜いてしまえばシンクライアントとして動作した一切の記録が消え去ってしまうこと。そして、シンクライアント専用ハードウェアが必要ないため、「通常の1/10の価格でシンクライアント環境を構築できる」(サスライト)点です。

 「ポケットに入る仕事環境」という意味では、とてもユニークな製品と言えますね。

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