【対談後編】マカフィー栗山憲子社長×ITジャーナリスト高橋暁子氏
AIは自転車。転んだときのためにセキュリティという名のヘルメットを被れば良い
2024年12月26日 11時00分更新
最近のゲーム環境はリスクだが、怖がってばかりではいけない
栗山 お子さんは、親御さんが見ていないところでもPCゲームをプレイすることが多いようです。しかも最近のゲームは対戦型や協力型が少なくありません。
高橋 圧倒的にオンラインプレイですね。
栗山 結果、顔が見えない&ニックネームで活動することが当たり前の世界であることを悪用する詐欺師たちがウヨウヨしています。特にアカウントを乗っ取ってプラットホーム内で使えるポイントやコインを奪う手口が盛んです。しかもイタチごっこなので、次から次へと新しい手口が生み出されている状況です。
つまり、子どもたちは果てしないリスクのただ中にいるとも言えるわけですが、それでも私はあまり怖がってほしくないのです。
高橋 はい。もっとネットを使ってほしいですよね。楽しんで便利にね。
栗山 ですから啓蒙活動しつつ、セキュリティ対策製品は安全装置として導入してみてくださいね、というようなお話をしていきたいと考えています。
―― となると、セキュリティ対策製品はこれまで以上に「いつのまにか裏側で自動的に動いている」というのが理想ですね。
高橋 怖いから止めさせるのではなく、便利なのだから使わせるほうが良いのです。ただし、「リスクを知って上手に使いましょう、自信なければ対策ツールを導入しておいてね」と。
「高齢者が高齢者を介護する」日本にAIは必須
―― 先ほど「学生よりもリテラシーが怪しい親世代に、自身の親を啓蒙するのは難しいだろう」というお話がありました。
では、身内のリテラシーに頼らずソリューションで解決する、たとえば遠隔サポート用としてecho showのようなカメラと画面が付いた機器にAIが搭載されたら? といった「具体的なサポート方法」についてうかがいます。今後は高齢者の4分の1が認知症になるとも言われていますが……。
栗山 「高齢者とAI」という観点ですと、最近は認知症の診断をAIに任せるための研究がいくつか動いています。たとえば、1分間ほど会話するだけで、認知症のリスクがあるか否かの診断をAIが下すようなものです。会話内容ではなく、話し方や動作を察知してAIが分析する仕組みのようでした。
一方で私が興味を持っているのは、地方の高齢者をいかに見守るかということです。と言うのも、民生委員さんの高齢化による減少が目立っており、しかも地方自治体が貸し出したiPadなどを使いながらたくさんのお年寄りの面倒を見なければいけないらしいのです。
つまり、高齢者がもっと高齢な方を見守るような状態になっているなかで、ITリテラシーまで要求されてしまう。これは難しい問題です。
高橋 確かに。病院が少なく、通院も困難な地方では、遠隔診断とAIを上手く使うことで、人手が必要な箇所をショートカットできる体制が求められます。一方、導入の敷居が高いことはわかっているので、その部分では国の助力が必須でしょう。
栗山 たとえば、ふるさと納税の一部を地方の福祉に回すなど、さまざまな施策が考えられますね。
人口減少の影響で、地方では相対的に医師が足りなくなるでしょうし、病院を閉鎖せざるを得ない場所もあるでしょう。そこで、医師の代わりにAIが高齢者を診断する、そしてAIがチェックしたデータを適切に収集する仕組みを作るべきかと。
AIはいずれトイレやお風呂のような場所にも標準装備されるのではと思います。体温や呼吸をはじめとして、常にさまざまな数値や成分を検知し続けて、危険な数値に達した瞬間にアラートを出して家族や医師がその詳細をすぐ受け取れるようなサービスも作られるのでは。
実際、TOTOさんは排泄物の成分をAIが判断して専用アプリに表示する仕組み、ウェルネストイレを開発中です。
高齢者への負担を最小限に
―― 私の友人も、実家が地方なので病院も少なく、親御さんをクルマで送迎しないと診察ができないとこぼしていました。テストもアナログでややこしいし、その結果が悪くなると、今度は別の大きな病院でMRIを撮り直して……など、とにかく面倒だと。
栗山 高齢者にとって頻繁な検査自体が身体の負担になるので、一層くたびれてしまうのですよね。にもかかわらず、なぜか人前に出ると頑張ろうとする(笑)
―― その結果、介護の等級が実情とかけ離れて、家族が大変な苦労をするわけです。
栗山 ですから測定も人間の手ができるだけ入らない仕様にしてほしいですね。それこそAIの出番でしょう。トイレや浴槽に測定機器を埋め込んで、数値をAIに常時診断させることで「取り繕わない」普段の状態が測れるかもしれません。
高齢者への負担も少なく、なおかつ若い世代の負荷も減るかなと思いますので、積極的に進めてほしいですね。
高橋 政府には一刻も早く利便性の高いサービスを片っ端から認可してほしいです。その段階で止まっているものって多いでしょうから。
栗山 とは言え、待っていてもしようがないので、学校での啓蒙教育に参加させていただくなど、まずは企業レベルで動いていきたいなと。