「お前はまた甘ったれた世界に戻るのか」
―― あ、ええと……なんでしょう、工事現場の監督みたいなもんですかね。
ペンプロ 極めつけの話があって、あるミュージシャンにギャンブル漬けにされたことがあったんです。ある日、パチスロ屋の席取りで並ばされ、クジを引かされたんですよ。
―― はあ。
ペンプロ その人が列に並びながら「おまえら頭を使え、ただ安易にクジを引くんじゃねえ。どこに1番が入ってるのか考えろ」って言うんですよ。「クジ入れるときのこと考えろ、店長がいるだろ。こうやって(クジの)紙を切るだろ?」
―― まあ確かに。
ペンプロ 「(手を動かして)こうやって、こうやって入れるだろ……右下だ!」
―― いやいやいやいや!
ペンプロ 意味わかんないですよ。でもそれを言ったら殺されると思ってるから「あ、そっかー」とか言って。心の中では「死にたい」と思ってて。で、クジ引くと「285番」。そこから「だからお前の親は!」みたいな話までされて。
―― それ絶対関係ないですよね。
ペンプロ ところが最悪なことにその人「3番」とか引いちゃうんですよ。
―― 最悪だ!
ペンプロ その人が「うん、右下だった」って言った瞬間に、逃げ場がなくなっちゃうんです。論理が大間違いなのに、最後の結果だけ正しい。そういうことが重なって「どうかしてますよ」と言うと「お前はまた甘ったれた世界に戻るのか!」と詰められて。
―― それはこう、あまりものを考えない人なんですか。
ペンプロ 学歴とは関係なく頭の回転が速くて、カリスマ性があるんです。
―― なんというか全共闘やオウムと同じような……。
ペンプロ そうですね。あ、でも今の全共闘とかは怖くないんですよ、あくまで理屈で話すんで。でも彼らは違う。「こうした方がいいんじゃないですか」と提案すると、「オレのことが嫌いなのか!」という話になるんです。で、また説教される。
―― 意味がわからない!
ペンプロ でもそのとき、ああこの人たちはそれでいいんだ、と分かったんですよ。声のデカさにビビッた人が周りにいて、たぶんそれで一生食っていけるんだろうなと。
―― それは音楽で食っていくというより……。
ペンプロ 大学の文学部で初めて書いた小説は、そういうローディー時代の体験を元にしたものなんです。
―― それもすごいですけど。
ペンプロ 先生に見せたら「これはマジックレアリスム※だ、現実には起こり得ないことが生々しく描かれてる!」と。
―― ははははは。現実なのに!
ペンプロ 今でこそ笑って話せてますけど、トラウマを治癒するために小説にしたようなもんですからね。だから「音楽業界を変える」とか、本当に意味がないと思ってて。
―― それでも2年間はやり続けたんですよね。
ペンプロ ですね。その後も半年くらい「まだやりなおせるんじゃないか」ともがき続けたんです。でも、22歳の誕生日、駐車場で馬乗りになって「お前なんかクズだ!」と責められてたとき、あっ、と思ったんです。ばからしい、と。
※ マジックレアリスム : 非現実的なものをリアリスティックに描くことで逆説的に現実を浮きあがらせる文学の手法。ガルシア・マルケスやフアン・ルルフォなどのラテンアメリカ文学を発祥とし、日本では中上健次や高橋源一郎、星野智幸などが実践している