遊食 ! 東日本 第6回

意外だけれど秋田×アートが超楽しい!!絶対旅程に組み込むべき2つ美術館めぐり【秋田市の旅#1―アート編】

文●風都ナツメ マップ●フジマキ容子

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 意外な名物から興味を引く観光スポットまで、東日本にはまだ知られていない魅力がたくさん。実際につなぐ旅編集部が東日本の市町村を訪れて、「ワクワクする」シーンを体験レポートします。今回は秋田県秋田市の旅の様子をお届けします!

 秋田といえば、きりたんぽに稲庭うどん、秋田犬になまはげ様、竿燈まつり、そしておいしいお米とお酒! その昔、仕事で角館エリアと男鹿エリアに行ったことはありますが、秋田市は初めて。また、車でしか移動したことがなかったので秋田新幹線に乗るのも初めて、というお初尽くしで楽しみな旅です。今回は伝統編、グルメ編の3本立てでレポートしますよ!

伝統編はこちらから、グルメ編はこちらから)

秋田新幹線の動きがちょっと意外!?

 今回は秋田市の中心部にある秋田駅に向かいます。大宮から秋田までは新幹線「こまち」で約3時間半。私が乗った新幹線は平日朝9時頃ということで車内はビジネスマンが多めでした。  驚いたのは、大曲駅でスイッチバックする点。大曲駅から秋田駅までは進行方向が逆向きになるんです。箱根登山鉄道などでは体験していましたが、新幹線でのスイッチバックは初体験でした。

夏休み期間だったので帰省客らしき人の姿も

きれいな構内ではドデカ秋田犬や竿燈、なまはげ様がお出迎え

写真左側が駅で、写真右側が繁華街。駅と繁華街方面は大きなアーケードでつながっています

正面が駅。アーケードのおかげで雨や雪が降っても歩きやすそう

実はアートな街、秋田市

 秋田市は駅前から徒歩15分圏内に観光スポットやグルメスポットがギュッと詰まっています。そのうち、ちょっとめずらしいのが「美術館」の存在ではないでしょうか。駅から徒歩5分の距離に「秋田市立千秋美術館」が、同様に徒歩10分の距離に「秋田県立美術館」があり、気軽に美術館をはしごすることができるんです。普通の美術館は街の繁華街から少し外れたところにある印象ですし、県立と市立の両方が近距離にあるのもめずらしい。

 そもそも、秋田駅前がどことなくアートな感じがします。駅前のきれいな芝生では寝転んでのんびりする人の姿も見られ、「何もしなくてもいい時間」を楽しめそう。人の滞留を意識したデザインなのかなと感じました。

駅前に広がる芝生のようなエリア

キュートなモニュメントも。撮影した夕方の時間帯は、芝生やベンチで帰宅途中の学生たちがのんびりしている姿が見られました

藤田嗣治の絵画と建物のデザインが楽しめる美術館

 駅前散策を堪能したところで、まずは秋田県立美術館に行くことに。私はそれほど美術に詳しくありませんが、ここにレオナール・フジタこと画家の藤田嗣治の絵が飾られていると聞いていて、ちょっと興味があったんですよね。なぜ私がレオナール・フジタを知っているのかというと、昔読んだマンガに出てきたから。と、記憶していたのですが、改めて調べたところ、そのマンガには出てきていなかったことが判明しました。何のマンガだったかな…

建築家の安藤忠雄氏が設計。コンクリート打ちっぱなしのかっこいいデザイン

ぐるっと半周すると入口があります

 秋田県立美術館が2013年に現在の場所に移転し、幅20m余にも及ぶ巨大な絵画「秋田の行事」(画・藤田嗣治)をはじめとする、公益財団法人平野政吉美術財団の所蔵作品が展示されています。残念ながら作品の撮影は不可だったのですが、絵に詳しくない私が見ても「秋田の行事」の迫力はすごかった。あまりの迫力に20分くらい絵を見ていたと思います。2階からも鑑賞できる作りになっていて、作品を近くから見るのと遠くから見るのでは印象も結構違うので、ぜひ見てほしい! このために秋田に来るべきと思えるくらい、一見の価値ありです。

ミュージアムショップにあった「秋田の行事」のレプリカ(特別に写真撮影の許可をいただきました)

 藤田氏は「三角形」のモチーフが好きだったそうで、秋田県立美術館内にもあちこちに三角形モチーフが隠されています。

美しい螺旋階段が印象的なエントランスホール。天井の明かり取り用窓に三角形が

天井にライトで三角形が描かれたミュージアムラウンジ

移転前の県立美術館がこちら。三角形っぽいユニークな形の屋根は藤田氏が考えたんだそう。こちらは現在「秋田市文化創造館」という施設として営業中

 絵画以外にぜひ見てほしいのが、ミュージアムラウンジから望む「水庭」。水庭に周囲の景色が鏡のように反射して、とてもきれいなんです。今回案内してくれた総務課長の中川卓さんは「水際の水面と、向かい側にある千秋公園の堀がつながって見えるんです。私はツツジが咲く春や紅葉の時期が好きですね」と教えてくれました。水面もその向こうもカラフルな色が広がって見ごたえがありそう!

ガラスの透明度が高く、撮影しながら水に落ちるんじゃないかと思ったほど

この窓ガラスを外して「秋田の行事」を搬入したんだそう。そのくらい大きい絵なんです

 企画展や特別展も行われており、私が行ったタイミングでは「深堀隆介展 水面のゆらぎの中へ」が開催されていました。升の中に金魚を閉じ込めた作品でなど知られており、みなさんもどこかで一度は見たことがあるのでは。

最新作の展示エリア

金魚が住む空間をそのまま切り取ったみたい。畳の上にも金魚が泳いでいます

 中川さんは「こういうポップな企画展や特別展を開くことで、“美術館に足を運ぶ”ことへのハードルが低くなるといいなと思っています。芸術って難しいと思われがちですが、そんなに考えすぎることなく楽しんでいただけたら」と話してくれました。私もまさにそう! ハードルが高いと思っていましたが、足を運ぶと意外と面白くて、今度は別の美術館にも行ってみたくなりました。

秋田県立美術館
住所:秋田県秋田市中通1丁目4-2
HP:https://www.akita-museum-of-art.jp/index.htm

美術館なのになんだか雰囲気もグッズもおしゃれで可愛いのだが?!

 秋田市立千秋美術館は2024年6月にリニューアルしたばかり。学芸員の米山茉未さん曰く、「作品を美しく見せられるようにさまざまな工夫を取り入れた」んだそう。その一つが展示用のガラスケースです。

これ、ガラス越しに作品を撮影してるんですよ。まるで目の前にあるみたいじゃないですか?(企画展「イッタラ展」より。現在は会期終了。9月14日(土)から11月10日(日)まで企画展「生誕120周年 サルバドール・ダリ -天才の秘密-」が開催)

ガラスケースの透明度が高すぎて、展示物との距離感が分からなくなって頭をぶつけそうになった

 秋田市立千秋美術館には、画家・岡田謙三の作品を常設展示する記念館も併設されています。岡田氏はパリで藤田嗣治と知り合い、交流を深めていたのだとか。岡田氏が亡くなった際、「藤田氏の作品のそばに自分の作品があれば夫も喜ぶだろう」ということで岡田夫人から寄贈された経緯があるそうで、意外なつながりにびっくり。2人が亡くなった今もそれぞれの作品はすぐそばにあるなんて、なんだかロマンチックです。

岡田氏の作品。右側から見ていくと、作風の変化の流れを感じることができます

初期は結構写実的な感じ

渡米以降、作品はどんどん抽象的になっていきます(私の印象)

パステルカラーっぽい色使いがすてき。デザインとして見てしまう

 秋田蘭画のコーナーも面白い。小さな展示ブースに、月替わりで1点だけ作品が飾られるんです。秋田蘭画とは、8代目藩主の佐竹義敦と藩士の小田野直武らが西洋画法を学んで描いたもの。そんな作品とあって希少感がありますし、「小さなブースに1点だけ展示」というシチュエーションが手伝ってじっくり作品に向き合える気がします。

隠し扉の向こうに小さな部屋が

取材時に展示されていた「紅蓮図」(佐竹曙山)

 また美術館1階にあるタブレットでは、動植物の写生図がたくさん収められた「佐竹曙山 写生帖」の全ページを楽しむことができます。「みなさんあまり気付かないようなのですが、ぜひ見てほしい」と米山さんも言っていたので、美術館に足を運んだ際にはぜひ! 全長30メートルの「秋田街道絵巻」も必見です。

指で作品を拡大して隅々まで見ることができます。イマドキだ

 目を引くのがミュージアムショップのオリジナルグッズ。ビームスのユニフォームブランド「Uniform Circus BEAMS」が製作していて、美術館のロゴを使ったTシャツやトートバッグなど、どれもおしゃれ!

米山さんイチオシのTシャツ(4,400円 ※税込)

さりげないタグがセンス良い

トートバッグ(2,200円 ※税込)は普段使いにも良さそう

秋田市立千秋美術館
住所:秋田県秋田市中通2丁目3-8 アトリオン1階
HP:https://www.city.akita.lg.jp/kanko/kanrenshisetsu/1003643/index.html

「アートを楽しむ旅」の魅力に目覚めたかもしれない!

 秋田といえば竿燈まつりなど伝統的な行事や、きりたんぽなどのソウルフードというイメージがありましたが、まさかアート鑑賞の面白さに目覚めるとは。いきなり意外な魅力を見せてくれる秋田、まだまだ掘り下げ甲斐がありそうです。

伝統編はこちらから、グルメ編はこちらから)

ちょうどハスのシーズン。両美術館の向かいにある千秋公園の堀がとてもきれいでした