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「Gemini Enterprise」によりOT領域のAIエージェント開発を加速

「フィジカルAI」で世界トップ目指す日立 AIエコシステムとユースケースにみる現在地

2025年10月14日 08時00分更新

文● 大河原克行 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 日立製作所(以下、日立)は、2025年10月10日、Google Cloudとの戦略的アライアンスを拡大し、OT領域の現場を効率化するAIエージェントを開発していくことを発表した。同日開催したAI戦略に関する説明会では、Google Cloudを含むAIエコシステムの現状や「フィジカルAI(Physical AI)」への注力が語られた。

 日立では2025年9月26日、NVIDIAとの連携によって、フィジカルAIソリューションを担う「HMAX」の開発体制を強化。また10月2日には、Open AIとAIインフラ構築やOpenAI技術の活用に関する戦略的パートナーシップも締結している。

 HMAXの受注件数は、2025年9月時点で50件に達しており、2027年度には潜在案件パイプラインで1000件、2030年度には2万件を想定していることも明らかにした。

日立「HMAX」のこれまでの受注と潜在案件パイプライン

「Gemini Enterprise」で現場の課題を解決するAIエージェントの開発環境を

 今回発表された日立とGoogle Cloudとの戦略的提携では、「Gemini Enterprise」を活用することで、フロントラインワーカーの業務変革を加速するAIエージェントを開発していく。

 その第1弾として、日立パワーソリューションズが行う受変電設備の保守作業において、画像比較で人的ミスを自動検出するAIエージェントを試行している。画像撮影などに簡便なAIツールを利用することで、現場作業員が自らタスクを自動化し、顧客の課題に先回りして対応できるようになるという。この成果は今後、HMAXのソリューションとして展開する予定だ。

現場作業員による確認作業をAIエージェントで再現

 ここで用いるGemini Enterpriseは、10月に提供開始された企業向けのAIエージェントの活用・構築基盤だ。AIの専門知識がなくても、ノーコードで特定のタスクを実行するAIエージェントを開発できる点を特徴とする(参考記事:Googleから「Gemini Enterprise」登場 AIエージェントの活用基盤、コーディングエージェントも標準搭載)。

 日立では、AIエージェントの開発環境として、「Agent Factory」を整備しているが、Google Cloudの技術を用いることで、現場の業務や用途にあわせたAIエージェントを、より容易かつ迅速に開発できる環境へと強化可能だ。

Gemini Enterpriseによるフロントラインワーカー向けのエージェント開発

 説明会に出席したグーグル・クラウド・ジャパンのカスタマーエンジニアリング担当 上級執行役員である小池裕幸氏は、「今回の日立の事例は、マルチモーダルAIによるエージェンティックプラットフォーム『Gemini Enterprise』を活用して、目視で判断するような現場の映像をAIに学習させて、エージェント化している。これにより、フロントラインワーカーの作業のミスをなくし、生産性向上に貢献できる。さらに、日立やユーザー企業が持つエージェントなどを一元管理して、ガバナンスを確保しながらの運用が可能だ」と説明した。

グーグル・クラウド・ジャパン カスタマーエンジニアリング担当 上級執行役員 小池裕幸氏

エージェンティックAI×フィジカルAIに“ドメイン知識”をつなげる

 このような「エージェンティックAI(Agentic AI)」に加えて、日立が注力するのが、現実世界の製品・データとAIモデルをつなぐ「フィジカルAI」である。現在、OT領域では、フィジカルAIの広がりが本格化しており、2030年には10倍の市場規模になると予測されているという。

 同社の執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOである細矢良智氏は、「日立は、プロダクトや制御・運用技術(OT)と、システムインテグレーションの経験(IT)を、一社で兼ね備えている稀にみる企業。そして、AI研究でも60年の歴史を持つ。ミッションクリティカルな社会インフラを支え続けてきた長年の経験値と、深いドメイン知識が日立の強みであり、フィジカルAIの時代が始まった今こそ、この強みが発揮できる」と語る。

日立製作所 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEO 細矢良智氏

 同社はこれまで、顧客データから価値を創出するデジタル基盤「Lumada」を提供してきた。この基盤を拡張し、エージェンティックAIとフィジカルAI、同社のドメイン知識を統合した「Lumada 3.0」によって、サステナブルな社会インフラ革新を推進することをAI戦略の基本方針として示した。このLumada 3.0を体現するソリューションとして、2024年11月に投入されたのが「HMAX(エイチマックス)」である。

日立のフィジカルAIを担う「HMAX」

 HMAXは、NVIDIAとの協業によって生まれた「デジタルアセットマネジメントサービス」であり、第一弾として、鉄道分野向けのソリューションを提供している。鉄道にセンサーを搭載し、走行データを収集するとともに、天候データや、部品の摩耗状況などの情報を組み合わせて、最適な部品交換や保守要員の手配などを実現している。

 現在は、HMAXをインダストリー領域にも展開。ビル・ファシリティ管理や工場におけるドメイン知識とフィジカルAIを組み合わせて、現場作業の自動化・半自動化を推進している。

 例えば、日立プラントコンストラクションでは、日立のAIエージェント「Frontline Coordinator - Naivy」を活用し、「リスク危険予知支援システム」を開発。現場の安全性や効率性の向上を実証済みだ。今後、HMAXを支える主要技術として進化させつつ、Naivyを活用したアプリケーションの拡充も図っていく。

Naivyを活用したリスク危険予知支援システム

 また、日立ビルシステムでは、NVIDIAのAI技術を活用し、ウェアラブルカメラ映像をリアルタイム解析して危険行為を検知・警告する「HMAX for Building : BuilMirai」を開発。エレベーターや電源装置の点検業務、広域災害発生時の技術者配置の支援などに活用していく。

 今後は、物流領域において、調達や倉庫、販売などのデジタル空間のデータに、膨大なドメイン知識を組み合わせて、現場ロボットの自律運用や持続的な業務改善につなげていく予定だ。

 同社のAI&ソフトウェアサービスビジネスユニット事業主管である黒川亮氏は、「産業ごとにデジタル化し、データの見える化を進めてきた日立だからこそ、フィジカルAIをゲームチェンジャーと位置づけられる」として、「HMAXにより、日立は、AIトレンドを追いかける側ではなく、つくり、支える一員になる。半導体、メガクラウド、SaaS、スタートアップ、EC事業者などのパートナーとともに、顧客や社会課題の解決、価値創出に取り組む」と意気込みを述べた。

日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット事業主管 黒川亮氏

 また、日立の細矢氏は、「自社での徹底活用を行う“カスタマーゼロ”の取り組みも進め、自らをデジタルセントリック企業に変革することで、日立は『世界トップのフィジカルAIの使い手』になる」と強調した。

 今後は、金融分野などにもHMAXを展開していく予定だ。「HMAXのユースケースを全産業へ拡大し、デジタルセントリック企業への変革を推進する」と黒川氏。

 一方、ビデオメッセージを寄せたNVIDIAのData Center GPU Business担当バイスプレジデントであるヨゲシュ・アグラワル(Yogesh Agrawal)氏は、NVIDIAのAIプラットフォーム「NVIDIA AI Factory」を活用したHMAXのインフラ基盤「AI Factory」について触れた。

 アグラワル氏は、「AIによる変革を真剣に考える企業にはAI Factoryが必要である。一般的な工場は原材料を投入すると完成品ができるが、AI Factoryはエネルギーと企業データを投入すると、デジタルトークンというインテリジェンスを生み出す、新たな産業革命の原動力になる」と語った。

NVIDIA Data Center GPU Business担当バイスプレジデント ヨゲシュ・アグラワル(Yogesh Agrawal)氏

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