有力な生成AIであるClaudeを開発・提供するAnthropicが業界で孤立を深めているようだ。
孤立の根拠のひとつとされているのは、2026年7月24日に米国のIT大手各社が公開した連名のレターだ。このレターには、OpenAI、グーグル、メタ、マイクロソフトなどAIを開発する企業や、エヌビディア、AMDといったAIの開発に欠かせない半導体を手がける企業など270社超(8月3日時点)が名を連ねているのだが、Anthropicの名前は見つからない。
7月28日(米国時間)には、米ウォール・ストリート・ジャーナルが、「シリコンバレーでAnthropicへの反発が広がる」という見出しの記事を配信している。
「オープンウェイトと米国のAIリーダーシップ」というタイトルのレターは、オープンウェイトモデルの重要性を主張する内容だ。このオープンウェイトという言葉は耳慣れないかもしれないが、レターはこの言葉を「誰でもダウンロードし、検証し、改変し、自前のインフラ上で動かせるAIモデル」と定義している。
最先端のAIを囲い込まず、幅広く公開していくことで、より高度なモデルが生まれ、競争が促進され、コストの低減やセキュリティの向上、イノベーションにつながる——。レターの主張は、おおざっぱに要約すると上記のようになるだろう。
セキュリティや個人情報の保護、AIの開発や利用をめぐる倫理を重視するAnthropicは、外野からは、レターが主張するオープンソースの理念と効能について、価値観を共有しているようにみえるが、このレターに乗れなかったのはなぜか。
エヌビディアのCEOが呼びかけ人
このレターは、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOがX(旧ツイッター)で署名を呼びかけたものだ。レターは、「競争を萎縮させるようなオープンモデルへの時期尚早な制限を避け、フロンティアを多元的に保つ」ことが必要だと主張する。
この「多元的なフロンティア」という言葉が重要だと思うのだが、この言葉への理解を深めるうえで、現在のAI業界のおおざっぱな構図を押さえておきたい。OpenAIやAnthropicといった企業は、自分たちで「フロンティアAI」を開発する。莫大な資金と計算資源(半導体)を投入して、短期間で次々に優秀なAIを送り出している。これに対して、オープンウェイト勢は、自ら開発したモデルの重み(ウェイト)を公開し、第三者による利用や改良を可能にしている。
OpenAIやグーグルは、ハイブリッドと言えるような戦略を採用していて、有料で提供しているモデルよりは、ちょっと古いモデルをオープンウェイトとして公開している。幅広い企業や研究者に、AIのモデルを公開することで、モデルの改良や研究などが進む可能性があるからだ。これに対して、AnthropicはClaudeのモデルをオープンウェイトとしては公開していない。フアンCEOの呼びかけにAnthropicが加われなかった背景には、こうした戦略の違いが反映されている可能性がある。
連名のレターはまた、蒸留のような正当な技法と、クローズドモデルから不正に価値を引き出す行為とを区別し、後者に対しては、的を絞った法的・商業的枠組みで対処すべきだと主張している。
「蒸留」は、大きくて賢いモデルの知識を、小さいモデルに引き継がせる手法だ。引き継がせる側は「教師モデル」、引き継ぐ側は「生徒モデル」と呼ばれる。
中国のムーンショットAIが7月中旬に公開したモデル「Kimi K3」は、米国のフロンティアモデルに迫る性能を、はるかに低いコストで示したと言われている(同月27日にはモデルの重みも公開され、オープンウェイトモデルとなった)。このKimi K3について、ホワイトハウスの科学技術政策担当高官は、ClaudeのFable 5を教師とする「蒸留」によって開発されたと主張し、財務長官は制裁の可能性に言及している。Anthropicは、この問題の当事者であるだけに、レターに署名しづらい立場にある可能性もある。
いずれにしても、Anthropicはこのレターに署名しなかったことで、次のような批判にさらされている。「蒸留」への制裁を検討する米政府の立場に賛同し、自社のモデルを囲い込むことでビジネスを守ろうとしている——。
AnthropicCEOが批判に反論
Anthropicは7月27日に、オープンウェイトモデルに対する立場を自社のウェブサイトで公表した。ダリオ・アモデイCEOは「オープンウェイトモデルの禁止を主張したことは一度もない」と反論し、「危険な能力を持たないオープンウェイトモデルは公共財である」とした。
そのうえで、アモデイ氏は、以下の3点を求めている。
・強力なチップと半導体製造装置を中国に売らず、密輸を取り締まること
・権威主義国家がチップの入手可能量を超えてAI能力を伸ばすことを可能にする、産業規模の蒸留に対処すること
・十分に能力の高いモデルには、オープンかクローズドかを問わず、サイバー・生物・アラインメントのリスクについて公開前の安全性テストを義務づけること
やはり、蒸留については一定の規制が必要だとの立場であるようだ。アモデイ氏はまた、オープンウェイトモデルが必然的に安全策の開発を容易にするという主張や、能力への幅広いアクセスが攻撃者よりも防御者を利するという主張には同意しないとも述べている。
連名のレターとAnthropicの声明を並べてみると、やはり立場には違いがある。これまで、オープンソースの理念がITのイノベーションを牽引してきたことは疑いがないだろう。
しかし、ひとつだけ考慮すべき事柄がある。米中間の対立だ。米国が有力なAIをオープンウェイトとして公開すれば、中国をはじめとした各国が中身を徹底的に研究し、その成果をサイバー攻撃に使いかねないというリスクだ。
個人的には、オープンソースの可能性を信じたいところだが、一定の規制が必要だとするAnthropicの立場も十分に理解できる。
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