みなさんは「よこはま子ども国際平和プログラム」をご存じですか?
こちらは、毎年約4万人の横浜市内の小中学生が、
〇「国際平和のために、自分がやりたいこと」について主張する「よこはま子ども国際平和スピーチコンテスト」に参加
〇校内選考、区予選を突破して、市本選で市長賞を受賞した4名の「よこはま子どもピースメッセンジャー」が、ピースメッセージや市長メッセージ、ユニセフ募金をニューヨーク国連本部等に直接届ける
といった活動で構成されるプログラムで、1996年から実施しています。こんな壮大なプログラムを28年間も続けているなんて、横浜ってやっぱり特別です。
この連載は、本プログラムの担当者(教育委員会事務局 兵頭)がお届けする、子どもたちの「活動レポート」。 第1回は令和5年度よこはま子どもピースメッセンジャーの1人、品濃小学校6年(当時)の「吉田愛さん」の成長物語です。
美味しいもの大好き! ピースメッセンジャー・吉田さんの素顔は?
「あのぉ、NYでハンバーガー食べたりできますか?」NY派遣説明会の最後に、少し恥ずかしそうに質問をした吉田さん。「食べられるように計画してみますね。」と答えた私に見せた満面の笑みは、スピーチコンテストで見せた真剣な表情とは違う「美味しいものが大好きな12歳」でした。
吉田さんがスピーチコンテストで伝えたことは「お互いを知ることの大切さ」。以前、中国に住んでいたころに経験した、お互いの文化を知らないことで起きた摩擦、逆に、知ることで深まった友人との関係を基に、互いを「知ること」が世界平和の実現に大事、と主張しました。
NY派遣では、活動に先立って国連ツアーに参加し、国連館内にある絵や彫刻を見学したり、国連が果たしてきた役割や歴史を学んだりしました。そこで、吉田さんの心に一番残ったのは、ノーマンロックウェルのモザイク画(以下写真)。この絵の中には、全ての民族、宗教、人種が描かれており、この絵を見た瞬間、「こんな世界になってほしい!」と強く思ったそうです。理由は、その絵の中では、一人ひとりの違いを受け入れ、みんなで一緒にいる世界だったから。幼いころの異文化体験から、世界平和って何だろう、どうすればそこへ近づけるのだろう、と考え続けてきたことで磨かれた感覚が、絵を見てそう感じさせたのだと思います。
吉田さんにとっては、国連ツアーで訪れたどの場所も、世界を平和にしたいという思いを、強く感じる場所だったようです。
1954(昭和29)年に日本から国連本部に寄贈されたもの。毎年、9月の国際平和デーには、国連事務総長が、世界平和を祈念して鐘を鳴らす式典を行っているそうです。
会談を通じて感じたこと、将来の夢
ピースメッセンジャーとしての活動のメインは国連第一線で活躍される方との会談です。令和5年度は、以下の方々と会談を行いました。
・ 国際連合事務次長 メリッサ フレミング氏
・ 国連事務総長補佐 リサ ブッテンハイム氏
・ 国際連合経済社会局 局長 ジョン ウィルモス氏 小野 舞純氏
・ 国際連合児童基金(ユニセフ)本部 ローレン ランブル氏 深瀬 理子氏 他5名
会談では、子ども実行委員(スピーチコンテスト本選出場者)全員で考えたピースメッセージや、各ピースメッセンジャーの国際平和への思いを伝え、国連の方々からも、暖かいメッセージやエールをいただきました。
中でも、難民問題に⾧く携わってこられた国際連合事務次⾧メリッサ・フレミング氏との会談で吉田さんの心に残ったのは、「一人一人が自分の声を出して、平和のための動力にすることが大切」「若い人たちの力が必要、可能性を信じて世界が抱える問題に関わってほしい」というメッセージ。
そして、フレミング氏との会談を通して吉田さんが感じたことは、
〇今世界で起きていることに対して、自分だったらどうするか、と考えることが大切。
〇私たちが今、こうして毎日安心して過ごせることに関して、自分を支えてくれているたくさんの人たちに、感謝の気持ちを伝えていきたい。
といったことでした。
中東の紛争への対応で多忙の中、会談に応じてくださり、ピースメッセンジャーの話には、時に涙を浮かべながら、真剣に耳を傾けてくれました。
その日の会談を終え、国連のギフトショップでお買い物タイム。まだ、二日目なのに、ほとんどのお小遣いを使い果たした吉田さん。それだけ国連で感じたことが大きく、強い思いを抱いたということですよね!?
ホテルへの帰り道、「先生、私、あの、実は、国連で働きたいって思いました。すごく大変な仕事だってわかってるんですけど、私、目指してもいいと思いますか?」「いいに決まってるでしょ。」これ以外の答えはありません。
平和への意識はこれまでも持っていた吉田さんですが、会談をひとつずつ重ねるにつれ、その意識はさらに高まり、発する言葉には強い意志と具体的な目標が現れるようになりました。
活動を終えて
「戦争、環境、ジェンダー、人権問題…。SDGsにあるように、今世界が抱えている課題はたくさんあります。アプローチの仕方は一人一人違っても、世界をよりよくしたいという気持ちがあれば、私達に出来ることは必ずあると学びました。私は、まず今与えられている環境に感謝して、これから世界をより良くするために、視野を広げ、知識をつけ、自分に出来ることは何か、を考えていきます。そして、周りの人達と協力して、自ら声に出して、行動に移していきたいです。」(吉田さんの言葉)
最終日に、みんなでとうとう念願のハンバーガーを食べました!
NYでの1週間で、感性を研ぎ澄ませ、見るもの聞くものすべてをスポンジのように吸収して成長した吉田さん。でも、ハンバーガーを幸せそうにほおばる顔は、やっぱり美味しいものが大好きな12歳でした。