このページの本文へ

3年目のテーマは「健幸都市推進」「ゼロカーボントラベラー」「再エネ100%区域への企業誘致」

北大 大学院生による富良野市、石狩市へのDX提案、最終報告会を開催

2024年04月01日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 日本オラクルが北海道大学(北大)、富良野市、石狩市とともに取り組んでいる「北海道大学博士課程 DX提案実習:富良野市・石狩市の課題解決に向けたDX提案」プロジェクトの2023年度最終報告会が、2024年3月28日、北海道大学理学部大講堂で行われ、同プロジェクトに参加した13人の北海道大学院生が成果報告を行った。

「北海道大学博士課程 DX提案実習:富良野市・石狩市の課題解決に向けたDX提案」プロジェクトの2023年度最終報告会が開催された

(左)富良野市長の北猛俊氏と石狩市長の加藤龍幸氏、(右)北海道大学 副学長の石森浩一郎氏

 日本オラクルと北大、富良野市では、2021年に「北海道富良野市のスマートシティ推進に関する産官学連携にかかる協定」を締結。富良野市が抱える地域課題に対して、北大 博士課程の学生が、オラクルのクラウドサービスを活用してデータ分析や可視化を行い、課題解決の施策提案を行い、実証実験の検討を行うなど、産官学によるスマートシティの推進を行ってきた。

 これまで「観光」や「エネルギー」をテーマとしてきたが、3年目となる2023年度は「市民の健幸都市推進」と「秋のゼロカーボントラベラーの若年層開拓」の2つが設定された。また今年度から石狩市もプロジェクトに参画し、「電力需要の100%を再エネで供給することを目指す区域『REゾーン』への企業誘致と地域活性化」がテーマとなった。

富良野市(左)、石狩市(右)が今年度示したワークショップのテーマ

 北大では、大学院生がこれらのテーマに沿って3つのチームを構成し、それぞれ研究活動を行ってきた。6回のワークショップと現地でのフィールドワークを実施し、自治体から入手したデータなどを活用しながら、仮説立案、仮説検証を経て、施策提案を行った。なお今年度のプロジェクトでは、データ分析だけでなくUIデザイン設計という新たなアプローチ手法にも挑戦し、活動を進化させている。

富良野市の「健幸都市推進」、アプリの機能統合やUI改善を提案

 富良野市が提示したひとつめのテーマである「市民の健幸都市推進」に対しては、「健幸&情報&決済アプリへのアップデート」という切り口から、富良野市が推進する健幸ポイント事業の改善についての提案が行われた。

富良野市のテーマ「市民の健幸都市推進」に対する、プロジェクトチームからの提案概要

 富良野市が市民の健康促進を目的に推進する健幸ポイント事業では、ユーザー(市民)が歩いた歩数に応じてポイントがたまり、1000ポイント以上になると商品券に交換することができる。最新データによると、453人が登録しており、登録者の平均年齢は58.4歳。登録者のおよそ7割が商品券に交換した経験を持つという。

 今回プロジェクトチームでは、収集したデータの分析、スポーツセンターやスポーツジム、保健センターなどでの情報収集や意見交換を行った。その結果、「就労世代ではポイント獲得が難しい基準になっている」「女性の歩数達成率が低い」「冬場の運動量が少ない」「アプリへの登録方法が難しい」といった課題が浮かび上がった。

 プロジェクトチームは、こうした課題を解決して「参加者増大」と「交流の促進」を図るための提案を行った。具体的には、参加者をグループ分けしてライフスタイルの合ったポイント事業にすること、ウォーキング以外の運動でもポイントを付与すること、全世代を巻き込んだ取り組みに進化させて交流を促進することなどを提案している。また「登録しやすいアプリ」を実現するために、ほかのアプリの機能も取り込んで統一を図ること、アプリのUIデザインを一新してあらゆる世代が使いやすいインタフェースにすることなども提案した。

「参加したくなるポイント事業」を目指し、アプローチやアプリの改善を提案

“自然環境×ARコンテンツ”で観光オフシーズンの観光誘客も

 富良野市のもうひとつのテーマ「秋のゼロカーボントラベラーの若年層開拓」については、自然環境とAR技術を組み合わせて観光を盛り上げる「デジタルで彩る富良野」が提案された。

「秋のゼロカーボントラベラーの若年層開拓」については、富良野市の自然環境とAR技術の組み合わせが提案された

 ラベンダー畑が観光資源になっている富良野市では、春夏の観光客は多い一方で秋冬の観光客は少ない。また、観光客の属性を分析してみると「子ども連れ(家族旅行)」観光客、そして「道内」の観光客が多い。こうしたデータを背景に「親が30~40代、子供は小学校低学年」の道内在住家族をターゲット像に設定。この家族が楽しめるアクティビティを提供することで、秋の富良野へ観光にきてもらう施策を検討した。

 プロジェクトのフィールドワークでは、森で遊ぶことができる「自然塾」や、バターづくりなどの体験ができるチーズ工房を視察。その結果、「秋に楽しめる」「富良野ならでは」のアクティビティが少ないことが課題に浮上した。

 プロジェクトチームでは、本物の自然環境とバーチャルなARコンテンツをスマートグラスで組み合わせたサバイバルゲーム風の体感型ゲームアトラクション、植樹事業の変遷を過去から未来にわたってバーチャル空間で見せるタイムトラベル体験などを提案した。デジタルコンテンツの活用によって、自然環境に負荷をかけずに展開できるほか、需要の変化に応じた変更や最適化が可能になる点も考慮したという。

 また、現状では観光客に関するデータが少ないことから、観光案内アプリの開発と運用を通じてデータ収集を行うことを提案。属性データや行動データ、金銭使用データなどを収集することで、今後の観光客誘致施策にも活用できるとした。

(左)現状の観光客は「家族旅行(子ども連れ)」「道内在住者」が多い (右)総合的な観光案内アプリを提供し、属性/行動/金銭使用データの収集を図る提案も

石狩市の「REゾーン」、企業誘致と地域活性化に向けた提言

 石狩市が提示したテーマ「電力需要の100%を再エネで供給することを目指す区域『REゾーン』への企業誘致と地域活性化」に対しては、「脱炭素自律社会の実現に向けた総合政策パッケージ」が提案された。石狩市では、石狩湾新港地域において、データセンターおよび周辺施設における再エネ電力の利用を推進し、さらなる産業集積を目指している。

石狩湾新港地域の「REゾーン」への企業誘致、地域活性化がテーマ

 プロジェクトチームでは、REゾーンの現状について、再エネ発電の開発主体の多くが道外資本であること、開発に伴う地域内での資金循環が担保されていないこと、再エネ電力を地域で活用する仕組みが整っていないことを課題と指摘する。こうした課題を解決するために、プロジェクトチームでは「再エネの産業化」と「脱炭素の地域文化への昇華」を目的とした施策を示した。

 具体的には、石狩市の価値向上をゴールに設定し、脱炭素電源によるデータセンター誘致を主軸とした地元企業への利益還元と、住民の暮らしやすさを追求した施策を打ち出し、脱炭素や企業誘致などの高度専門人材の確保による地域活性化と、条例施行などによる市内での実証実験の誘致およびREゾーンへの企業進出を提案。さらに、洋上風力設備を活用することでの地場産業への経済波及、CO2排出量算定ツールの導入による環境指標の可視化、公共交通機関における通勤通学需要な応じたオンデマンド交通の導入によるCO2排出量の削減などを盛り込んだ。

「『REゾーン』への企業誘致と地域活性化」課題分析と提案

「一般社会課題、地域課題に取り組むことは専門分野の研究にも役立つ」

 報告会に参加した富良野市長の北猛俊氏は、「実際に富良野市を訪れて感じたことを起点に整理し、データや市が抱える課題を理解した提案であった。富良野市は転換点を迎えており、既存の施策の延長線上ではないアイデアが必要。その点で、貴重な提案をしてもらった」とコメントした。

 また石狩市長の加藤龍幸氏は、「自治体には高度専門人材の育成が難しい状況にあり、外部人材の登用は必要だと感じている。石狩市は国内最大の洋上風力を港湾区域内で稼働しており、一般海域における大型洋上風力が導入されれば、再エネの重要拠点として、雇用拡大にも寄与できる。軌道系交通機関がない石狩市においては、オンデマンド交通の実証実験やロープウェイに関する調査も実施しているところだ。さまざまな提案を受けたことは真摯に受け止め、世の中に貢献したい」と述べた。

 日本オラクル 常務執行役員 クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括の本多充氏は、「本プロジェクトは3年目を迎えた。取り組みを通じて、自治体に貢献できることとともに、DXを考える学生がたちにIT業界に入ってもらえることを期待している。健康、環境、観光は、これからの世界と日本で必要なテーマ。参加した学生の将来にとってもこの経験は意味がある。今後も何かしらのかたちで興味を持って継続してほしい」と述べた。

 北海道大学 副学長の石森浩一郎氏は、「研究は、問題を発見して解決することの繰り返しだが、今回はその対象が自分たちの専門分野ではなく一般社会の課題、とくに地域の課題である点が特徴。対象が異なると違うやり方が必要であり、それを学ぶことは専門分野での研究にも役立つだろう」と述べた。

 北海道庁 総合政策部次世代社会戦略局長の上原和信氏は、「フィールドワークで課題を抽出し、改善の提案を行ったり、数字を交えた提案を行ったりししたこの取り組みが、来年以降も広がることを期待している」と語った。

 なお報告会では、過去2年間のプロジェクトの事後経過報告もなされた。富良野市では、ごみ収集アプリの実証実験やワインのミニボトルの試験販売、ホームページのリニューアル、環境関連イベントの開催、年代にマッチングしたSNSの配信などにおいて、プロジェクトの提案を参考にした施策が進められているという。

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ