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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第831回

Intel 18AはTSMCに対抗できるか? RibbonFET/PowerVIAの可能性と限界 インテル CPUロードマップ

2025年07月07日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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Intel 18AのSRAMはIntel 3と比べて30%以上密度が向上

 次に配線層の話であるが、Intel 18Aでは"direct print EUV"と呼ばれる技法がM0~M4で採用されたことにより、M0~M4の配線層構築に必要なマスク数と手間が大幅に減少した、としている。

PowerVIAを実装の結果、配線層の層数の合計そのものはやや増えるわけだが、一番トランジスタに近いBM0でも160nmピッチと、配線層のM13-14と同等でかなり太いので、実装のコストは相対的にかなり低いから、製造コスト増加の割合はごくわずかだろう

 その配線層のPitchが上の画像だ。Intel 3の時の配線層のPitchと比較すると、そもそもPowerVIAを使う関係で電源供給が裏面に移動しているため、Top Metalがなくなり、代わりにBM0~BM5が追加されている。

 Intel 3における配線層と比較した場合、PowerVIAのお陰で多少配線にゆとりがあるためだろうか? Intel 3ではM5~M6が60nmピッチだったのに対し、Intel 18Aでは80nmとずいぶん緩和された。Intel 3ではM5~M6までローカルのインターコネクトに割り当てていたのが、Intel 18AではM4まででカバーできるようになったということかもしれない。

 そのIntel 3では連載784回で説明したように、M0~M6までがeCU(※)を採用していたが、今回の配線層に関してはこの材質の説明がない。

 ただ80nm Pitchでは別にeCUを採用しなくても利用できる(Intel 3で言えばM7層以上にほぼ等しい)ことを考えると、おそらくeCUはM0~M4までのみに採用されているものと思われる

(※):銅配線の外側にコバルトの薄膜を付けることでエレクトロマイグレーションを抑えるとともに寄生容量や配線抵抗を抑える構造

 またPowerVIAの方であるが、こちらにはOmniMIM Capacitorと呼ばれる新しい構造のコンデンサーが構築されるようになった。

高さを上げればもう少し容量は増やせるだろうが、製造難易度(≒製造コスト)も上がってしまうので、そのあたりのバーターを取ったのだろうか? 構造的には従来の延長のようだ。なぜOmniMIMという名称を付けたのかは不明だ

 以前、10nm SuperFinの世代でSuperMIM Capacitorという埋め込み型コンデンサーを構築していると説明されたが、これがIntel 4では376fF/μm2とほぼ2倍の容量になった。今回はこれをさらに強化して397fF/μm2まで容量を増やした、としている。これは当然電源供給の安定性に直接つながる話である。

 ところで先程から出てきたdirect print EUVの話である。もともとインテルはIntel 4の世代でEUVを使い始めているものの、その利用は極めて限定的という話を連載738回で紹介した。まだ当時のEUV Stepperの習熟度では、全面的にEUVを使うのは厳しかったようである。

 ただFinFETはがんばればSAQPなどで構築できても、RibbonFETはかなりの部分EUVを使わないときれいなRibbonを構築するのは難しい。そこで、がんばってEUV Stepperの習熟度を上げたのだと思われる。そしてある程度使えるようになったら、トランジスタだけでなく配線層(特にM0~M4の微細な配線層)にも使った方が効果的である。

 下の画像がそのdirect print EUVであるが、すべての作業をEUVベースで行なっていることが明らかにされた。もちろんこれはM0~M4までの話で、それ以上の配線層などは別にEUVを使わなくても十分構築できるので、引き続きArF+液浸のままだろうと思われる。

Intel 18Aは、すべての作業をdirect print EUVで行なっている。ということは、Intel 4/3では"Flexible Metal ETE Spacing"と"Bi-Directional Metal Routing"にのみEUV Stepperを使っていたわけだ

 このRibbonFETと配線層を組み合わせることで、Intel 18AのSRAMはIntel 3と比べて30%以上密度を上げられた、としている。Intel 18Aの場合、HCC(高速)型で0.0230μmm2/bit、HDC(高密度)で0.0210μmm2/bitとされる。ただこれが十分か? というと微妙なところである。

Fin/Ribbonの部分が大幅に高さを減じている関係で、3割の面積削減に成功した。逆に言えば、幅は全然変わっていないのがわかる

 TSMCのN2ではSRAMの密度が38.1Mbit/mm2という数字を連載810回で説明したが、数字を並べると下表のようになっている(TSMCの方はおそらく高密度型の数字だろう)。

SRAMの密度
  面積(μm2/bit) 密度(Mbit/mm2)
Intel 3 HCC 0.0300 22.260
Intel 3 HDC 0.0240 27.825
Intel 18A HCC 0.0230 29.035
Intel 18A HDC 0.0210 31.800
TSMC N7(HDC?)   25.0
TSMC N5(HDC?)   32.2
TNSC N3(HDC?)   34.1
TSMC N2(HDC?)   38.1

 Intel 3はTSMC N7よりはマシだがN5にはおよばず、Intel 18AでもTSMCよりやや低い。理由の1つは配線層だろう。TSMCはまだN2のCPPを公開していないが、N3が45nmであることは2022年に発表済であり、N2がこれより大きいとは思えない。CPPを50nm未満にできないあたりがIntel 18Aがそれほど密度を上げられない要因として挙げられるだろう。

 RibbonFETの特性に関して言えば、下の画像がI-V特性であるが、Intel 3の時と比較して、SS(Subthreshold slope)/DIBL(Drain-induced barrier lowering)ともに若干Intel 3より改善されているほか、VGS=0.4Vの時における動作が改善されているように見えるが、肝心の電流値が明示されていないのではっきりと断言はできない。

RibbonFETのI-V特性。Intel 3の時は縦軸(IDSATやID)の目盛りがちゃんと示されていたのだが、今回は省かれてしまったのが残念

 NMOS/PMOSともに4電圧をサポートしているのはIntel 3に同じだが、電圧そのものはより低くなっており、より効率的に動作するようだ

NMOSは0.2~0.4Vが0.1~0.3Vに、PMOSは-0.25~-0.45Vだったのが-0.15~-0.3Vに、それぞれしきい値が下がっている

 あとSource/Drainの接点部の接続方法を改良した結果、動作周波数が7%向上したという。

おそらく寄生容量も抵抗もそれぞれ若干の改善があり、トータルすると周波数換算で7%の向上につながるのだろう

 それとSRAMに関してはNBL(Negative Bit Lane) write assistという機構をオプションで用意しており、これを利用すると70mVほど動作電圧を下げることも可能としている。

NBL write assistそのものはIntel 18Aで初めてではなく、すでに広く知られた技術である。HCCで大きくVminを下げられるのはわかったが、HDCの場合はどの程度の効果があるのだろう?

 最後に信頼性についてだが、1000時間のHTOL(High Temperature Operating Life:高温動作寿命)テストを終えた後も、EOLとなるゴールにまだ100mVほどのマージンが残されており、十分実用に耐えるとしている。それと配線およびVIAの抵抗が低減されたことにも言及した。

HTOLにもいろいろテストがあるが、劣化するとSRAMの動作がおかしくなったりする。グラフで言えば、灰色がテスト前、青がテスト後で、確かに若干劣化の傾向はあるが、全体としては大きな問題になるほどの劣化ではなく、99.5%のセルが動作するVminの値に変化がないというあたりは、要求される信頼性を満たしているとはいえる

"introduction of improved metals and ILDs and liners"という書き方からすると、配線あるいは絶縁層の材質や構造の改善もあるらしいが、詳細は未公開。VIAの抵抗が随分減っているが、タングステンから他の材料に変えた、というわけでもなさそう

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