エンジニア魂が燃えたぎる!生成AI開発イベント「AI Challenge Day」 第9回
第4回AI Challenge DayはECサイトをAIエージェントで未来にシフト
便利なのに楽しくないネット通販 エンジニアたちが次の買い物体験を真剣に考えてみた
2025年07月18日 13時30分更新
エンジニアたちが切磋琢磨し、競い合うAIコンテスト「AI Challenge Day」。過去最大の12社が集まった第4回では、長らく変わらなかった「ECサイトの顧客体験」をテーマに成果物を披露した。果たして1週間の開発成果や学びはいかに? 未曾有の2.5万字のテキストで、激闘のプレゼンを余すことなくお伝えする。
MCPも解禁 顧客エージェントに商品を買ってもらえるのか?
AI Challenge DayはASCIIと日本マイクロソフトがタッグを組んだ生成AI開発のコンテスト。神戸で開催された第1回を皮切りに、昨年は3回に渡って開催。のべ20社以上の日本マイクロソフトのパートナーが参加し、RAG、マルチモーダル、AIエージェントなどの各テーマで、成果物とスコアを競ってきた。
約半年ぶりとなった4回目は、6月18日に日本マイクロソフトの品川オフィスで開催。過去最大となる12社が参加し、1週間でAIの実装にチャレンジした。イベントの冒頭は、毎度愛のあるテーマで参加者を悩ませて、もとい楽しませてきた花ケ﨑伸祐氏からテーマが説明された。
今回のテーマはECサイトにおける「次世代の顧客体験を提案するアシスタント」で、5つの設問が用意されている。5問のうち4問は、「ECサイトにおける商品の検索体験が長らく変わっていない」という課題感から、次世代検索を実現するためのRAGの精度を競うもの。こちらはAI Challenge Dayが一貫して追及してきたテーマとなる。
そして残りの1問が今回の目玉。「店頭で得られる情報をオンラインでも可能にするハイパーパーソナライゼーション」というテーマで、接客エージェントの実装を競うものだ。具体的には日本マイクロソフトと、審査員としても参加したスキルアップNeXtが共同開発した顧客エージェントに対して、どれだけ購買を促せるかが鍵となる。RAGのみでは高得点をたたき出せないため、自ずとエージェント開発のスキルアップやチャレンジが要求されるわけだ。
ついにお客さまのエージェントまで作ってしまったAI Challenge Day。単に買わせるだけではなく、購入金額、満足度、購入までのターン数など16項目で評価されるため、開発にはさまざまな工夫が必要。しかも用意された顧客エージェントは最初5体だったが、開発期間中に2体追加されたため、難易度はさらに高まった。「けっこうチャレンジングな課題で、みなさま楽しめたのかなと思います」と説明する花ケ﨑氏も半笑いだ。
毎回恒例の“花ケ﨑氏の愛あふれる”データセットの量も過去最大となり、今回はAPIに加えて、いよいよMCPも提供されることに。各チームはこうしたデータやサービスを利用しつつ、出力結果をスコア付けし、得点をプレゼンで披露する。一方で、RAGやエージェントのアーキテクチャは自由に選べるので、チームはさまざまな試行錯誤が可能になっている。審査員紹介や今回のルールが説明された後、昼下がりの日本マイクロソフトのセミナールームで、各社8分ずつのプレゼンがスタートする。
「孤独なEC体験を楽しく創造的に」を掲げたアビームコンサルティング
トップバッターは第2回のAI Challenge Dayでグランプリを獲得しているアビームコンサルティング。今回は普段AIを中心に開発を行なっているメンバー4人と小売業界の知見を持ったプレゼンテーターの小野聖治氏でチームを構成している。
今回の問いを「生成AIとエージェント技術で、検索体験をどう再定義できるか?」と捉えたチーム。従来の検索体験における課題を「キーワード中心の検索のため、探索的な買い物が不向き。偶然の出会いや新しい気づきが得にくい」「スペックやレビューがユーザーの利用用途(用途、目的、制約)に即していないため、製品選定に自信が持てない」「ECでの買い物中に他社の存在を感じられず、信頼性や共感性が低く、購入の確信を得にくい」の3つに分類。「従来の検索体験は、選択の不安や偶発性の欠如などの多くの課題を抱えている」(小野氏)と指摘した。
この課題に対して今回開発したアプリは「探す楽しさを共有するAIアシスタント」をテーマに、買い物を単なる「消費行動」から、相手を想い・選ぶ「創造活動」に行動変容させる。具体的にはAIがユーザーの意図を深掘りし、新たな気づきを提供するインスピレーションフィードを作成。さらにギフトシナリオでプレゼントを贈る相手の活用シーンや提供シナリオを提案したり、SNS上の商品情報を取得し、ライブ感のある口コミを提示することで購買判断を支援。課題である「EC体験の孤独さ」を解消していくという。
チャットベースのUI/UXは「お母さんが息子にマイクラの文房具を探す」というリアルでありそうな実例を披露した。たとえば、マイクラについて知らないお母さんでも、「ドンキーコングが好き」とチャットに投げると、生成AIが特徴を調べてキャラクターを提案。また、プレゼントとしての特別感を演出する方法や商品の口コミも合わせて提示してくれるという。
エージェントのスコアは150.1点。やはり問5のペルソナの部分で苦労した。「購買者の意図を汲み取るべく、ストーリーを考えてみたものの、なかなかスコアが伸びなかった」(小野氏)とのことで、次回はデータのクレンジングを行ない、より精度を高めていきたいという。アーキテクチャは工数短縮のため、Azure AI Foundry Agent Serviceを採用し、検索や接客など役割の異なったエージェントを開発。ただ、セキュリティ面に関しては、手が付けられなかったと振り返る。
AIアシスタントの今後の展望としては「情報収集」から「感情に響く発見」へと進化させる。「人と人のとの間をつなぐ共感アシスタント」「あなたらしい選び方の理解」「探索が生み出すワクワクを、日常に」を掲げ、購買における体験価値そのものを再定義していく抱負を述べ、セッションを終えた。
審査員のマイクロソフトコーポレーション 岡田義史氏は、「誰かになにかを送りたいけど、相手の前提を知らない中で、贈り物を探すのは大変。実際、日本酒を飲まない私が、義理の兄に日本酒を送るとき、決め手になったのは美容師さんとの会話でした。まさにそういう"セレンティピティ”がデジタルの中に埋め込まれたら、もっと日本の良いモノを売っていけると感じながら、聞かせてもらった」とコメントした。

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