IoT/M2M分野に向けた通信デバイスをサービス化
累計100万台販売の通信端末を手がける富士ソフトがソラコムに注目する理由
個人・法人向けにUSBドングルやモバイルルーターなどのSIMフリー通信端末を手がける富士ソフト。最近ではIoT/M2M市場に向けた製品投入やデバイス・通信管理を実現するサービスの提供にも注力している。同社のプロダクト事業本部 M2M事業部に通信・IoTの事業と、IoTプラットフォームを提供するソラコムとのアライアンスへの期待を聞いた。
5G対応モバイルルーター、M2Mルーター、USBドングルなど多彩な製品展開
シリーズ累計販売実績100万台を超えるマルチキャリア対応のSIMフリー通信端末「+Fシリーズ」を手がける富士ソフト。国内でMVNO事業がスタートした2009年からUSBドングルを提供しはじめ、その後モバイルルーター、M2Mルーターなど商材を拡大している。
昨年発売されたモバイルルーター「+F FS050W」は5Gに対応し、物理SIMと8つのeSIMプロファイルに対応するなかなか尖った製品だ。本体にディスプレイを搭載しているので、SIMの切り替えも容易。マルチキャリア対応で、個人向けでも利用可能だが、法人での利用も多い。
また1月に発表されたM2Mルーター「+F FS010M」は、-20~60度という使用温度範囲を誇る堅牢性の高いルーター。マルチキャリアのパブリックLTEに加え、sXGPや地域BWAといったプライベートLTEにも対応。固定回線とモバイル回線の冗長化も可能で、リモートメンテナンスにも対応する。
M2MやIoTでの採用が多いのは実績の高いUSBドングルだ。当初はPC利用を前提としていたが、現在はPC以外の利用が半数以上を占める。たとえば、有線WAN回線のバックアップとしての用途やアミューズメント施設のゲーム機やプリクラ、金融機関のATM、サイネージ、POSレジなど実に幅広い。
具体的な事例としては、製造業での導入が多いパトライト社の信号灯やエッジAIを搭載したAIカメラ「メバル」のネットワーク対応に採用されている。また、ヤマハをはじめとしたルーターでは、バックアップ回線やリモートメンテナンスのための手段としてUSBドングルが富士ソフトのUSBドングルが認定されている。プロダクト事業本部 M2M事業部 デバイス開発グループ 主任 千葉 健史氏は、「USBドングルを販売している会社はすでに多くないため、外付けで対応したいという場合に声がかかることも多いですね」(千葉氏)という。
「モノ売りからコト売りへ」に向け、通信とデバイスの管理サービスを拡充
グループ全体で1万人以上の技術者を擁する富士ソフトに依頼されるIoT案件は、規模も大きい。九州地区では監視カメラとAWSをつなぐような大規模なIoTの取り組みや、関西・中部地区では工場のPLC機器からデータを収集するインテグレーションの案件などがある。一方で、今回取材したM2M事業部は通信の切り口にIoTをサービス化していく役割を担っているという。
富士ソフトプロダクト事業本部 M2M事業部 戦略企画グループ 課長の藤原 章裕氏は、「弊社では『モノ売りからコト売りへ』と言われていますが、われわれのデバイスのサービス化を目論んでいます」と語る。この構想の先兵となるのが、昨年夏に発表されたモバイルデバイスやIoT機器、回線などの管理・制御を可能にする「+F MDM LiNK」だ。
+F MDM LiNKはWebブラウザから管理デバイスの台数、通信量、コスト、ファームウェアバージョンなどを可視化し、制御まで可能。「遠隔からデバイス、その先につながっているデバイスまで操作できます。人件費にもかかるので、リモートメンテナンスができるのは大きなメリットです」と藤原氏は語る。
現在はモバイルルーター+F FS050Wに対応しているが、今後対応デバイスは順次拡大していくという。また、自社製品のみならず、パートナーとの連携も推進し、他社のデバイスや回線などに管理対象を拡げ、統合したプラットフォームとして提供する計画だ。
ソラコムのスタンスやユニークなAPI、顧客へのリーチに高い期待
マルチキャリア対応が特徴となっている富士ソフトのデバイスだが、IoTプラットフォームを展開しているソラコムとの連携も進めている。
たとえば、+F FS010GというGPSトラッカーではソラコムのSIMを採用。71gという軽量なGPSトラッカーで、導入した自治体は子供の見守りに提供しているという。また、+F FS050Wでも、ソラコムのeSIMを搭載することで、リモートでのアクティベーションが可能。今後は、M2MルーターにもソラコムのSIMを搭載していく予定だという。
アライアンスや連携という観点では、まだ手探りという状態だが、富士ソフトのソラコムへの期待は高い。藤原氏は、「ソラコムさんは一人勝ちしようというより、業界全体で盛り上げていこうというスタンスが強いので、これは引き続きおねがいしたい。あと、回線側でやるべきこと、デバイス側でやるべきことの区分けがあるので、相互に連携していいものを作りたい。iSIMのような先進的な取り組みについても、ぜひお声がけいただければ」と語る。
千葉氏は、「ソラコムさんの通信プランは細かく設定できるので、IoTやわれわれのデバイスとの組み合わせで相性がいい。あと、基地局のセルIDから位置を特定できるAPIとか、けっこうユニークなことをやられている。そういったソラコムさんのAPIと、われわれのデバイスの尖った機能と組み合わせて、面白いサービスを作ってみたい」と語る。
ソラコムのデバイスパートナーとして富士ソフトが掲載されていることで、国内はもとより、海外からの問い合わせもあるという。デバイスに強みを持つ富士ソフトと、通信とクラウドの統合をリードするソラコムとの連携は、新しいサービスの予感しかない。