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約300kmの距離で「生産設備の高速制御」「AI外観検査」を実現、2027年度以降に商用化へ

製造設備のクラウド制御を可能に NTTと東芝、IOWN APN+クラウド型PLCの実験に成功

2025年11月10日 15時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 NTTと東芝は2025年11月10日、低遅延/低ゆらぎネットワークのIOWN APNと、クラウド型PLC(Programable Logic Controller)の組み合わせにより、約300km離れた生産設備を高速制御する共同実験に成功したことを発表した。「製造業界では初めての成果」としており、2027年度以降の商用サービス化を目指す。

 今回は、低遅延でゆらぎの少ない通信特性を持つIOWN APNを用いることで、従来のインターネット回線では困難だった、制御周期20ミリ秒以内での生産設備の遠隔制御や、ローカル環境と同水準(4fps/250ミリ秒)のAI外観検査時間を実現した。この成果により、PLCや外観検査AIをクラウド化することが可能になり、設備管理工数の削減や複数向上の統合管理など“工場DX”に貢献するとしている。

NTTと東芝による、IOWN APN+クラウド型PLC/画像認識AIを用いた共同実験の結果

NTT IOWNプロダクトデザインセンタ コンピューティングPF推進プロジェクト担当課長の村上祐介氏、東芝 スマートマニュファクチャリング事業部計装技術部計装クラウドサービス技術担当 マネジャーの佐藤光永氏

低遅延/低ゆらぎのIOWN APNが、クラウド型PLCの適用範囲を拡大

 今回の共同実験では、NTTのIOWN APNとRDMAアクセラレーション技術、東芝が開発したクラウド型PLC「Meister Controller Cloud PLCパッケージ typeN1」とクラウド/エッジ間通信技術を活用した。NTTが制御実験系の構築と評価を担当、東芝が産業用コンピュータや制御ソフトウェアの提供と制御周期の評価を行っている。

 NTTのRDMAアクセラレーション技術は、短距離間での大容量/低遅延のデータ転送が可能なRDMA通信を、IOWN APNを用いることで、転送性能を維持したまま中長距離に延伸する技術。また東芝のクラウド型PLCは、独自技術のクラウド-エッジ間通信を用いて、PLCによる制御系システムをクラウド上に構築したものだ。

 東芝では2024年5月、他社に先駆けてクラウド型PLCの提供を開始。従来は工場などのローカル環境に設置されてきた、制御系システムのクラウド移行を進めてきた。ただし、遅延やゆらぎの大きいインターネット回線を用いるならば、その適用先は制御の応答性能に関する制約が比較的ゆるやかな製造ラインに限定されていた。

 東芝 スマートマニュファクチャリング事業部の佐藤光永氏は、適用範囲を自動車や電子機器などの組み立てなどに拡大するためには「20ミリ秒以下の設備制御性能」が求められると説明する。そこで着目したのが、低遅延/低ゆらぎのIOWN APNとの組み合わせであり、共同実験の実施につながった。

今回の共同実験の背景

「生産設備の制御」と「AI外観検査」を遠隔のクラウドから処理

 今回の共同実験では、「生産設備の制御」と「AI外観検査」の2つがクラウドでリモート処理できるかどうかが検証された。

 ひとつめの生産設備制御の実験では、NTT武蔵野開発研究センタ内に、生産設備を模したベルトコンベアを設置。このベルトコンベアとクラウド型PLCを、IOWN APN装置を介した300kmの光ファイバーで接続して、往復の制御処理時間(制御周期)を測定、評価した。

 実験の結果、20ミリ秒以下の制御周期で、ベルトコンベアが発信した信号をクラウド型PLCが受け取り、応答することができたという。

「生産設備制御」の実験概要

 もうひとつのAI外観検査の実験では、ベルトコンベアに設置した市販のRDMA対応カメラで製造物を撮影。この画像を、RDMAアクセラレーターとIOWN APN装置、300kmの光ファイバーを介してGPUサーバーに転送し、AI画像解析で外観検査(良品/不良品の判定)を実施。その結果をクラウド型PLCに送信して、不良品を排除する指示を行い、ベルトコンベアを制御するという、一連の処理時間を測定、評価した。

 こちらの実験でも、業界標準要件である「1設備につき4fps(250ミリ秒)」という短時間でのAI外観検査に成功した。

 NTT IOWNプロダクトデザインセンタの村上祐介氏は、「(AI処理を行う)GPUサーバーは、通常、ベルトコンベアから数メートル以内に設置する前提となっているが、IOWN APNの活用によって、これを長距離に延伸することができた。ローカル環境と同等水準での外観検査が可能になる」と述べた。

「AI外観検査」の実験概要

製造業における「人手不足」「工場DXの遅れ」の課題解消を支援

 共同実験が成功したことで、クラウド型PLCの適用領域が拡大することになる。これにより、PLCの設定情報をリモートからメンテナンスできるようになり、生産ラインの新設や設定変更においても、現地への人員派遣が不要になる。さらに、製造管理者がリモートから複数の工場を同時管理することも可能だ。

 外観検査AIにおいても、クラウド移行によってGPUリソースの効率的な活用、学習させたAIモデルの横展開など、より柔軟な運用が実現でき、複数向上での製造品質の標準化にも貢献するとしている。

 NTTの村上氏は、製造業界における「働き手不足」と「工場DXの遅れ」といった課題を指摘したうえで、「従来は工場現場にPLCが置かれているため、メンテナンスやコントロールに人手がかかるという課題があった。PLCをクラウド化することで、メンテナンス性の向上だけでなく、AIや他の生産システム(MES、ERPなど)との連携も容易になる。日本の製造業を強化するためにも、今回の共同実験の成果は不可欠なものになるだろう」と述べた。今後はPLCや外観検査AIだけでなく、故障予兆AIなどの高度演算処理のクラウド移行も目指すという。

 東芝の佐藤氏は、共同実験で実現可能性が確認でき、クラウド型PLCの適用領域拡大の見込みがついたことから、「今後のクラウド型PLCサービスの普及において、IOWN APNは重要な技術に位置づけていく」と述べた。

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