お天気マークで表現できない空模様、ソラカメなら見える

ソラカメ導入でユーザー参加型天気予報の精度を高めたウェザーニューズ

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●永山亘

提供: ソラコム

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 アプリユーザーにソラカメを配布し、ユーザーの画像データを有効活用しているのが、気象サービスを提供するウェザーニューズだ。ユーザー参加のコンテンツを生成する仕掛けのみならず、事業のコアである天気予報の精度向上にもソラカメを活かしているウェザーニューズの上山亮佑氏に話を聞いた。

1200台のソラカメが日本の空を撮り続けている

 ウェザーニューズの上山氏は、個人向けサービスを展開するモバイルインターネット事業部でマーケティングを担当している。同社の個人向け気象情報サービスは、フィーチャーフォン時代のiモードとともにスタートし、すでに四半世紀。スマホの登場に合わせて作られたアプリは、すでに4200万ダウンロードを誇り、多くのユーザーがデイリーサービスとして利用している。最近では動画サービスにも注力しており、24時間体制で天気予報を配信している。

 そんなウェザーニューズがフィーチャーフォン時代から大切にしてきたのは、実は「ユーザー参加型天気予報」だ。「桜の開花情報を集めたり、ゲリラ豪雨の様子だったり、ユーザーから現地の写真を送っていただき、それを集合知として、弊社の予報センターで新しい予報を作る『みんなの天気予報』をとても重視しています」(上山氏)。


ウェザーニューズ モバイル・インターネット事業部 グループリーダー 上山亮佑氏

 このユーザー参加型天気予報に参加すると、ユーザーは投稿数などあわせてポイントが付与される。そして、2000ポイント集めて交換できる商品が、お天気ライブカメラのソラカメだ。ユーザーはポイントなどでゲットしたソラカメを、自宅のベランダなどに設置すれば、空模様の静止画を定期的に撮影し、ウェザーニューズ側にアップロードしてくれる。アプリからは自らのカメラはもちろん、日本全国に設置されたソラカメの画像を見ることができるようになっている。

 企画は2024年3月からスタートし、ほぼ3ヶ月で購入者・プレゼントあわせて1200台のソラカメがユーザーに配布された。かなりのハイペースと言えるだろう。カメラに映るのは刻々と変わっていく各地の空模様。雷や虹、噴煙などの自然現象が見えたり、夜は星もきれいに映っているという。

虹や落雷、雨柱のほか、ツバメのようなほっこり画像も

人気のライブカメラ ユーザーへの価値を高めるソラカメ

 ソラカメの企画は、もともと人気の高かったライブカメラをいかにユーザーに楽しんでもらうかという観点でスタートした。「自社でも全国400台くらいカメラを設置していて、アプリでライブ配信を見られるようになっているのですが、ビュー数が高かった。だから、このライブカメラでもっと価値創造していきたいと、ずっと思っていました」と上山氏は語る。しかし、ユーザー宅にカメラを設置したり、調整するのは大変で、コストの観点でもいまいちスケールしなかったのも事実だったという。

 悩んでいたところ、選択肢に入ってきたのが、ソラコムから提案を受けていたソラカメだ。ソラカメの正式なサービス名はSoracom Cloud Camera Servicesで、カメラとクラウドサービスが一体化されているのが大きな特徴だ。カメラで撮った画像をWi-Fi経由でクラウドにアップロードし、適切なユーザーに対して共有できるサービスである。上山氏は、「ソラカメの特徴の1つでもあるクラウドカメラという点にスケールや未来性を感じたのが大きいですね」と語る。

 ウェザーニューズがソラカメの展開を決めたのは昨年の12月頃。そこから約3ヶ月でソラコム側はデータ提供のためのAPIとカメラの設定を行なうためのSDKの開発、ウェザーニューズ側はAPIから得た画像を利用したアプリの作り込みを担当した。ウェザーニューズで利用する名前もそのまま「ソラカメ」にし、アプリにソラカメの画像をプロットすることにした。

ソラカメとウェザーニュースアプリ

 通常のソラカメでは撮影した動画からデータを切り出すのだが、ウェザーニューズ版のソラカメでは1分間隔で撮影した画像をアップロードしている。また、Wi-Fiの設定もウェザーニュースのアプリ内から行なえるようになっており、すべての設定と操作がアプリで完結するのが大きな特徴だ。

 当初は「ユーザーの自宅の空を撮影するので、プライバシー面でそれが受け入れられるのか」という不安はあったが、その不安は開始直後に一掃されたという。上山氏は、「プライバシーというか、自宅から見える空の画像ですし、ユーザーの抵抗感がまったくありませんでした。受け入れてもらってユーザーには感謝したい」と振り返る。

設置のトラブルも楽しんじゃう? ユーザーコミュニティとソラカメ

 ウェザーニューズにとってこのソラカメの画像は、ユーザー参加型天気予報を実現する有効なツールだ。ウェザーレポート をアップしていたユーザーからしても、今まで手動で送っていたカメラ画像が自動的にアップロードされるため、利便性が高まる点が評価を受けている。

 なぜユーザーが自宅の空の様子をアップロードしてくれるのか、そこにどんなインセンティブがあるのか? ウェザーニューズとしても完璧に把握しているわけではない。ただ、もともとウェザーニューズのユーザー自身が「みんなで天気予報を作る」というコミュニティ感覚が強かったのに加え、アプリに自宅のカメラ画像がプロットされたり、YouTubeの番組で紹介されたりするため、参加感が醸成できているのが大きいようだ。

 唯一想定外だったのは「ソラカメの設置がそれなりに大変」ということだった。「業者でも、企業でもなく、一般の方々なので、カメラを送ってもらっても、ベランダに設置するのはなかなか大変だったようです」と上山氏は語る。また、ソラカメはかなりレンズが広角なので、ほかの家を映りこませず、空だけを撮るようにするのも設置ノウハウだった。

 これに関しては、ウェザーニューズ側からユーザーにヒアリングをかけ、設置ノウハウ集を作った。YouTube番組などでも配信し、ユーザー同士で設置ノウハウを共有することにした。確かに電源をとれないベランダもあるし、部屋からケーブルを這わせたり、風雨に耐えうるように設置したり、さまざまな工夫が施されている。「みんなが苦労した壁を共有して、次のユーザーのために役立てています。ソラカメプロジェクトでは、本当にユーザーコミュニティに助けられています」と上山氏は語る。

ユーザーの設置ノウハウもウェザーニュースで公開

 ユーザー宅にデバイスを設置し、そのデータを利用するというクラウド(Crowd=一般ユーザー参加型)なプロジェクトは事業者からしてもハードルは高い。これを可能にした大きな理由はソラカメの価格の安さと設置のしやすさだという。「ここまで安価で、クラウドを簡単に利用できるからこそ、こうした企画が実現できたと思います」(上山氏)。

ソラカメの画像が実況と予報の精度を高めていく

 ウェザーニューズにとってこのソラカメの画像は、ユーザーの参加意識を盛り上げるコンテンツでありながら、天気予報の精度を向上させるための貴重なデータでもある。「天気予報って、実況をいかに把握できるかが勝負です。実況を把握することで、次の予測に結びつく。今の日本の天気を正確に知ることで、予報も正確になるんです」と上山氏は語る。その点、観測インフラとして、各地にばらまかれたカメラの存在はきわめて有効だという。

 ソラカメが観測機ではなく、カメラであることも重要なポイントだ。「通常の気象観測機って、温度や湿度など数値的な情報を送ってくるのですが、ソラカメは画像。雲の色が何色なのか?という情報は、実は観測機で捉えられない貴重な 情報です」と上山氏。たとえば、ゲリラ豪雨の予報には、雨雲の発達状況を視覚的に見られるカメラ画像が予報精度の向上に大きく寄与する。「晴れといってもどんな晴れなのか、曇りといってもどんな曇りなのか、天気マークでは表現できない空の様子をカメラなら捉えられます」と上山氏は語る。

数多くのライブカメラを天気予報の精度向上にも活かす

 40年近く天気一本でビジネスを展開してきたウェザーニューズは、天気予報の精度も高い。これは第三者機関からの認定されている。その1つの理由は、多種多様なデータソースによる分析であり、空の現状をリアルタイムに把握できるソラカメの画像も天気予報の向上に大きく寄与しているという。「ソラカメの画像が入り出してまだ3ヶ月ですが、社内の予測インフラの中に少しずつ入り始めています。まずは実況精度を上げ、次に予報精度に寄与したい」(上山氏)。

 たとえば、ユーザーとしては「雨雲レーダーの画像には雲がないのに、雨が降っている」のような実況のギャップを感じるときがある。こうしたギャップを埋めるため、ウェザーニューズ社内では、今まで別々だったライブカメラと雨雲レーダーを連携。予報と実態のギャップを埋めるようにしています。おり、雨雲レーダー画像にも反映している。

 今後はこうした画像と気象データの掛け合わせをさらに深めていきたいという。「お客さまからデータの利用許諾もいただいているので、データは使い倒したい。たとえば、地震のときだけ、特定の地域のフォーカスだけをオンにするとか、気象データとカメラを連携させる仕組みで、もっと価値創造を進めていきたいですね」と上山氏は語る。

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