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AWS Summitで振り返った復旧時の“3つの決断”とリスク認識の学び

「逆境を進化に変えよ」 アスクル社長、ランサム被害をバネに進めるAI駆動開発を語る

2026年06月29日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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AI駆動開発の推進で“積年の課題”“重大な局面”を変革

 「逆境を進化に変えよう」――。これは、被害発生から約2週間後に、吉岡氏が全社朝礼で発信したスローガンである。「復旧とは、文字通りに“旧”に戻るだけ。一方で、我々は事業をゼロリセットした。裏を返せば“新しい理想形”が作れる」(吉岡氏)

 こうした考えの下で、アスクルが現在推進しているのがAI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル:AI Driven Development Life Cycle)による“超速創造”である。

 AWSが提唱するAI-DLCとは、開発工程全体に生成AIを組み込む手法だ。AIが計画から各種実行までを担い、人は仮説や意思決定に専念することで、開発期間を劇的に短縮できる。アスクルでは、AWSのAI-DLCを実践するためのコードエージェント「Kiro」を活用して、実際に仮説や意思決定以外の部分をAI主体に変え始めている。

人とAIが共創する意思決定サイクルが築ける

 最初に実践したのは「小さな事例づくり」だ。合宿を開催して、メルマガや広告などの素早く改善できる領域の事例を生み出し、成功の体験値を積んだ。ポイントは、ビジネスサイドとエンジニアが一堂に会して、顔を突き合せながら取り組んだことだ。

小さな事例を積むための合宿を実施

 この小さな成功体験を経て、積年の課題にもAI-DLCを適用した。それは、新商品や天候にあった商品など、「顧客に最適化された商品をいかに早く並べるか」という、小売業の命題「品揃えの高速化」である。

 これを阻んでいたのが、品揃えを担う商品担当者の煩雑で属人化された業務だ。彼らは、物流や営業などの社内の関係者はおろか、社外の仕入先なども含めた“ハブ”となっており、日々、様々な管理ツールを駆使して業務にあたっている。この多忙を極める担当者の中に、暗黙知が閉じ込められていたという。「まさにここをゼロから作り直そうと判断した」と吉岡氏。

商品担当者の煩雑で属人化された業務

 解決方法はシンプルで、「色々な担当者が色々な領域のハブになり、色々なツールを使っているなら、まずはツールを一元化してしまおう」という発想だ。そして、そのツールは、AI-DLCを活用して自分たちにあったものを自分たちで作る。

すべての業務を一元化してやるべきことに注力できるように

 このツールづくりも、合宿同様に、ビジネスサイドとエンジニアが一体となって推進していく。「同じ画面を一緒に見て、AIと壁打ちをしながら、その場で即断即決で進めていく。今まで間に入っていたレビューや待ち時間が激減して、ノウハウはAIに溜まり、暗黙知が形式知として固まっていく。ビジネスとエンジニアの互いの理解も深まり、成長を実感したという現場の声もあった」(吉岡氏)

 こうして商品担当の業務改革をAI-DLCで実施した結果、開発期間は見積の半分である半年にまで短縮され、課題であった商品の掲載(品揃え)のスピードも2倍に高速化できたという。

AI-DLCによる業務改革の成果は劇的だった

 もうひとつのAI-DLCの事例が、Kiroの適用領域を開発の現場以外にも広げ、重大な局面を乗り切った事例だ。

 この重大な局面とは「ナフサ危機」である。同社は、ホルムズ海峡が封鎖されたころから供給不安を予測し、「どのような商品が枯渇するか」「どの業種でどのような商材の需要が生まれるか」といったシミュレーションを試みた。迅速に動けば、供給元と交渉して、流通の目詰まりを避けられるからだ。この提案資料の作成にAI-DLCを適用した。

 その結果、従来2週間かかっていた需要分析から提案作成までの時間が、わずか「3時間」にまで短縮できたという。「嘘だろう、話を盛っただろうと思われるかもしれないが、担当したのは私とマーケターの2人。指示を出して10日かかるだろうと思っていた結果が、すぐに出てきてびっくりした」(吉岡氏)

 この劇的な成果は、従来は人が「需要分析」「世界情勢分析」「商品・顧客特定」「提案資料作成」という順番で“直列”で進め、レビューや手戻りを挟んでいたプロセスを、AIが議論しながらすべて“並列”でこなしてくれたからだ。人は、AI-DLCで構築したメカニズムに話しかけて、最後の判断をするだけで良い。

AI伴走で意思決定を超高速化

 こうして提案までの時間を短縮できたことで、政府が備蓄をしていた医療用グローブやシンナーの直接供給を担当することにつながっているという。

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