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Ryzen 9000シリーズに追加された「メモリーOC OTF」と「Curve Shaper」でOCが楽しくなる AMD Tech Dayレポート

2024年07月16日 13時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

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電圧-クロック周波数のカーブ形状を変える「Curve Shaper」

 Ryzen 9000シリーズのOCにおいてもPBO(Precision Boost Overdrive)やCurve Optimizerといった機能はそのまま利用できる。特にCurve OptimizerはV-F(電圧-クロック周波数)カーブを調整することを通じてコアの低電圧化が可能になる。

 コアの電圧を下げることで温度と消費電力に定格運用では得られない余裕を生み出し、ブーストクロックの上昇へとつなげ、最終的に性能向上というサイクルを生み出せる。Curve Optimizerの設定はあるコアに対し正方向(電圧上げ)か負方向(電圧下げ)にどれだけ(BIOSではMagnitudeと呼ばれる)ずらすかという設定を数値で送り込む。

 このMagnitudeを1カウント負方向に増せば、コア電圧は30~50mV程度下げられる。どこまでカウントを負方向に増やせるかはCPUの個体差によるが、減らせば減らすほど電圧や熱に余裕が生まれ、性能が上がる可能性も上がる。

 Curve Optimizerで設定できるMagnitudeはコア単位、もしくはCPU全体に対し設定できるパラメーターだが、CPUコアの温度や負荷(≒クロック)の状況を考えてはくれない。これをカバーするのがCurve Shaperであり、具体的にはCPUの状態を15のドメインに分類し、各ドメインごとにMagnitudeを加減できるようにするものだ。

 このドメインを決定するのは3段階のCPU温度(Low/ Med/ High)と5段階のクロック(Min/ Low/ Med/ High/ Max)だ。具体的には下表のような区間で分類される。なお、表中の不等号>は実際のところ≧なのかといった詳細についてはまだ不明だ。

Curve Shaperのドメインを決定するCPU温度およびクロックの対応表
CPU温度 CPUクロック
>0℃ Low >3.5GHz Min
>50℃ Med >4GHz Low
>100℃ High >4.5GHz Med
>5GHz High
>最大クロック Max

 温度のLow/ Med/ Highはそれぞれアイドル時/ ゲーム中/ フルロード時などと読み替えてもいいだろう。例えばPCゲーム中にCPU温度がMedかつクロックがMed~Highのドメインに入っている場合はそのドメインのMagnitudeを下げて性能を確保、逆に温度もクロックもHighになる高負荷な処理では、そのドメインのMagnitudeは逆に増やす、という設定もできる。

 そして重要なのはCurve ShaperのMagnitude設定はCurve OptimizerのMagnitudeと共存できることだ。例えばCurve Optimizerで-10にした上で、Curve Shaperであるドメインを-5にすれば、そのドメインだけ-15になる。また別のドメインで+3設定にすれば、そのドメインはCurve Optimizerの設定と合算され-7設定にできる。

 Curve OptimizerはV-Fカーブを一律全体に上下させる機能なのに対し、Curve Shaperは限定されたドメインの中でV-Fカーブの形(傾き)を変える機能といえるだろう。ただCurve ShaperはCPUコア全体に対する機能なので、コア単位で指定することはできない、というのがCurve Optimizerとの違いでもある。

Curve Optimizer(左下のグラフ)はV-Fカーブ全体(これはコア単位もしくはCPU全体)を上下に動かす機能だが、Curve Shaper(中央下のグラフ)はV-Fカーブの形状を変えられる。だからShaperなのだ

Tech DayではASRock「X670E Taichi」とRyzen 9 9950Xを組み合わせた環境でCurve Shaperのデモが実施された

まず最初にCurve OptimizerをCPU全体に対し-1設定にした状態からスタート

Curve Optimizer 全コア-1設定でのCINEBENCH R23のマルチスレッドスコアーは43905ポイントだった

Curve ShaperへのアクセスはCurve Optimizerと同様にPBOに関する設定の下にある

Curve Shaperのインターフェース。15のドメインがズラッと並んでいるのであまり親切とは言えない。クロックが4~4.5GHzの間(Med Frequency)にある場合はCPU温度に関係なくNegativeに5、つまり-5設定とした

同様にクロックが4.5~5GHzのHigh Frequencyにかかるドメインにおいても、同様に-5設定としたが、Max FrequencyはAutoにしている

Curve Shaperを設定した後、Ryzen MasterでさらにCurve Optimizer設定を-10に変更。つまりクロックが4~5GHzのドメインではCurve Shaperの-5設定と合わせ-15設定に、それ以外のドメインはCurve ShaperではAuto設定なので、Curve Optimizerだけの設定である-10設定となる

このような設定にした結果、CINEBENCH R23のマルチスレッドスコアーは45303ポイントに増加。約3%の上昇となった

モバイル向けRyzenが発表の中心でも
デスクトップ向けRyzenにしっかり改善を加えたAMD

 以上でRyzen 9000シリーズにおける新しいチューニング手法の解説は終了だ。Tech Day最大のトピックはRyzen AI 300シリーズであったものの、Ryzen 9000シリーズにも新しい機能を追加してきた点は高く評価したい。

 筆者的にメモリーOC OTFはあまりピンと来なかったが、Curve ShaperはV-Fカーブのチューニングが状況別(CPU温度とクロック)に設定できる点においておもしろいと感じた。ただBIOS上での設定画面がかなりわかり辛かったため、各マザーメーカーがどう工夫するかに期待したい。

 次回はいよいよZen 5アーキテクチャーの詳細解説に入る。これまでのZen 4に比べなにが変わったのだろうか?

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