「アニメ制作に関われて、とても嬉しい」
一方、仕上げ担当のミン君は、アニメファンが集まるベトナムスタジオのなかでも、特にアニメ好きな人物だ。彼は、現在、放送中のほとんどのアニメ作品をインターネットを通じてチェックしているという。
「日本のアニメは大好きです。自分がアニメ制作に関わることができて、とても嬉しいですね。でも自分で作るとなると、線補正の作業が難しい。目と顔の線を、勢いを殺さずに補正するのに苦労します。それに小物も大変です。『アイシールド21』という作品の仕上げをしたときに、ヘルメットの部品が細かすぎて塗るのに困りました(笑)」(ミン君)
そんなミン君が今、お気に入りな作品が「機動戦士ガンダム00」だ。
「ガンダムの制作に参加することが夢なんです。スタッフクレジットに載れるように頑張りたい。今ですか? 今はまだ実力が足りません。仕事をすることを考えたらガンダムはこわいです。線が多いので、補正や塗りが大変そうです(笑)」(ミン君)
作品だけでなく、制作事情にも詳しい。ミン君が尊敬する日本のアニメ監督はというと?
「新海 誠監督ですね。新海さんのように、ひとりでアニメが作れるようになりたいと思っています。アニメに関するすべての工程を知りたいんです。今は仕上げですけど、撮影や編集など、勉強することはたくさんあります。機会があれば日本に行って勉強したいんです」(ミン君)
ちなみにホーチミン市の中心にあるミン君のお宅も訪問してみた。テレビにはDVDプレイヤーやPS2がつながっていて、その上にはフィギュアまで乗っていた。また家族共有のパソコンが2台あり、日本のアニメはほとんどリアルタイムでチェックしているという。ベトナムにいても、日本のアニメファンと同等の視聴環境が揃っているのだ。
ネットで縮まる情報格差
アニメを作りたい。その気持ちには、国境はない。先のトゥンさん、リンさんも将来は作画監督、そして、監督を目指していると熱く語る。
冒頭でも触れたように、日本のアニメ業界内部では「アニメ業界に若者が集まらない」という声が聞かれる。だが、若者はここにいる。ベトナム取材を通じて、「ジャパニメーション」と呼ばれる日本のアニメは、日本という土地だからこそ生まれるものなのか、という疑問が生じた。
違法か合法かという問題はもちろんあるものの、インターネットが普及した現代は、社会主義国のベトナムでさえ海外のアニメ情報を享受できる。アニメ業界における世界的な情報格差は確実に縮小しているのだ。
ネットの動画共有サイトが定着し、誰でも情報発信をできるようになった今、それは誰でもアニメを作れるようになったことと同義である、と言えないだろうか。
筆者紹介──柿崎俊道
アニメ、ゲームの作り方を中心に取材を続けるフリーランスのライター。著書に「聖地巡礼 アニメ・マンガ12ケ所めぐり」(キルタイムコミュニケーション)、「Works of ゲド戦記」(ビー・エヌ・エヌ新社)など。