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INCYBER FORUM JAPAN 2025レポート

ウクライナで見た現代戦のリアル。日本の防衛産業に必要なサイバー電磁波態勢の総点検と再設計ロードマップ

2026年01月26日 14時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 2025年12月4日、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワー東京で欧州最大級のサイバーセキュリティイベント「INCYBER FORUM JAPAN 2025」が開催された。生成AIの爆発的な普及や地政学的リスクの高まりを背景に、サイバー攻撃はもはや一企業の課題を超え、国家安全保障の中核を揺るがす脅威となっている。

 イベントではさまざまな専門家が最新のセキュリティについて語るセッションが行われており、今回はその中からGMOインターネットグループ株式会社 グループサイバー防衛事業推進本部「6」本部長 廣惠次郎氏による「有事に備える:ウクライナのサイバー戦訓と日本の対策」のレポートを紹介する。

GMOインターネットグループ株式会社 グループサイバー防衛事業推進本部「6」本部長 廣惠次郎氏

 元陸将として陸上自衛隊教育訓練研究本部長を務めた廣惠氏は現在、民間企業の立場から国家貢献を目指す組織「6(シックス)」を率いている。この数字は自衛隊や世界各国の軍隊において通信やサイバー、IT分野を示す共通コードであり、同グループの強い意志が込められている。

 廣惠氏は、現代の戦争において、サイバー空間と電磁波領域の優劣が国家の存亡を左右する事態となっていると警鐘を鳴らし、ウクライナ軍を直接訪問した唯一の元自衛隊将官として、現地で得た生々しい戦訓を語った。

世界初の領域横断作戦が示したサイバーと認知戦が融合する恐怖のシナリオ

 軍事の世界では、戦い方を設計し、組織や装備、訓練へと落とし込む「戦力化プロセス(モダナイゼーションプロセス)」が重要視されている。その中で現在、自衛隊がドクトリンとして掲げているのが「領域横断作戦(マルチドメインオペレーション)」。陸・海・空という従来の物理的な戦場に加え、宇宙、サイバー、電磁波という新たな領域を融合させて戦う概念だ。

自衛隊は6領域を横断して作戦を展開するドクトリンを掲げている

 廣惠氏は、世界で最初にこの領域横断作戦が実戦で行われた事例として、2014年7月にウクライナのドンバス地方ゼレノピリアで発生したロシア軍による攻撃を紹介した。

 当時、ロシア軍はまず、強力な電磁波攻撃によってウクライナ軍の無線機を使用不能に追い込んだ。通信手段を奪われたウクライナ兵たちは、連絡を取り合うために個人の携帯電話を使用せざるを得ない状況に陥る。

 ロシア軍はその携帯電話の電波を傍受し、兵士個人の特定のみならず、その背後にいる家族の連絡先までも割り出した。そして、ロシア軍は兵士の家族に対し、「あなたの息子は戦死した」という偽のメッセージを送信したのだ。

 パニックに陥った家族が一斉に前線の息子たちへ安否確認の電話をかけることで、特定の地域における携帯電話の通信トラフィックが急増する。ロシア軍はこの電波情報の変化をモニターすることで、ウクライナ軍部隊の正確な位置を特定したのだ。携帯電話の傍受してからわずか20分後、ロシア軍による壊滅的な砲撃が行われ、2個小隊が全滅したとされる。

世界初の領域横断作戦を実行したのは2014年のロシア軍だったという

 この事例は、陸上での戦闘に加え、通信を妨害する電磁波戦、情報をハッキングするサイバー戦、そして偽情報で敵を混乱させる認知戦が複雑に絡み合っているのが特徴だ。すでに10年以上前の段階で、これほどまでに洗練されたハイブリッドな攻撃が行われていたのは、現代戦における「領域」の概念を一変させた。ウクライナ軍はこの痛ましい犠牲を通じて、サイバーや電磁波、そして認知戦の重要性を骨身に染みて理解し、その後の国防改革へと繋げていったという。

戦時下で異常な進化を遂げるドローン兵器とAIがもたらす戦場の変容

 2014年の教訓を経て、ウクライナ軍は劇的な進化を遂げていた。2022年2月のロシアによる全面侵攻に際し、多くの専門家が早期の陥落を予想する中でウクライナが善戦した背景には、AIとドローンの徹底的な活用があった。廣惠氏が2020年に現地を訪問した際にはそこまで話題に上らなかったAI技術が、開戦時には実戦配備され、戦況を左右するほどの威力を発揮していたのだ。

「戦争の最中であるにもかかわらず、兵器が驚異的なスピードで進化し続けているのにとても驚きました」と廣惠氏は語った。通常、戦車のような大型装備品が戦争中に大幅な性能向上を果たすことは稀だ。開発には長い年月を要し、運用しながらの改良には限界があるからだ。しかし、ドローンやソフトウェアを中心とした現代の装備体系においては、その常識が通用しない。戦場からのフィードバックが即座に開発へと反映され、次々と新しいバージョンが前線に投入されている。

現代戦の作戦運用はAIの分析とドローンの情報収集が一体化している

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、年間800万機ものドローンが必要だと言及している。この膨大な数のドローンやロボット兵器が戦場を飛び交うようになれば、それらを制御するネットワークの重要性は計り知れない。すべての無人機はIPアドレスを持ち、電波やサイバー空間を通じて指令を受け取る。つまり、AIやロボティクスが高度化すればするほど、その基盤となるサイバー領域および電磁波領域での優位性が不可欠となるのだ。

 もしサイバー空間で敵に侵入され、コントロールを奪われれば、自軍のハイテク兵器が無力化されるどころか、逆に乗っ取られる危険性すらある。電磁波領域で優位に立てなければ、ドローンを飛ばすことさえままならない。テクノロジーが戦場の主役になればなるほど、目に見えない領域での攻防が物理的な勝敗に直結するようになっている。

すべての領域で、AIとロボティクスの重要度が高まっている

日本の防衛に不可欠な官民連携による機能集約と地方分散による抗たん性

 ウクライナの戦訓は、日本の防衛戦略に対しても大きな影響を与えている。廣惠氏は、最終的な勝敗を決定づけるのは依然として地上部隊の配置であるとしながらも、その前提条件が大きく変化したことを指摘した。かつて軍事教育で教えられた「航空優勢」や「海上優勢」に加え、現代では「サイバー優越」と「電磁波優越」が確保できなければ、そもそも戦争自体が成立しない段階に来ているという。

 この新しい現実に日本が適応するために、廣惠氏は「集中と分散」というアプローチを提唱する。まず「集中」については、ドクトリン、訓練、装備、教育といった防衛力の構成要素を、一元的に研究・開発・運用する拠点の創設が必要だという。

 イスラエルのベエルシェバや米国のサイバー軍周辺のエコシステムのように、政府と民間、研究機関が物理的にも近接し、一体となって知見を共有する場が日本にも求められている。特にサイバーや最先端技術の分野では民間の技術力が政府を凌駕することも多いため、官民の垣根を超えた連携は選択肢ではなく必須なのだ。

サイバー・電磁波領域での優越も勝利の必須条件となる

 一方で、強靭性を高めるための「分散」も急務だという。現在の日本の機能は東京に過度に集中しており、有事の際のリスクが高い。ウクライナがサイバー戦においてロシアの猛攻を凌ぎ、持ちこたえているのは、拠点の分散化に成功しているのも一因とされている。彼らは地方に機能を分散させることで、一部が攻撃を受けても全体としてのシステムがダウンしない体制を構築しているのだ。

「東京は結構頑張っていますが、実は地方をもっと強くしなければいけないと思っています。今回、ウクライナはサイバー戦を頑張っていますが、その理由の1つが、この分散なんです」(廣惠氏)

 日本においても、地方都市がサイバー防衛や技術開発の拠点としての役割を担うことで、国全体としての強靭性(レジリエンス)を高めることができる。東京一極集中からの脱却は、経済や人口問題の文脈で語られることが多いが、安全保障の観点からも待ったなしの課題と言えるだろう。

東京集中を改善し、分散化を進めなければならない

脅威の本質を見極め新たな領域での優位性を確立するための国家戦略

 廣惠氏が語るウクライナの事例は、決して対岸の火事ではない。2014年の時点でロシア軍が実行したような、サイバー攻撃と物理攻撃、そして認知戦を組み合わせた攻撃手法は、今後あらゆる紛争で標準的な戦法となるだろう。家族への偽メッセージ送信に象徴されるように、テクノロジーは人間の心の隙すらも攻撃対象とする。AIやドローンの進化は加速の一途をたどり、それらを支えるサイバー・電磁波領域の防衛は、もはや一国の軍隊だけで完結できるものではない。

 日本がこの厳しい安全保障環境の中で平和を守り抜くためには、従来の陸海空という枠組みにとらわれない柔軟な発想と、官民が一体となった総力戦の体制構築が求められる。「集中と分散」による強靭な防衛基盤を作り上げ、サイバー・電磁波領域での優越を確保することが、現代戦を生き抜くために求められているのだ。

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