ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第831回
Intel 18AはTSMCに対抗できるか? RibbonFET/PowerVIAの可能性と限界 インテル CPUロードマップ
2025年07月07日 12時00分更新
今回から数回に分けて、6月8日から6月12日まで京都で開催されたVLSIシンポジウム(Symposium on VLSI Technology and Circuits)における発表を説明していく。もっとも5日間といっても初日はワークショップ、2日目は短期講習に費やされており、実質3日間となる。
まず初回はTechnical Session T1-1として真っ先に開催された、Intel 18Aに関する発表(Intel 18A Platform Technology Featuring RibbonFET (GAA) and PowerVia for Advanced High-Performance Computing)について解説したい。
Intel 18AはRibbonを積み重ねてCell Libraryを小型化
配線密度はIntel 4/3世代と大きく変わらない
Intel 3に関してはその内部構造を含めて連載784回で説明した。一方Intel 18Aに関しては今年4月のIntel Foundry Direct Connect 2025で若干の性能プレビューが示された程度でしかなかったのだが、今回わりと細かく詳細が公開された。
まずIntel 18Aには複数の派生型があるという話は以前のロードマップでも出ていたが、基本となるのがIntel 18Aで、Intel 18A-Pはその性能改良型、そこにFoveros Direct 3D対応を追加したのがIntel 18A-PTという形になる。ちなみにRibbonFETとPowerVIAことBSPDNはIntel 18Aで標準搭載される技術となる。
Intel 18A-Pが"mobileとAI、HPCをターゲット"と書いてある時点で、性能を優先して駆動電圧と動作周波数を引き上げたものではない(AI/HPCはともかくモバイル向けにこの方法は適さない)ことはわかる
そのIntel 18AをIntel 3と比較した動作周波数/消費電力の比較が下の画像である。
Intel 18AをIntel 3と比較した動作周波数/消費電力の比較。もっともこれはArmのCore(おそらくCortex-A715だろう)を使っての比較なので、x86で同じだけの効果が得られるかはまた別だ
4月における説明では、Perf/WがIntel 3と比較して15%以上向上するという話であったが、0.65V付近でも18%、1.1Vでは25%の動作周波数向上が期待でき、逆に動作周波数一定なら36~38%の消費電力削減が期待できるというなかなかの優れものであるとされる。
もう1つ、Chip Densityが1.3倍という数字も示されていたが、その根拠が下の画像だ。
左側のグラフ、よく見るとIntel 3のArea Sizeは5つ、Intel 18Aの方は7つになっているのがわかる。つまり、PPA Optimizationといっても速度が低い時にはそこまで最適化された構造に違いが出ない。ただIntel 18Aの方はかなり細かくArea Sizeが変わるあたり、けっこうPPA Optimizationの影響がありそうだ
複数のターゲット周波数に向けて最適化した結果を比較すると、平均して39%ほどエリア面積が小さく、また利用効率も向上しているとする。加えて電圧降下(Voltage Droop)もずっと少なくなっていることが右側に示されているが、これはRibbonFETや微細化された配線よりもPowerVIAが効果的に作用しているとしている。利用効率も、PowerVIAを使うことで配線層にゆとりが生まれ、結果として8~10%の効率向上につながったそうだ。
上の画像はCell Libraryの比較である。Intel 7→Intel 4の時がこれ、Intel 4→Intel 3の時がこれである。この中でCPP(Contacted Poly Pitch)は実はIntel 4/3/18Aが50nmと共通のままである。
一方のFin Pitchに関しては、Intel 7が34nm、Intel 4/3が30nmとなっているのだが、Intel 18AではそもそもFin Pitchがない(Finがないのだから数字を示しようがない)。ただM0 Pitchで比較するとIntel 7が40nm、Intel 4/3が30nm、Intel 18Aが32nmであることから考えて、おおむね同等と考えていい。
要するに1 FinのIntel 4/3とIntel 18Aはほぼ同等の実装密度を実現できていることになる。Cell Library全体で言えばIntel 7が408nm、Intel 4/3が240/210nmなので、180/160nmでけっこう大きな密度上昇となる。
なぜこれが可能かと言えば、Intel 4/3ではFinの数を増やして特性を変えている(上の画像でHPはFinが3つ、HCはFinが2つ)のに対し、Intel 18AではRibbonをZ軸方向に積み重ねて特性を変えている(ついでにRibbonの幅も変えている)から、結果としてFinFET世代よりCell Libraryを小型化できることに起因する。逆に言えば、配線密度そのものはIntel 4/3世代と大きく変わらないこともここから明らかになった格好だ。
この性能調整に関するスライドが下の画像だ。Ribbonの枚数、それとRibbonの幅を160Hと180H、両方のライブラリー向けに複数用意しており、必要とする特性によって選べる仕組みになっている。
Ribbonの幅についてはそこまで自由に変えられるわけでもないだろうが、160Hなり180Hの中に収められる形で複数(おそらく2~3種類)用意されているものと思われる。あまり種類が多すぎても最適化に時間が掛かるだけだからだ。

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