第425回 SORACOM公式ブログ

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IoT x GenAI Labによる生成AIプロジェクトの実際: 三菱電機様の場合

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 本記事はソラコムが提供する「SORACOM公式ブログ」に掲載された「IoT x GenAI Labによる生成AIプロジェクトの実際: 三菱電機様の場合」を再編集したものです。

こんにちは!Solutions Architectの今井です。ニックネームはfactoryと申します。このポストでは2024/7/11に発表したプレスリリース「三菱電機とソラコム・松尾研究所「IoT × GenAI Lab」が、 IoTと生成AIを応用した空調機器制御の実証実験を実施」について少し掘り下げて中身を紹介したいと思います。

三菱電機様の生成AIを活用した取り組み、生成AIの可能性、またそれを活用したDXに取り組むお客様をサポートする「IoT × GenAI Lab」について知って頂ければと思います。

IoT × GenAI Labとは?

まず、IoT × GenAI Labとは、2023年のSORACOM Discoveryで設立を発表した取り組みで、株式会社松尾研究所とソラコムの合同チームで、IoTとLLMを組み合わせて活用し、お客様の新規プロダクトの開発やDXのお手伝いを提供するチームのことです。

わたしたちソリューションアーキテクトは日々多くのお客様とお話する機会があります。そのなかで見えてくる課題のパターンとして、解きたい課題はあるもののそれを解決するためのアプリケーション実装の難易度が高く、さらにアプリケーションのコアとなるAIの最適化やトレーニングのハードルも高いというものがありました。本来、ビジネス的な課題は一度のトライで解決することは難しく、手法やアプローチを修正しながらトライアルを繰り返す必要があります。しかし前述のような困難さがあるため、このイテレーションを回すことそのものが難しいという根源的な課題がありました。

ここに出てきたのがOpenAIのChatGPTを皮切りとする生成AIを簡単に利用できるサービスたちでした。これらのサービスの決定的な特徴として「非常に多岐にわたる知識をあらかじめ学習済みのFoundationモデル(基盤モデル)をPay as you go(必要な分だけの費用)で簡単にすぐに利用できる。自然言語による曖昧な指示や画像入力を複合的に受け取り、そして判断ができる」という点でした。この特徴をうまく活用すると、専用のビジネスロジックを実装したり専用のモデルをトレーニングすることなくAIによる課題解決に取り組むことができるようになります。

この生成AIをうまく活用するためにもうひとつのキーとなるのがその目や手足となるセンサーやアクチュエーターであり、それらを司るIoTのテクノロジーだと私達は考えました。IoTプラットフォームSORACOMは現場や環境からデータを集めるための様々なサービスやリファレンスデバイスを提供しています。これらを組み合わせることで、生成AIにスムーズに入力を提供し、そしてその出力をまた現場に返すというエンドツーエンドのアプリケーションの構築をすることができるはずです。

AIとIoT、それぞれのエキスパートが集まったチームとしてお客様の課題解決のサイクルをサポートするのがAI x IoT GenAIの狙いです。

三菱電機様との取り組みのテーマ: 空調設定の最適化

今回の三菱電機様との取り組みは、まずテーマを決めるところからスタートしました。生成AIが適用可能と思われるテーマのなかで空調が最終的に選ばれたのは、空調メーカーとして「快適性と使用電力の最適化問題」というエンドユーザーに直接的な価値を提供する部分にこだわろうという思いが大きく働きました。また、この分野についてもちろん長い取り組みの歴史をお持ちであり「この問題について生成AIで解いてみたらどうなる?」という技術的チャレンジともなりました。

テーマが見えてきたら、ChatGPTのUIを使ってAIを空調管理者と見立て、現状のオフィスの状態(滞在人数や温度、湿度、外気温、日光の入射量、現在の空調設定など)を入力したうえで空調の設定のレコメンデーションをしてくれそうかどうか、というフィージビリティスタディを行いました。当然これだけではパフォーマンスを測ることはできませんが「それっぽい答えを返してくれそう。少なくとも、質問の意図や背景を(観測上)正しく理解し、最適な答えを返そうとしてくれている」というのが見て取れました。併せて先行研究のリサーチなども行った結果「やってみよう!」ということになりました。

プレスリリースより抜粋

実際の取組みのなかでは、以下のようなデータを1日のなかで複数回、決まった時間に収集し、これをOpen AIのGPT-4やGPT-4Vに入力し「エアコンの動作モードと設定温度」を出力させるという実験を繰り返しました。

  • センサーから得られた環境データ(1分毎/室内温度・湿度)
  • 外部の天気情報から得られた環境データ(室外温度・湿度、日照度)
  • 空調機器の設定温度
  • 空調利用位置検知システムの情報(画像/ 室内の温度のヒートマップ、オフィス勤務者数、オフィス勤務者の位置・分布情報)
  • 感性情報(オフィス勤務者からの快適性についての定期的なフィードバック)

今回、環境データはSens’itというSigfox通信を利用する環境センサーを採用しました。これは温湿度センサー、照度センサー、マグネットセンサーなど多様なモードで動作し、バッテリーで数週間動いてくれるとても優秀なデバイスです。また、外部の気象情報を提供してくれるサービスのAPIや、三菱電機様が開発/提供する空調利用一検知システムMELRemo-IPSから得られるオフィスのヒートマップや滞在者数、そしてカスタムウェブアプリケーションによる滞在者からの快適性フィードバックなどを統合し、生成AIにフィードし、設定のレコメンデーションを出力させ、それを空調に設定するというサイクルを回しました。生成AIとのやりとりについてはJupyter NotebookやDataikuといったソフトウェアやサービスを利用しました。また、今回は空調の外部制御は短期間での調整が難しかったため、生成AIの出力に基づいて人が手で設定を行う形にしました。

このようなツールやプロセスを用意した上でAI x IoT GenAI Labのメンバーは三菱電機のチームとともに週次でのSyncミーティングを行いながら入力データの最適化や試行錯誤を数週間サイクルを回し、最終的には数字的にはプレスリリースにもある通りベースライン(これも今回計測しました)となる数値と比較して、期間平均47.92%の電力使用量の削減、平均26.36%の快適性改善効果が得られる結果となりました。

わたしたちチームメンバーの感想として、このようなAIがファインチューニングやRAG(Retrieval Augmented Generation)により独自の知識を学ばせるプロセスに時間やコストをかけることなく、初期投資なく利用できるようになっているということに改めて驚きました。つまり、コストパフォーマンスがとてもよいのです。クラウドがインフラへの初期投資を大きく減らし、必要なときに誰もが利用できるようにしてくれたように、生成AIの各サービスはAIアプリケーションの開発やモデルのトレーニング、チューニングなどにコストを掛けるコストを最小化しつつすぐにその恩恵に預かれるようにしてくれているということになると言えそうです。

もちろんこれで三菱電機様の取り組みが終わったわけではありません。これをひとつのステップとして、継続して社会実装への努力を継続されてくことと思います。IoT x GenAI Labとしても継続してお手伝いをできたらなと考えています。

SORACOM Discoveryでもセッションがあります!

この取り組みについては、7/17に開催予定のSORACOM Discoveryでもセッションがあります!当事者である三菱電機の澤田様、そして伴走者である松尾研究所の横山様にパネリストとして登壇いただき、わたしがモデレータとしてプロジェクトのきっかけ、進め方、苦労や成果についてお伺いしていきます。ここでしか聞けない、製造業での生成AI利用の実際、ぜひ聞きにきてくださいませ!

― ソラコム今井 (factory)

投稿 IoT x GenAI Labによる生成AIプロジェクトの実際: 三菱電機様の場合SORACOM公式ブログ に最初に表示されました。

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