このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 5 次へ

Intel Tech Tour 2025取材レポート【その3】

Panther LakeのGPU「Xe3」はなぜArc Bシリーズなのか?16コア12Xe版のゲーミング性能は前世代の倍でマルチフレーム生成も発表

2025年10月21日 13時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●ジサトライッペイ/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 インテルの最新モバイルPC向けCPU「Panther Lake(開発コードネーム)」は、2026年の市場投入に向け、同社の北米アリゾナ工場にて大量生産が始まったばかりだ。本稿は2025年9月末〜10月頭にかけてメディア向け内覧会「Intel Tech Tour 2025」(以下、ITT2025と略)にて開示された技術的な資料や展示から、Panther Lakeに搭載しているGPUにフォーカスして解説するものである。

 なお、ASCII.jpでは、Panther Lakeの概要については「インテル復活の狼煙か!? Intel 18AプロセスのPanther Lakeの本格生産がついに始まった」、Panther LakeのCPUアーキテクチャーについては「Tick-Tock戦略の再来?Panther Lakeが前世代から大きく変わらず性能が向上した理由」ですでに解説している。

ITT 2025で展示していたPanther Lakeの開発検証機(Reference Validation Platform)。電源スイッチやデバッグ用のLEDのほかに、仮想化したバッテリーを有効化・無効化するスイッチも備えているようだった

Xe3なのに「Bシリーズ」、最上位以外はXeコア減少の謎

 Panther LakeではGPUにスケーラービリティーとスループットを上乗せ。アーキテクチャーはLunar Lakeの「Xe2」から1世代進化した「Xe3」を採用した。ディスクリート向けの「Arc Bシリーズ」(開発コードネーム:Battlemage、Arc B580や同Pro B50がすでに発売済み)がXe2世代なのだから、Xe3は「Arc Cシリーズ」(開発コードネーム:Celestial)になるのでは? と思っていたがその予想は外れた。

 そして、将来的に登場する「Xe3P」がArc Cシリーズになることを匂わせた。

インテル製GPUのロードマップ。アーキテクチャー的にはディスクリート向けのArc BシリーズとPanther Lakeは異なる世代なのだが、ブランディングは同じArc Bシリーズ扱いである。そして、次のXe3Pで新Arcファミリーになるという

 では、なぜXe3なのにArc Cシリーズを名乗らないのか? インテルのモバイルPC向けGPUのネーミングルールに一貫性がないことは確かだが、内容的にはXe2とXe3の差分はスケーラービリティーの向上とパフォーマンスの最適化という2点に絞られているからである。Panther LakeのCPU設計におけるLion Cove→Cougar Cove、あるいはSkymont→Darkmontの差分が処理の最適化にとどまったように、Xe2とXe3も最適化を優先させたということだ。

スケーラービリティーの向上とパフォーマンスの最適化が、Xe2とXe3の差

 ただし、Xe3ではより多くの回路を詰め込めるようになった。インテルのArc系GPUにおいては、「レンダースライス」と呼ばれるブロックがGPU機能の最小単位であり、モバイルPC向けのGPUでは必要に応じて1基ないし2基組み合わせて製造する。これまではレンダースライスあたりXeコアを4基搭載することが限界だったが、Panther LakeのXe3では最大6基のXeコアを搭載できるようになった。

 レンダースライスあたりXeコア4基という縛りは、Arrow Lake(Xe)やLunar Lake(Xe2)はもとより、ディスクリート向けのArc Bシリーズ(Xe2)でも存在している。Xe3の登場によって、より多くのXeコアを内包する上位GPUの下地ができたわけだ。

Xe2(Lunar Lakeおよびディスクリート向けのArc Bシリーズ)におけるレンダースライス。4基のXeコアと4基のレイトレーシングユニットを格納している

Panther Lakeの内蔵GPUであるXe3では最大6基のXeコアと、6基のレイトレーシングユニットを内包できるようになった

ディスクリート向けのArc Bシリーズ(Xe2)のブロック図。これはArc B580(BMG-G21)のもの。レンダースライスは3基、Xeコアは合計12基搭載しているが、レンダースライスあたりのXeコア数は4基にとどまる

 しかし、ここで思い出して欲しい点がある。それは、Panther LakeのGPUタイルは2種類存在するということ。Panther Lakeの8コア版と16コア版のGPUタイルは、Intel 3プロセス製造でXeコアは4基である。対して、16コア12Xe版のGPUタイルはTSMCのN3Eプロセス製造で、こちらが前述のレンダースライスあたりXeコア6基の設計を使用している。

 さらにいえば、8コア版と16コア版のGPUはレンダースライスが2基あり、各々にXeコア数を2基格納して、GPU全体でXeコアが4基という構成になっている。Lunar Lakeの時はレンダースライス2基でXeコアが4基ずつの全8基という構成だったので、Xeコアの数ではPanther Lakeの8コア版と16コア版はLunar Lakeよりも少ないということになる。

 付け加えるなら、Panther Lakeの8コア版と16コア版のGPU(仮に「4Xe版」と呼ぶことにする)に搭載しているL2キャッシュは4MBだ。これはLunar LakeのGPUの半分(L2キャッシュは8MB)である。16コア12Xe版のGPUの場合、16MBと大きいため、Lunar LakeのGPUとは明確に差別化できるが、4Xe版のほうはLunar Lakeと比べて、果たして性能が良いのか悪いのか予測することは難しい。

Panther Lakeの8コア版と16コア版のGPUはXe3だが、レンダースライス内のXeコアは2基と少ない。L2キャッシュは4MBのため、Lunar LakeのGPUと性能的には大きく改善はしていないと推測できる

Panther Lakeの16コア12Xe版のGPUこそがXe3の真の姿といえる。Xeコアを6基抱えたレンダースライスが2基、合計12基のXeコアを備えるだけでなく、L2キャッシュも16MBに増量している。ディスクリート向けのArc B580のL2キャッシュ(18MB)には負けるが、CPU内蔵GPUとしては大容量なL2キャッシュといってよいだろう

16コア12Xe版のGPUは16MBのL2キャッシュを搭載。これにより、Lunar Lake(L2キャッシュは8MB)と比較し、メモリーのトラフィックが17〜36%減るという。つまり、そのぶんメインメモリーへのアクセスが減るため、消費電力も減るわけだ。では、4MBのL2キャッシュしか持たない8コア版と16コア版はどうなるのか? そのデータは示されなかった

 Panther LakeのGPUでこれほどまでのスペック差をつける理由については明らかにされていない。8コア版と16コア版を4Xe構成に絞ることで消費電力を抑え、より薄型軽量ノートPCに搭載しやすくした。あるいは16コア12Xe版のプレミア感を際立たせるために、下位は4Xe構成にしたというマーケティング的な選択の可能性もある。だが、ネーミングも含めユーザーを混乱させていることは間違いない。

前へ 1 2 3 4 5 次へ

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

  • 角川アスキー総合研究所
ピックアップ

ASCII.jpメール アキバマガジン

デジタル用語辞典