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小島寛明の「規制とテクノロジー」 ― 第24回

プラットフォーマー規制なぜ難しい?

2019年05月28日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 1年前、IT大手4社が、「データ・トランスファー・プロジェクト」(Data Transfer Project)という取り組みを発表した。

 各社が保有する個人のデータを、ダウンロードとアップロードをせずに、別のサービスに直接移転(トランスファー)できるオープンソースの仕組みだ。

 大手4社といってもいわゆるGAFAではなく、GAFAからはGoogleとフェイスブック、その他にマイクロソフトとTwitterが参加している。

 まだ開発中ではあるが、フェイスブックの個人データをGoogle+に直接移し、そのまま別のサービスに乗り換えることができる仕組みと理解していいだろう。と書いてみたものの、Google+は2019年4月にサービスを終了している

 データの囲い込みを防ぐ仕組みを検討してきた経産省、公正取引委員会と総務省のワーキンググループは5月21日、報告書「データの移転・開放等の在り方に関するオプション」を公表した。

 民間企業主導のデータ・トランスファー・プロジェクトに対して、日本政府側の動きは、ユーザーが簡単にデータを移転できる仕組みを官主導で義務化することを視野に入れたものと位置づけられる。

 政府は6月に日本で開かれるG20貿易・デジタル経済大臣会合でも「データ管理の高度化に向けたルールづくり」をめぐる議論を本格化させる考えだ。

●別のサービスへの乗り換えの難しさ

 報告書が示す課題は次のようなものだ。

 SNS、検索、Eコマースなどプラットフォームといってもいろいろあるが、ここではフェイスブックのようなSNSに代表してもらおう。

 SNSはユーザーが多ければ多いほど利便性が増す。プラットフォーマー側はすくなくとも金銭面では無償のサービスを提供して、より多くのユーザーを引きつける。

 SNS側には多くのユーザーが集まれば集まるだけ多くのデータが集まってくる。このデータをもとに広告をはじめとした有償のサービスで収益を上げている。

 こうしたモデルで問題になるのは別のサービスへの乗り換えの難しさだ。

 ユーザーにとっては、現在使っているSNSには「友達」や過去の投稿、チャットのやり取りなどさまざまなデータが保存されている。

 SNSを運用する企業のデータの取り扱いに問題があっても、他のサービスに乗り換えるのは手間がかかり、「友達」との関係が切れてしまうなど不利益があるかもしれない。

 報告書は次のように指摘する。

 「競合事業者がデジタル・プラットフォームを新たに立ち上げても、既存のデジタル・プラットフォームから利用者の移行が見込まれないため、新たなデジタル・プラットフォームの創出の機会が失われ、競争メカニズムが働きにくくなる結果、多少非効率なサービスであっても残存するおそれがある」

 最近、「承認欲求を満たすSNSから、自己実現のSNSへ」など、新しいSNSの立ち上げを目指す動きはあるが、しばらくフェイスブックの優位は揺らぎそうにない現状についての記述と読んでいいだろう。

●参加者が多いほど便利だが、寡占化しやすい

 報告書の背景にあるのは独占禁止法(独禁法)の考え方だろう。

 法律の冒頭にはこんなことが書いてある。企業がフェアで自由な競争をする環境であれば、イノベーションが起こりやすく、利用者にとってもより安価で便利な商品やサービスが生まれやすい。

 実際、特定の市場で独占的な地位を得た企業は「邪悪」になりやすい。

 フェイスブックに対抗する有力なライバルがいれば、ユーザーに逃げられては困るから、個人データの取り扱いも、もっと慎重になるかもしれない。

 報告書が示す対応策のひとつが、次のようなものだ。

 「利用者が、安全・安心にデータを再利用できるようにすることにより、期待されるプライバシー保護やセキュリティの水準を満たすサービスを選択できるようにする必要がある」

 大手4社が主導するデータ・トランスファー・プロジェクトと、政府報告書の目線はほぼ一致している。官主導の動きが強まれば、いまのところ参加していないアップルやアマゾンも取り組みに加わるかもしれない。

 ただ、政府の報告書はすこし弱含みな面がある。

●参加者が多いほど便利だが、寡占化しやすい

 「自己に関するデータを他のデジタル・プラットフォームやサービスに自由に再利用できるようにする場合には、デジタル・プラットフォーマーがサービス向上のための投資インセンティブを過度に失うような形にならないようにする必要がある」

 個人データを簡単に他社のサービスに移転できる「乗り換えやすさ」を優先すると、プラットフォーマー側がサービスを向上させるインセンティブを低下するおそれがあると考えているようだ。

 何をもって「プラットフォーマー」とするか、どんなデータを移転できるようにするかについては、議論が割れるところだろう。

 駆け出しのスタートアップは除外して、ユーザー数や売り上げなど一定以上の規模に達したサービスのみをプラットフォーマーとする案も言及されているが、報告書は「ビジネスモデルの多様性等を踏まえれば、一義的に決めるのは難しいのではないか」としている。

 今回の報告書では、他のサービスに乗り換えやすい仕組みづくりの重要性は強調されているものの、プラットフォーマー側への配慮もうかがえる。

 過度な規制で、イノベーションの阻害要因になったり、日本市場がスルーされる事態は、政府側としても望むところではないだろう。

 さまざまな副作用もあるものの、現在のプラットフォーマーが、多くのイノベーションを生み出しているのも事実だ。

 世界中に事業の領域を広げるプラットフォーマーへの規制は、日本単独で対応しきれる課題ではない。間近に迫ったG20の場で、議論は前に進むだろうか。

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