参加者の平均年齢は「82.5歳」 優勝は“春日井の祓魔師”酒井ヒサ子さん

92歳 vs 95歳が『鉄拳8』でガチ対決!? “ご長寿eスポーツ大会”が海外でも話題に

文●モーダル小嶋 編集●ASCII

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参加者の平均年齢は「82.5歳」

 「92歳と95歳が対戦する」と聞くと、将棋や囲碁を思い浮かべる人が多いかもしれない。ところが今回、話題になっているのは最新格闘ゲーム『鉄拳8』。高齢の参加者同士が真剣勝負を繰り広げ、その光景が「かっこいい」「年齢は関係ない」とSNSを中心に注目を集めている。

 その大会は、一般社団法人ケアeスポーツ協会が11月に開催した「ケアeスポーツカップ2025 TEKKEN8決勝トーナメント」。

 一般社団法人ケアeスポーツ協会は、eスポーツを高年層が明るく健康で活発的な生活を送るための健康増進スポーツとして「ケアeスポーツ」と名付け、高年層が気軽に取り組める環境を整えることを目標に活動している団体だ。

 今回のトーナメントは、ケアeスポーツカップ初の格闘ゲームでの開催。『鉄拳8』で愛知・岐阜・三重の予選を勝ち抜いた8名の参加者が優勝を競うというものだが、参加者の方々の年齢がとにかく高い。

 最年長の参加者は95歳。最年少でも73歳。参加者の平均年齢は「82.5歳」である。この年齢の高さと、その情報から受ける印象にそぐわない高度なプレイングが、海外でも話題になっているのだ。

コンボを決める、相手に有利を押し付ける……
“格闘ゲーム”の操作をしている参加者たち

 激しい戦いを勝ち上がり、優勝したのは酒井ヒサ子さん(92歳)。大会前の一言として残した「優勝トロフィー、いただいていきます」というクールな宣言通りの結果となった。

 なお、酒井さんが操るキャラがイタリア人で悪魔を祓う祓魔師「クラウディオ・セラフィーノ」であることにちなみ、酒井さんは“春日井の祓魔師”と呼ばれているようだ。

 この大会の配信を見ればわかるのだが、参加者は高齢者といっても“格闘ゲームの操作”をしているのが目を引くポイントといえる。

 場面に応じて的確な技を出したり、相手を宙に浮かせてコンボを決めたりといった操作がしっかりできている。特定の技が相手に通る(防御がしづらい)とみるや、そのパターンを何度も押し付けるという、格闘ゲームに特有の展開もたびたび見られた。

 参加者がときおりコントローラーに視線を落とす点にも注目してほしい。格闘ゲームの初心者は、画面のキャラクターの動きだけを見ながら、レバーやボタンをやみくもに動かしがちになる(「レバガチャ」と呼ばれる状態)。

 しかし、本大会の配信を見ていると、参加者が場面に応じてコントローラーに目を落とし、技を出す、コンボを繰り出すために操作すべきボタンを確認している状況が目立つ。

初心者であれば画面のキャラクターの動きだけを見続けそうなところ、コントローラーに目をやって次の操作を確認している様子が多かった

 上級者であれば画面を見ながら複雑な操作ができるわけだが、その域に達していないといえども、冷静に状況を確認しながらキャラクターを操作している様子は立派な「ゲーマー」の姿といえる。

 この大会の配信には、「レベル高くて衝撃を受けた!」「自分も90歳になっても元気にゲームができるかもしれんという希望をもらえるわ」という称賛のコメントが並んでいた。

 また、「This was amazing to see. I hope this spreads amongst senior citizens in other countries. Everyone deserves to partake in something like this after retirement. Everyone.(これは本当にすばらしい光景だった。ほかの国の高齢者のあいだにも、こうした取り組みが広がってほしい。引退後には、誰もがこういう体験をする価値がある。誰もが)」という、日本国外のユーザーからと思しきコメントも見られた。

 本大会は、海外でもSNS経由で話題になっているようだ。一例として、eスポーツやエンターテインメントに関するニュースと動画コンテンツを配信するゲームメディア「Dexerto」は、「A 92-year-old woman in Japan is going viral for winning a Tekken 8 esports tournament, becoming one of the oldest esports event winners ever(日本の92歳の女性が『鉄拳8』のeスポーツ大会で優勝し、史上最高齢クラスのeスポーツ大会優勝者の一人として話題になっている)」と伝えている。

勝っても負けても笑顔を浮かべる“現役”の姿に
勇気をもらった人も多いのでは

 「ゲームに年齢や国境は関係ない」などと言われることがある。コントローラーを操作できれば、年齢に差があっても、言語の違いがあっても、対等の立場で勝負できる可能性がある点がゲームの魅力の一つといえよう。

 昨今の格闘ゲームは、操作のアシスト機能や、視覚情報がなくてもプレイが楽しめる「サウンドアクセシビリティ」機能などで、多くのプレイヤーがなるべく“対等”に戦える環境が配慮されている。

 格ゲーに限らず、ゲームでの対戦は高度な操作や反射神経が求められ、「できる人」だけが楽しめるジャンルだと思われがちだったが、その前提は少しずつ変わりつつある。

 操作を補助する仕組みや、音による情報提示の工夫は、プレイヤーの経験値や身体的条件の差を埋めるためのものだ。

 遊ぶためのハードルを下げつつ、競技としての奥行きを保つ。その両立を模索する姿勢に、現代のゲーム、eスポーツが持つ進化の本質が垣間見える。「ケアeスポーツカップ2025 TEKKEN8決勝トーナメント」は、その進化における一つの好例といえるのではないだろうか。

 楽しそうにプレイし、勝っても負けても笑顔を浮かべる“現役”の参加者の姿に、勇気をもらった人も多いはずだ。ゲームの可能性と魅力を端的に示す大会だけに、海外からも称賛の声が届いたのかもしれない。