このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

スポーツ・医療の運動能力向上に新たな道筋

定説をくつがえすNTTの研究 体が理想通りに動かないのは「筋活動のタイミング」が主因

2026年03月10日 15時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ゴルフのスイングやダーツのスローイングが、頭で思い描いた理想の動きにならない ―― 誰もがそんなもどかしさを覚えたことがあるだろう。こうした人の運動で生じる「ばらつき」は、主に筋活動の「強度」の乱れによって引き起こされると考えられてきた。

 NTTは、2026年3月10日、このばらつきの主因のひとつが「筋活動のタイミングの乱れ」であることを、世界で初めて明らかにしたと発表した。今後は、このタイミングの乱れに着目し、スポーツトレーニングやリハビリ評価における新たな手法の確立を目指すという。本記事では、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の高木敦士氏が語った、本発表の詳細を紹介する。

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 高木敦士氏

筋活動の安定や精度に何が影響? 「3つの運動」から検証

 人が体を動かす際には、脳から筋へと指令が送られ、筋活動が生じる。しかし、この運動には必ず一定のばらつきが生じ、その仕組みは脳の運動制御研究において重要なテーマに位置づけられてきた。

 これまで、この運動のばらつきは「筋活動の強度の乱れ」が主因であるとする仮説が有力だった。

 例えばダーツのスローイングでは、腕を制御するために、脳は肘の主動筋と拮抗筋を切り替えて活動するよう指令を出す。これまでは、脳の指令の強さが変動して、この2つの筋の収縮強度が乱れることで、手先の位置やダーツの軌道がばらつくとされてきた。「しかし近年では、この仮説では説明できない実験結果やシミュレーション結果が報告されていた」と高木氏。

 今回の研究では、脳の指令の「タイミング」が変動して、ダーツで言うところの2つの筋の活動タイミングが乱れることが、運動のばらつきを大きく決定づけることが明らかとなった。この筋活動のタイミングの影響度は、3つの運動による実験で実証されている。

研究の背景

 最初の検証は、「到達運動」におけるばらつきだ。実験の参加者は、ロボットのハンドルを握り、肘を曲げて同じ目標位置までハンドルを動かす運動を、50回繰り返す。そして、肘の動きに関わる主動筋と拮抗筋の活動を計測した。

 その結果、同じ動きを繰り返しているつもりが、試行ごとに到達位置のばらつきが発生。そして筋活動においても、試行ごとに強度やタイミング(ピークに達するまでの時間)に乱れが生じた。この到達位置のばらつきと筋活動の関係を解析した結果、強度の乱れには相関関係はなく、タイミングの乱れが有意に関連していることが明らかになった。

到達運動のばらつき

 2つ目の検証は、「周期運動」におけるばらつきだ。先ほどは単発的な運動であったが、今度は、到達運動とは異なる神経制御で実行される、ドラムを叩くような周期運動にて実験を行っている。

 参加者は、固定されたロボットのハンドルを握り、メトロノームのリズムに合わせて一定の力をハンドルに加える。また、今回は左右の腕それぞれで実施(参加者は全員右利き)、手首・肘・肩の主動筋と拮抗筋の活動を計測している。

 その結果、右手(利き手)に比べて左手(非利き手)の方が、発揮する力のばらつきが多く、この左右の差は、筋活動のタイミングの乱れにも同じ傾向がみられた。そして今回も、発揮する力のばらつきと筋活動の関係は、強度の乱れには相関関係はなく、タイミングの乱れが有意に関連している。「重要なのは、非利き手である左手の方が筋活動のタイミングの乱れが有意に大きかったこと」(高木氏)

周期運動のばらつき

 最後は、「円運動」におけるばらつきだ。一般的に、動作に関わる筋の数が増える複雑な運動ほど、わずかなタイミングのずれが運動のばらつきにつながると考えられる。そこで、周期運動の中でも、多くの筋の協調が必要な円運動に着目した。

 参加者には、スマートフォンで紙上のガイド円の上を、メトロームに合わせてなぞる運動を、左右の腕で繰り返してもらう。こうしてスマートフォンから得られた円運動の加速度軌道のばらつきを比較した。

 その結果、円運動のばらつきは、参加者ごと、また使用する腕によって大きく異なった。そしてその乱れの大きさは、これまでの結果通り、筋活動の強度ではなくタイミングの乱れと関係するという結果が得られている。

円運動のばらつき

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

アクセスランキング

  1. 1位

    ITトピック

    Webサイトのデータベースを狙う攻撃が顕著に増加/情シス担当の半数が転職意向、背後にある変化/AI業務活用、実態は“AIオペレーター”?、ほか

  2. 2位

    デジタル

    ヤマハのRTX1300/RTX840に新ファームウェア、DNSスヌーピングとHTTPS対応で利便性向上

  3. 3位

    デジタル

    ヤマハのWi-Fi 7対応「WLX333」「WLX232」がグッドデザイン賞を受賞

  4. 4位

    sponsored

    国内バックボーンNWを大幅増強したColt 東京-大阪間の低遅延サービスも提供へ

  5. 5位

    TECH

    「手作業での脆弱性管理はやがて破綻する」 日本IBMが示すフロンティアAI時代の自律型セキュリティ

  6. 6位

    ITトピック

    AI利用が多い技術者ほど「自分でコードを書ける能力」も重視/世界の6割近くが「技術進歩が生活を破壊」と回答、ほか

  7. 7位

    sponsored

    kintoneデータを最強のAIコンテキストに MCP活用で変わるAIエージェント開発とデータアクセスレイヤーの重要性

  8. 8位

    sponsored

    販促企画のための“AI壁打ち”で、7万人の会員情報が外部に流出… どうやったら防げた?

  9. 9位

    デジタル

    kintoneで変わったのは業務ではなく「当たり前」―― 超保守的な営業部隊がDX先進組織になるまで

  10. 10位

    ITトピック

    “月面でAI実験”から“スマート養蜂”まで、HPEが技術の広がりを披露

集計期間:
2026年10月14日~2026年10月20日
  • 角川アスキー総合研究所