ライター柳谷智宣、夢にまで見たケンタッキーバーボンフェスティバルに初参加
世界最大級のバーボン祭り参戦記!飲み続けているうちに幻の「キング・オブ・ケンタッキー」に出会った
2025年10月16日 16時00分更新
幻のバーボンが次々と…! バーボンマニアの自宅で過ごした忘れられない一夜
バーボン愛好家のホームパーティにもお伺いさせてもらいました。松山氏の知人であるルイビル在住のバーボンマニア、スティーブン氏の自宅で秘蔵のバーボンを飲ませてもらったのです。
席に着くなり、古い木製のキャビネットを開き、何でも飲んでよいと言ってくれました。とは言え、中に並んでいるのはなかなか購入できないレアボトルやもう手に入らないお宝ボトルばかり。松山氏に同行させてもらったものの、私は何も手土産も持ってこなかったので、なかなか手を伸ばせませんでした。
見かねたスティーブン氏が出してくれたのが、幻のバーボン「キング・オブ・ケンタッキー」です。しかも、2本。この逸品はブラウン・フォーマン社による、年に一度だけリリースされる超限定のシングルバレル・バーボンです。長期熟成かつカスクストレングスで瓶詰めされ、「フレーバーの爆発」と評されるほど強烈で複雑な味わいです。一時流通では手に入れることは不可能で、二次流通で売られていたとしても数十万円で取引されます。
「あまりに高価で貴重だから、普段は開けるのをためらってしまうんです。でも、仲間と楽しい時間を過ごしていると、「今こそ、この瞬間こそが相応しい」と思えます。最高のバーボンは、最高の夜をさらに特別なものにしてくれるんです」とスティーブン氏。カッコよすぎます。
意外にも、スティーブン氏とバーボンの出会いは理想的なものではなかったそうです。大学時代はバーボンが好きではなかったのですが、バーボン好きのルームメイトと過ごすうちに、少しずつ飲むようになりました。そして、彼が医者を目指してウェストバージニア州のメディカルスクールに通っていた2018年のこと。
「ある時から、特定のバーボンが少しずつ手に入りにくくなっていることに気づいたんです。その希少性というスパイスが加わったことで、俄然興味が湧いてきました」(スティーブン氏)
それから彼は、街の酒店を巡り、さまざまなボトルを探し求めるようになります。単なる飲み物だったバーボンが、知的好奇心と探求心をくすぐる、魅力的な趣味へと変わった瞬間でした。
そして、2020年、スティーブンさんの人生は大きな節目を迎えます。研修医(レジデント)として働く場所を選ぶ際、彼はケンタッキー州ルイビルを選びました。バーボンのために!?と聞くと、もちろん優れた医療教育が受けられることが一番の理由ではあると笑いました。しかし、複数の選択肢から、バーボンの聖地を選ぶのには迷わなかったそうです。
スティーブン氏のコレクションの中でも、特別な思い入れがあるのが「オールド・フォレスター マスターズ・テイスター・シリーズ(MTS)」とのことです。彼が初めてこのシリーズを口にした時、その味わいに衝撃を受けたそうです。
「最初に飲んだMTSは、まるでシロップをかけた焦がしフレンチトーストのようでした。口にするたびに違うフルーツの風味が顔を出す。その複雑さと美味しさに完全に魅了されました」とスティーブン氏。
その一本をきっかけに、彼はMTSの収集を開始。今では製造中止となったこのシリーズを100本近く所有しています。彼にとってMTSは、単なるコレクションを超え「もう手に入らないからこそ、開ける時はいつも特別です。友人たちと分かち合う瞬間のためにあります」と、振る舞ってくれました。
結局、20本以上の絶品ウイスキーを堪能させていただきました。筆者は、やはり、キング・オブ・ケンタッキーのゴールドラベルにもっとも衝撃を受けました。松山氏に一番印象に残ったバーボンを聞いたところ、「ウッドフォードリザーブのサンプルボトル」とのことでした。一体、スティーブン氏はどこから手に入れたのでしょうか。
今回のツアーには、最年少で「マスター・オブ・ウイスキー」の称号を取得した著名なバーテンダーで、新宿ウイスキーサロンのオーナーである静谷和典氏もご一緒しました。彼が選んだのはメンチ切りターキー12年。ワイルドターキーのラベルに描かれている七面鳥が正面を向いているオールドボトルです。こちらも絶品でした。
スティーブンさんにとってバーボンは、希少性を追い求めるコレクターズアイテムであると同時に、人と人との繋がりを深めるための最高のツールでもあるようでした。彼がいつでも最高のボトルを分かち合う準備ができていることには敬意を表します。お店でこれだけのボトルを並べ飲みすることはいくらお金があっても難しいでしょう。とてもいい経験をさせていただきました。
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