SF映画の金字塔と言われる『猿の惑星』。シリーズ第1作目の公開から56年を経て製作された完全新作『猿の惑星/キングダム』は、視覚効果の進歩をまざまざと感じさせる。
まずは過去シリーズのおさらいをしておこう。『猿の惑星』が劇場公開されたのは1968年。1963年に出版されたフランスの作家ピエール・ブールの同名小説を原作にした物語は、地球から320光年の旅をして、ある惑星に宇宙船が不時着することに始まる。そこで飛行士が見たのは、知性が逆転し、人間のように言葉を話す猿が人間を支配しているさまだった。ショッキングな設定ながら現実社会に警鐘をならす物語の面白さ、ラストの衝撃、そして当時画期的だった猿の精巧な特殊メイク。SFの歴史を変えたとも称されたほどのヒット作となり、メイクアップを担当したジョン・チェンバースは第41回アカデミー賞でアカデミー名誉賞に輝いている。
ヒットを受けて、『続・猿の惑星』(1970年)、『新・猿の惑星』(1971年)、『猿の惑星・征服』(1972年)、『最後の猿の惑星』(1973年)と続いた。
そこからテレビシリーズや2001年にティム・バートン監督によるリ・イマジネーション版『PLANET OF THE APES/猿の惑星』を挟み、人間が猿に支配されていく物語の“起源”を描くリブート作品として『猿の惑星:創世記』(2011年)、『猿の惑星:新世紀』(2014年)、『猿の惑星:聖戦記』(2017年)が製作された。
そして2024年にシリーズ待望の新作として誕生した『猿の惑星/キングダム』は、リブート3作目から300年後が舞台。「人間と猿の共存」というテーマのもと、あらたなキャラクターで新しい物語が紡がれ、なぜ人間が退化し、猿が進化して支配するに至ったか説明されるので世界観を知ることもでき、シリーズ未見でもOKなストーリーとなっている。
主人公は若き猿のノア(オーウェン・ティーグ)。巨大な王国を築こうとする独裁者プロキシマス・シーザー(ケヴィン・デュランド)によって村と家族を奪われたノアは、あるときに出会った人間の女性ノヴァ(フレイヤ・アーラン)と一緒にプロキシマスに立ち向かうことに。しかし、ノヴァは猿たちの知らない秘密を握っていた。
同作のメガホンをとったウェス・ボールが偉大なシリーズだけに新作の物語をどうするか悩んだとも明かしているが、圧倒的スケール感と主人公の成長物語や退化した人間の謎というエンタメ性やアクションが絡み合いながらドキドキ、ワクワクする展開が見事だ。そしてそれをVFX(視覚効果)が大きく支えている。
初期5作のオリジナル版からリブート版へと移ったとき、38年という年月が経っていて、特殊メイクからVFX技術への変化、進歩はすさまじかった。ニュージーランドに本社を構えるVFX制作会社「WETA」が担当し、俳優たちによる体の動きのモーションキャプチャーと表情をとらえるフェイシャルキャプチャーも取り込んだ“パフォーマンスキャプチャー”で猿たちの生き生きとした動きを出した。もちろん、「目は口程に物を言う」ということわざを実感させる俳優たちの“目”の演技などもすごいのだが。毛並みの再現や、猿たちが動くときに床の紙ゴミが舞うなどといったCGの丁寧さがさらにリアルにする。
そこからまた数年で精緻さが極められている。20世紀スタジオのYouTube公式チャンネルで公開されている新作に関する動画で、ウェス・ボール監督は「今まで誰も見たことないVFXにも挑戦した。『アバター』も手掛け、『猿の惑星』シリーズや『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのVFXチームとね」と語っている。そのVFXチームはWETAだ。
例えば、ノアとゴリラの戦いシーンは、背景の水に至るまで100%フルCGなのだという。このシーン、何度か見返してみても、フルCGには本当に思えない実写を超えるような仕上がり。そのほか、水が流れ、鳥が舞い、木々が風に揺れるジャングルだけれど、そこに街灯など人類の痕跡を感じるなど、秀逸な視覚効果が活きている。猿たちの軽やかな身体能力でスピード感が出ていることや、ダイナミックなアクションからも目が離せなくなる。合計すると約145分の本編中35分ほどは完全CGというが、リブート版から着実に進化を感じる、まさしく「限界を超えた」技術が詰め込まれ、作品を壮大にしている。
猿たちが進化したように、VFXも進化。映画ファンもうなる視覚効果で楽しみが増し、またそのリアルさゆえに猿たちを主役にしたSF物語に没入できるはずだ。