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イーデザイン損保は自動車保険「&e」の顧客コミュニケーション強化に活用

セールスフォース、営業やマーケ担当のデータ活用を促すデータ基盤「Salesforce Data Cloud」を紹介

2024年09月17日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 セールスフォース・ジャパンは2024年9月5日、Salesforceに組み込まれたデータプラットフォーム「Salesforce Data Cloud」の特徴や最新機能を紹介する説明会を開催した。また、東京海上グループのイーデザイン損害保険(イーデザイン損保)がゲスト出席し、同社の顧客サービスにおけるData Cloudの活用事例を披露した。

Salesforce Data Cloudを通じてCRMのデータと外部データソースのデータを統合し、より効果的なアクションにつなげる

セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部シニアマネージャーの前野秀彰氏、イーデザイン損害保険 取締役 IT企画部長 兼 ビジネスアナリティクス部長の須田雄一郎氏

現場のデータ活用をはばむ“ラストワンマイル”の問題を解消する

 Salesforce Data Cloudは、Salesforce CRMとネイティブに連携し、顧客接点において企業が持つさまざまな重要データを活用して顧客体験向上につなげるためのデータプラットフォームと位置付けられている。

 セールスフォース・ジャパンの前野秀彰氏は、営業担当者、顧客サポート担当者、マーケティング担当者といった現場ユーザーが、企業内のあらゆるデータを活用してビジネス価値を生むためには、データ活用にかかる「ラストワンマイル」を変えていく必要があると指摘する。これまでソリューションが存在しなかったこの“空白”を埋めるのが、Data Cloudというわけだ。

 「Salesforce Data Cloudをハブとしてさまざまなデータを統合、整理し、CRMアプリケーションにつなげることで、簡単にアクションが取れるようになる。専門知識やスキルを持たない現場のユーザーが、いつでも簡単に、スピード感を持ってデータを扱えるという理想の実現につながる」(前野氏)

ソリューションが欠けていた、データの「活用」までの“ラストワンマイル”を埋める

 Data Cloudが行うデータ処理で重要なのが、多様なデータソースから取り込んだ異種のデータを、一人ひとりの顧客という軸で整理し、ひも付ける「調和」の処理だという。Data Cloudには、顧客情報を管理する構造化されたグラフがあらかじめ用意されており、たとえば「Webサイトの訪問頻度」「過去の製品購入履歴」といったデータをそこにマッピングすることで、顧客の統合プロファイルが構成できる。この統合プロファイルに基づいて、セグメンテーションやAI分析/予測などを行うことで、あらゆる顧客接点において個々の顧客に適したアクションが可能になる。

 「社内に散らばっているデータを『顧客軸』で整理し、CRMを活用して営業やマーケティングの仕事の仕方を変え、ビジネス価値を生み出すのがSalesforce Data Cloudの役割だ」(前野氏)

Data Cloudで重要な処理が、一人ひとりの顧客を軸にさまざまなデータを統合する「調和」だ(図中央)

データを通じてCX(顧客体験)を高め、選ばれる保険を目指す「&e」

 ゲスト出席したイーデザイン損保 取締役 IT企画部長 兼 ビジネスアナリティクス部長の須田雄一郎氏は、同社が提供する「&e(アンディー)」におけるSalesforce Data Cloudの活用事例を紹介した。

 イーデザイン損保は、Webを通じて顧客(契約者)との保険契約を行うダイレクト保険会社である。ただし、ダイレクト自動車保険市場は代理店が介在せず、競合保険サービスとの差別化が難しいため“価格競争”になっていた。「価格競争ではなく、CX(顧客体験)を高めることで選ばれる保険が必要だ」という考えのもとで、同社が2021年に提供を開始したのが&eだ。

イーデザイン損保が、これまでにない新しいタイプの自動車保険として提供する「&e(アンディー)」

 「事故のない世界を共創する、新しいタイプの自動車保険」をコンセプトとする&eは、これまでの損害保険の基本機能(事故に対する保険金支払)に加えて、安全運転を支援する機能、そしてデータ活用により事故のない世界を共創する機能を合わせ持っている。

 &eの契約者には、小さな車載IoTセンサーデバイスが提供される。これは顧客のスマートフォンと連動しており、自動車が事故を起こしてセンサーが衝撃を検知すると、ワンタップで事故受付センターに連絡ができる。さらに、センサーデータやGPSデータに基づいて運転データを分析し、運転診断レポートを提供したり、安全運転スコアのリワード(報償)を提供したりする。加えて、企業や自治体が持つデータを用いた「事故のない世界」の共創にも取り組んでいる。

事故時の保険金支払にとどまらず、データを活用した安全運転の支援、「事故のない世界」の創造に取り組んでいる

 イーデザイン損保が&eにおいてもうひとつ取り組んだのが、レガシーシステムからの脱却だ。デジタルを活用した新たなサービスの開発と展開においては、機動性、保守性、拡張性にすぐれたアーキテクチャを採用する必要がある。そこで&eでは、パッケージや外部サービスを組み合わせた“フルクラウド”のシステムを構築している。ここに、Salesforce Data Cloudも組み込まれている。

 「競争力の源泉となる顧客接点領域(SoE)をフルスクラッチで開発し、日々改善が続けられるようリソースを集中投資するため、基幹システム領域はパッケージ(Guidewire、Salesforce CRM)を採用し、カスタマイズを極力なくしている。そのうえで、データ活用領域にはData CloudとTableauを採用している」

 ちなみに、顧客の運転状況データ(Tripデータ)もサードパーティが提供するサービスを活用しており、自社開発は行っていない。またSalesforce製品としては、Data CloudやTableauのほかに、Financial Service Cloud、Marketing Cloud、MuleSoftなどを利用している。

&eのアーキテクチャ図。顧客接点領域に開発リソースを集中させるため、基幹システム領域、データ活用領域はフルクラウド/パッケージで構成しているという

 須田氏は、Data Cloudを採用した理由は「&eのミッションを実現するためには、収集できるデータはすべて活用したいと考えたため」だと説明する。旧来の自動車保険では、顧客がサービス内容の良さを理解できるのは「事故を起こした後」のことであり、日常的には意識されることがなかった。保険会社からの連絡も、大抵は契約更新のタイミングのみであり、契約中の顧客へのサービスは手薄だった。

 「蓄積しているデータが保険の契約内容だけだったため、契約更新などの画一的なメールしか送信できなかった。そのため、送信したメールは読まれない傾向にあった。Data Clouでさまざまなデータソースをシームレスに連携させ、たとえば契約者のアプリ操作などの行動ログやTripsデータ(運転データ)などを取り込むことで、よりパーソナライズしたメールの配信が可能になった」(須田氏)

 たとえばTripデータと顧客データ、契約データを掛け合わせ、安全運転スコアが満点の対象者だけに特別なリワードを提供するメールを配信したところ、通常は10%程度のボタンクリック率が24%まで向上したという。

Data Cloudを導入したことで、Salesforce CRMのデータに外部のデータ(Web、アプリ、Tripデータなど)を掛け合わせて、顧客ごとにパーソナライズしたアクションが可能に

顧客コミュニケーションの高度化の例。行動ログを掛け合わせることで「できていない/やりたい」部分のコミュニケーションが可能になる

 須田氏は、Data Cloudについて「異なるデータソースを一元管理でき、コネクタ類も豊富。わずかな時間のトレーニングでデータの加工や編集ができる」と評価する。ただし、たとえすぐれたツールがあっても「使いこなす組織体制がないと意味がない」ことも強調する。

 イーデザイン損保では、社内データを集約してサイロ化を防ぐとともに、CoE組織である「ビジネスアナリティクス部」を設置し、データとAIの活用を全社で推進する。さらに、顧客とのコミュニケーションを一元管理する「CX推進部」を設置して、Data Cloudを活用したメールコミュニケーションの内容や品質を統一しているという。

 今後もさらに、Data Cloudをハブとしてデータ活用を推進していく方針だ。コールセンターでの通話音声をテキスト化して顧客情報とのひも付けを行うほか、データマートの整備によるデータ分析基盤の構築、AIを活用したデジタル査定による不正請求検知、AIデジタル接客、AI事故受付も行いたいと話した。

Data Cloudの新機能を紹介、次のDreamforceでは新たな自律エージェントも

 発表会では、国内提供を開始したSalesforce Data Cloudの新機能、「ゼロコピーインテグレーション(BYOL:Bring Your Own Lake)」と「Data Cloudベクトルデータベース」も紹介された。

 ゼロコピーインテグレーションは、企業が構築済みのデータレイク/DWHとのデータ連携において、データのコピー(移動)や前処理を行うことなく、あたかもData Cloud上にデータがあるかのように扱うことができる機能だ。現在はSnowflake、Google BigQuery、Amazon RedShift、Databricksの各データレイク/DWHサービスに対応している。外部ソースからのデータ取り込み(データフェデレーション)だけでなく、データを戻す(データシェア)こともできる。

既存のデータレイク/DWHからデータを移動させることなく処理できる「ゼロデータインテグレーション」

 Data Cloudベクトルデータベースは、PDFドキュメントやメール、音声ファイルといった非構造化データを取り込み、ベクトルデータを生成/保存して、AIでの活用を可能にする。Salesforceの前野氏によると、ベクトル化の処理はクリック操作で簡単にできるという。

 非構造化データをベクトル化することで、従来のキーワード検索とは異なるセマンティック検索(意味の類似度に基づく検索)も実現する。この結果を生成AIのプロンプトに埋め込むことで、ハルシネーションを緩和しより正確な回答ができると説明した。

Data Cloudにベクトルデータベースも加わり、AIによる非構造化データ活用が促進される

 前野氏は、生成AI活用におけるData Cloudの価値についても説明した。

 顧客接点における生成AI活用への期待は高いが、そのためには「顧客や業務をAIに理解させるためのデータを与えなくてはならない」(前野氏)。ここで、さまざまな顧客データを統合/整理し、最適な形でAIに渡すことができるData Cloudが効果を発揮するという。

 Saleforce AIでは、Data Cloudを通じてCRMに蓄積した信頼できるデータをプロンプトに埋め込んだり、CRMの外にあるデータを活用したりして、回答精度を高めることができる。これにより「顧客接点で使えるAI」へと進化させることができると述べた。

 なお、9月18日から米国で開催される年次イベント「Dreamforec 2024」においては、新たなAI戦略についての発表が行われるという。前野氏は、ここでは「人間による指示なしで」自律的に価値を提供する、新たな自律エージェントが発表されると説明した。

生成AI(LLM)へのプロンプトにCRM内のデータを埋め込み(グラウンディング)することで、パーソナライズされた結果が得られる。さらにCRM外のデータを加えることで、ユースケースが広がるとした

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