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INCYBER FORUM JAPAN 2025レポート

消滅した平時と有事の境目。カナダ軍サイバー軍司令官らが語る、ウクライナ戦争からの教訓

2026年02月19日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 2025年12月4日、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワー東京で欧州最大級のサイバーセキュリティイベント「INCYBER FORUM JAPAN 2025」が開催された。生成AIの爆発的な普及や地政学的リスクの高まりを背景に、サイバー攻撃はもはや一企業の課題を超え、国家安全保障の中核を揺るがす脅威となっている。

 イベントではさまざまな専門家が最新のセキュリティについて語るセッションが行われており、今回はその中から「ウクライナ戦争の教訓を考える」と題したパネルセッションのレポートを紹介する。

従来の戦争と「ハイブリッド戦」は何が違うのか?

 2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、重要インフラへの攻撃や情報戦を含む「ハイブリッド戦」が常態化した。平時と有事の境界が曖昧になる中、国家や企業はどう備えるべきか。カナダ軍のサイバー司令官や日本の有識者が、それぞれの視点から議論を交わした。

 パネルディスカッションに登壇したのは、カナダ軍 サイバー軍司令官 デイブ・ヤーカー氏、GMOインターネットグループ グループサイバー防衛事業推進本部「6」本部長 廣恵次郎氏、電通総研 経済安全保障研究センター(DCER)研究主幹 大澤淳氏の3名。モデレーターは日本経済新聞社 政治部 外務省キャップ 甲原潤之介氏が務めた。

カナダ軍の司令官が日本のイベントに登壇するのは珍しい

 冒頭、モデレーターの甲原氏は、ウクライナ侵攻から3年が経過した現在、安全保障の常識がどう変化したのかを問いかけた。

日本経済新聞社 甲原潤之介氏(以下、甲原氏):ウクライナ戦争によって、ハイブリッド戦という言葉が注目されました。これまでの安全保障と何が変わったのでしょうか。

GMOインターネットグループ 廣恵氏(以下、廣恵氏):従来の戦争は「軍人対軍人」でしたが、2014年以降、そして今回の侵攻では「軍人の家族を含む民間人」が巻き込まれています。認知戦などは民間のインフラを使い、民間人も参加する形で行われます。軍人だけでなく民間人が戦いに参加する、あるいは巻き込まれてしまう点がハイブリッド戦の最大の特徴であり、従来との大きな違いです。

カナダ軍 デイブ・ヤーカー氏(以下、ヤーカー氏):我々の期待値、あるいは予測も2022年時点で修正を迫られました。当初はサイバー攻撃によって重要インフラが即座にダウンするといった、壊滅的なインパクトを予想していました。しかし、実際にはそうなりませんでした。それは、ウクライナが2014年から継続してサイバーセキュリティの「レジリエンス(回復力)」を構築してきたからです。ここから得られる教訓は、サイバー空間だけでなく広範なエリアにおいて、いかに強靭なインフラを作れるかが重要だということです。

電通総研 大澤氏(以下、大澤氏):私は「2つの境界線」が消滅したと考えています。1つは「平時と有事の境目」です。サイバー攻撃は平時から行われており、日本でもコンビニ等の決済システム障害など、生活への影響が出ています。もう1つは「国境」です。戦争は当事国同士のものだと思われがちですが、日本がウクライナ支援を表明すればロシアからのサイバー攻撃が増えるように、地理的に離れていてもすでに巻き込まれています。

モデレーターの日本経済新聞社 政治部 外務省キャップ 甲原潤之介氏

カナダ軍 サイバー軍司令官 デイブ・ヤーカー氏

国際連携や官民の信頼構築はどう進めるべき?

 国境や平時の概念がなくなる中、防御側の連携はどうあるべきか。議論は国際的な枠組みや信頼構築へと移った。

甲原氏:今までとは違う状況に対し、国際社会や官民はどう連携していくべきでしょうか。

廣恵氏:やはり国際連携が極めて重要です。サイバー空間に国境は関係ありません。日本政府も力を入れていますが、カナダのようなパートナー国との連携をさらに進める必要があります。

ヤーカー氏:キーワードは「信頼」です。重要インフラの多くは民間セクターに依存しており、政府と民間がいかに信頼を醸成できるかが鍵になります。また、官民(Public-Private)だけでなく、官同士、民同士の連携も必要です。信頼できるパートナーを作るには時間がかかりますから、有事になってからではなく、今から時間を含めて投資していかなければなりません。

大澤氏:国際協調と言っても、全方位は難しいのが現実です。アメリカや日本は戦略の中で、ロシア、中国、北朝鮮、イランなどを明確に脅威として挙げています。特に民主主義の選挙システムや社会の安定を狙った情報戦に対しては、民主主義や自由を重んじる国同士で連携し、抑止していく必要があります。国際社会は分裂しており、我々は団結しなければならない時代に入っています。

GMOインターネットグループ グループサイバー防衛事業推進本部「6」本部長 廣恵次郎氏

電通総研 経済安全保障研究センター(DCER)研究主幹 大澤淳氏

民間企業や個人に求められる役割とは?

 議論の締めくくりとして、政府や軍だけでなく、民間企業や一般個人が具体的にどう行動すべきかに焦点が当てられた。

甲原氏:これから民間の攻撃対象も増えていくと思われます。企業の担当者や個人の役割についてどうお考えですか。

廣恵氏:そもそもサイバー空間は人工的に作られたものであり、その基盤は民間インフラです。自衛隊が専用のサイバー空間を持っているわけではありません。ですので、インフラを担う民間企業との連携、ターゲットになり得る企業との連携、そして人材育成が不可欠です。特に日本に欠けているのは「訓練」です。全国的なサイバー訓練の場や商材がまだ少ないため、ここを官民で強化していく必要があります。

ヤーカー氏:重ねてになりますが、レジリエンス(強靭性・回復力)です。攻撃を完全に防ぐことだけでなく、攻撃を受けても回復できる力を持つことが重要インフラを守る上で最も重要なコンセプトです。レジリエンスは、ステークホルダー全員が関係し、そして責任を持っています。そのパートナーシップが重要なのです。

大澤氏:最後に皆さんへのお土産として、今日からできることをお伝えします。特定の国からの攻撃キャンペーンでは、一般家庭のWi-FiルーターやIoT機器が踏み台にされるケースが多発しています。企業は機器を更新しますが、家庭のルーターは5年、10年そのままということも珍しくありません。IT機器は「生もの」です。古くなったら買い替え、アップデートを適用してください。サイバー空間は、政府や軍、企業だけでなく、個人一人ひとりがセキュリティ環境を良くしていかないと守れません。

甲原氏:とても身につまされるお話でした。ありがとうございました。

 ハイブリッド戦と聞くと遠い世界の話に思えるが、その最前線には実は私たちの家庭用ルーターがあるという話はインパクトがあった。平時なき今、インフラを守るのは政府だけではない。古い機器を更新するといった個人の「小さな備え」の積み重ねが、国の安全を支える時代になったのだ。急速に変化する安全保障と私たちの生活の関わりを、今後も追い続けていきたい

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