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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第279回

ラピダスがシリコンバレー拠点を作ったワケ

2024年04月16日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 Rapidus(ラピダス)社が、米シリコンバレーに営業拠点をつくった。

 ラピダスは、キオクシアやソニーなど日本の大手企業8社が共同出資し、2022年8月に設立された新しい半導体メーカーだ。同社は、経済産業省が全面的にバックアップする「日の丸半導体メーカー」として、その動向が注目を集めている。

 IT企業や半導体関連企業がひしめき合うシリコンバレーに営業拠点を設置することで、AI関連の新興企業など、新しい顧客の開拓を目指すという。

 シリコンバレーは、もともと半導体のメーカーが集まる地域だったことから、地名に半導体の主な材料となるシリコンの名が付けられた。世界的にも半導体を巡って最も激しい競争が展開されている地域で、ラピダスはどのようなプレゼンスを確立できるだろうか。

 この1年ほど、日本を含む世界各地の半導体を巡るニュースが毎日のように量産されている。ニュースの増加は、AIの進化に伴う半導体需要が高まり、世界的な競争が激化している流れを反映しているかのようだ。

半導体の「微細化」競争

 このニュースを理解するうえで、設立から1年8ヵ月の同社は、どんな市場に参戦したのかを確認しておきたい。

 まず重要なのは、ラピダスが量産を目指す先端半導体のスペックだ。設立直後から、2nmプロセスの半導体の量産を目標としている。2nmは、1mの10億分の2。たとえばiPhoneに使われているのは5nm半導体、デスクトップPCやノートPCに使われているのは5nm半導体や7nm半導体が主流だ。

 半導体は、線幅が小さくなるほど、その処理能力が高くなる。半導体メーカーの技術競争における主戦場は、その線幅を「微細化」することにある。2nm半導体は、「超先端半導体」とも言われていて、量産化が実現した場合、スマホの処理能力や、AIなど高度で膨大な計算が求められる処理でも、能力の大幅な向上が期待されている。

2027年の量産開始目指す

 ラピダスは、2023年9月に北海道千歳市に「IIM-1」と呼ばれる2nm以下の半導体を製造する施設の建設をはじめた。IIM-1は、原稿執筆時点から1年後の2025年4月に製造ラインの試験運用をはじめ、2027年に量産を開始する計画だ。

 同社は、会社設立から1年で先端半導体の製造施設の起工にこぎつけたが、確認しておきたいのは、他社との比較における計画のスピード感だ。

 台湾の台湾積体電路製造(TSMC)は2022年12月、3nm半導体の量産を台湾で始めている。2023年11月21日のBloombergは、熊本で建設を検討している第3工場で3nm半導体の量産も候補に挙がっていると報じている。2nm半導体について、TSMCは、2025年の量産開始を目指していると報じられている。さらに、2024年2月には、インテルが2027年に1.4nm半導体の量産開始を目指す計画を明らかにしている。

 ラピダスのスピード感としては、先行するTSMCの後を追い、2年ほど後に2nm半導体の量産に着手すると理解できる。近年、微細化競争で苦戦するインテルが、2027年に1.4nm半導体の量産を始める考えを明らかにしているが、この計画が実現した場合、技術的にはラピダスはインテルの遅れをとることになるかもしれない。TSMCやインテルの動きからは、ラピダスが参戦した市場の競争の激しさが浮かんでくる。

日米、ラピダスIBM連合

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