中国のスタンプ文化はパンダ+ジャッキー・チュンで始まった
その流れの中で花澤香菜さんも中国のネットで人気に
中国のステッカー(スタンプ)は、そのメッセージ性からLINEのスタンプのようであり、また以前は2ちゃんねるのAA(アスキーアート)的な感覚で使われた。
歴史を振り返ると、現在は「騰訊(Tencent)」のWeChatでよく使われているが、同社のインスタントメッセンジャーのQQでは2007年頃に使われたのがその始めとされている。
ちなみにQQは2000年前後に最初に中国でのパソコン普及を牽引したキラーサービスで、ICQに似せたUIでスタートした。2008年頃には米国の4chanで2007年に誕生した「Rage Comic(中国語で暴走漫画)」が、米国の「Reddit」で広まり、さらに中国に伝播しQQやブログや各種掲示板で見るようになった。
2009年頃には様々な人が教科書に出てきそうな中世の偉人などのイラストをベースに顔の表情だけを変えてメッセージを付けたスタンプが出回り、1つの主流となる。
ここで香港映画の「いますぐ抱きしめたい(1988年)」に出てくる「張学友(ジャッキー・チュン、香港の人気歌手)」が罵声を浴びせた1シーンがネットで大受けし、パンダをベースに中だけジャッキー・チュンにした画像が一気に広がる。それ以降ジャッキー・チュンの表情のパンダは、2ちゃんねるでいうところのモナーのような定番中の定番のキャラクターとして、現在まで使われ続ける。
このヒットの応用形として、ほかにも有名人が味のある表情をした瞬間を切り取ってスタンプ化される動きもあった。たとえば、声優で中国でも大人気の花澤香菜さんが日本のテレビ番組で爆笑したところを切り取られ、そこに天気予報の字幕で兵庫北と書かれていたことから、花澤香菜さんは中国でなぜか「兵庫北」と呼ばれるように。
そして、長身の中国バスケットボール選手のヤオ・ミンさんと韓国の俳優チェ・ソングクさんのそれぞれの爆笑顔をあわせて表情三巨頭として紹介され、一時期はよく中国のネット上で見た。
そんな感じで、番組の1カットをとったスタンプが定番となるが、別の流れで中高年の間で出し合う花や花火が開き美女が登場する動画GIFスタンプや、4chanやRedditからの流れで犬のDogeスタンプが人気に。日本系ではクレヨンしんちゃんやウルトラマンといったクラシックなコンテンツから、ジョジョの奇妙な冒険や最近のSPY×FAMILYまで多様なコンテンツの瞬間が切り取られてスタンプになっている。
もちろん仕事上で交わすような無難なスタンプも多くある。ただ中国で人気になるスタンプはあげたような意識が低い系のものとなっている。いらすとやのスタンプもこのような流れから「仕事がつらい」「生活しんどい」など自虐系のメッセージが付加された勝手に作られたものが多いのだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)

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