政府が総額約1000億円を投じて、海外の優秀な研究者の獲得に乗り出す。
城内実科学技術担当大臣が2025年6月13日、海外研究者等の招へいを進める政策を発表した。この政策には、「J-RISE Initiative」という名称で、「日本が、研究者にとって最も魅力的な国となる」という壮大な目標を掲げている。「海外の研究者」という言葉には、外国人だけでなく、米国など海外の大学や研究機関に所属する研究者も含むという。
海外からの研究者獲得を目指す政策立ち上げの背景には、米国の情勢がある。米国では、トランプ政権が研究機関への補助金や助成金を大幅に削減し、政府系の研究機関でも人員の削減が進められているという。トランプ政権はさらに、世界でもトップレベルの一角にあるハーバード大学と「多様性、公平性、包摂性」を目指すプログラムを巡って対立を深め、同大に対する政府資金の拠出を凍結している。
移民に対する取り締まりの強化や研究費の削減などを原因として、海外からの研究者にとって、米国は、居心地のよい国ではなくなりつつある。この結果、米国を離れ、別の国での研究の継続を目指す研究者が出ており、先進諸国の間でこうした高度人材の獲得競争が起きている。日本政府が打ち出した政策も、こうした獲得競争の一つと位置づけることができる。
日本には、受け入れ体制がない
人材獲得の面で、世界における日本の位置付けはどうなっているのだろうか。この点について調べてみると、かなり深刻な状況であることがわかる。
スイスの国際経営開発研究所(International Institute for Management Development, IMD)というビジネススクールが実施している「2024年世界人材ランキング」では、日本は67か国・地域中43位に位置づけられている。
この調査は、「投資・育成」、「魅力」、「受け入れ体制」の3項目について、各国・地域を評価している。まず、日本の良い面から見てみよう。
「魅力」の項目では、19位とされている。人材の誘致と維持が最優先事項とされている(2位)点や、経営者の報酬が全体の7位と評価されている。「受け入れ体制」の項目では、15歳を対象とした学習到達度調査の平均スコアが4位となっている。
一方で、「魅力」の評価項目の中では、外国人の高度人材にとっては魅力が低い(56位)とされ、頭脳流出が競争力の阻害要因になっている(43位)とされている。
さらに「受け入れ体制」の項目では、管理職の国際経験が最下位。有能な管理職の確保において65位となっている。語学力については、下から2番目の66位だった。
日本の大学は内向き
研究者に限った同種の調査結果は、見つけることができなかったが、参考となる調査結果は存在する。例えば、ちょっと古いデータではあるが、文部科学省の2017年度「学校基本調査」では、外国人の教員の割合を、世界の有力大学と比較している。
この資料によれば、日本全体で外国人教員の割合は5.7%だが、米国のマサチューセッツ工科大学で56.3%、スタンフォード大学で47.7%と、外国人教員の割合が全体の5割前後を占めている。
J-RISEの発表に合わせて、内閣府が公表した「国際頭脳循環の取組強化に向けて」という説明資料では、「研究者が自らの研究に専念できる環境が世界的な水準に照らして不十分」と指摘している。
たしかに、大学、学部、学科など各レベルの会議や、学生たちの指導、テスト、評価など教育者としての仕事に追われ、研究者としての仕事に取り組む時間がないという問題は、近年よく目にする。また、有力大学と比べて、日本の大学は給料も安いと指摘する調査結果もある。

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