シャープが持つ構造的な課題とは
呉社長兼CEOは、「シャープの今後の成長を見据えると、過去から長年抱えている構造的課題がある」と指摘する。「デバイス事業は、その事業特性から、毎期、大きな投資が不可欠である。だが、SDPやシャープは、長い間、技術投資や工場投資が十分に行えず、徐々に競争力が低下し、これにより新たなカテゴリーや顧客といった成長分野に向けた開拓が進まず、結果として、市場の変化の影響を受けやすい事業構造に陥っている」と語る。これが、シャープが持つ構造的課題だ。
その上で、「デバイス事業のアセットライト化を本格的に実行し、ブランド企業としての新たな成長モデルを確立し、グローバルエクセレントカンパニーへの飛躍を目指す」との姿勢を示す。
シャープでは、2024年度を「構造改革」の1年とし、2025年度~2027年度を「再成長」の3年と位置づけ、将来の飛躍に向けた変革に取り組む。2028年度以降、グローバルエクセレントカンパニーを目指す考えだ。
ここで同社が掲げているのが、「アセットライト化」と「ブランド事業に集中した事業構造」の実現である。
アセットライト化は、先に触れたように、SDPによる大型ディスプレイの生産停止、中小型ディスプレイ事業における他社との協業および工場の最適化、カメラモジュール事業および半導体事業のパートナーへの事業譲渡が柱となる。
一方、「ブランド事業に集中した事業構造」では、既存ブランド事業と、新産業による「正のサイクル」の創出を掲げる。
ここでは、「成長モデルの確立」として、スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワークの3つの既存ブランド事業において、抑制していた投資を再拡大。売上高と利益成長を目指すとともに、成長領域へのシフトを加速し、創出したキャッシュを先端技術に投資して、成長する新産業分野での事業機会の獲得に挑戦する考えだ。これを「正のサイクル」と位置づける。
既存領域では、環境および健康分野を中心に高付加価値商材を展開するほか、「家電×AI」による新たな顧客体験の創出、カーボンニュートラル関連需要の拡大を捉えた新商材の提案、MFPの顧客基盤を活用したソリューションビジネスの強化、XRや車載、衛星通信分野へのリソースシフト、新たなAI関連端末の創出に挑むという。
また、「新産業の方向性」を掲げ、「技術力強化による付加価値の向上、事業領域の拡大の2つの観点からNext Innovationの探索を加速する」とする。ここでは、AIと次世代通信の掛け合わせた家庭向けおよびオフィス向けソリューションの高度化と最適化、生成AI利用環境の構築ニーズの拡大、AIエージェントの普及、衛星通信の普及とV2X技術の確立に挑むという。さらに、自動運転の普及に伴う新たな生活ニーズの高まりや、電力マネジメント技術の重要性の高まりにあわせた事業領域の拡大に取り組むとした。
親会社である鴻海では、「3+3トランスフォーメーション」を推進しており、三大未来産業として、「EV」、「デジタルヘルス」、「ロボティクス」の3分野、三大コア技術として、「AI」、「半導体」、「次世代通信」の3分野をあげている。今後、シャープの新産業の取り組みにおいては、これらの分野における鴻海との緊密な連携が進むことになりそうだ。
呉社長兼CEOは、「創業112年目を迎えたシャープが、次の100年を目指すため、ブランドを再度強化し、新たなチャンスを掴み、イノベーションを起こすブランド企業になることを目指す」と意気込む。
2年連続の大幅な最終赤字を計上したシャープが、再び浮上することができるのか。
「シャープが再び信頼を回復していくためには、立てた計画を毎期着実に達成していくことが重要である」と、呉社長兼CEOは語る。
呉社長兼CEOが就任してからの2年間は、打ち出した計画は公約通りにはならなかった。そして、その状況を呉会長兼CEO自らが説明する場をあまり用意せず、ステークホルダーとの対話が少なかった点は、経営の不透明感や、打ち出した計画の実効性に対する不信を高めることにつながっているとの指摘もある。
呉社長兼CEO自らが、中期経営方針の進捗状況を、四半期ごとにしっかりと説明することが、まずは信頼回復の第一歩になるのではないだろうか。
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