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AIが早期胃がんの発見をサポート、内視鏡画像診断支援ソフト「gastroAI-model G」

胃カメラ画像のAI解析で“がん見逃しゼロ”目指す、AIメディカルがAI医療機器発売

2024年03月06日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 医療AIスタートアップのAIメディカルサービスは、2024年3月4日、いわゆる胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)中に、画像のAI解析によって早期胃がんの病変候補を検出して医師の診断補助を行う「内視鏡画像診断支援ソフトウェア gastroAI-model G」を発売した。厚生労働大臣からプログラム医療機器としての承認を受けた“AI医療機器”となる。

内視鏡機器に接続した「gastroAI-model G」のデモ。病変部位の可能性が高い部位(Consider biopsy:病変候補)を画像からリアルタイムに判断し、枠線で示している

 AIメディカルサービスのCEOを務め、自らも内視鏡臨床医である多田智裕氏は、多数の医療機関から提供された質の高い教師データで学習したAIが医師の診断をサポートする同製品を通じて、内視鏡検査における早期がん疑いの「見逃し」を防ぎ、一人でも多くの命を救うことに貢献していきたいと語った。

 なお同日には、X線/CT/MRI/内視鏡領域で診断支援AI「EIRL(エイル)」を開発/提供するエルピクセルとの販売業務提携も発表している。

AIメディカルサービス 代表取締役 CEOの多田智裕氏

AIメディカルサービス 国内事業責任者の成毛雅貴氏、業務提携を発表したエルピクセル 代表取締役CEOの鎌田富久氏

早期胃がん疑いの病変をAIの画像解析で検出、「見逃し」を減らす

 gastroAI-model Gは、医療機関において、既存の内視鏡機器にケーブル接続したPC(画像キャプチャボード、GPU搭載)にインストールして使用するソフトウェア。内視鏡機器から送られた画像(静止画)をリアルタイムにAI解析して、生検などの追加検査を行うべき早期胃がん疑いの病変を検出することで、医師の診断を補助する。確定診断ではなく、内視鏡検査における「病変の見逃し」を減らすことが目的の製品だ。

 オリンパス製、富士フイルム製の内視鏡機器に対応しており、内視鏡機器側のカスタマイズは不要。検査中に内視鏡のハンドルでフリーズ操作(静止画の取得操作)を行うだけで、自動的にAI解析が実行されて判定結果が表示される。

内視鏡機器に接続されたgastroAI-model G(ラック下の黒いPCで稼働)。がんの可能性が低いものについては「Low Confidence」と表示する

 日本国内では、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に基づき、2023年12月26日付で医療機器としての製造販売承認を取得している。またシンガポールにおいても、2024年2月19日付でHealth Sciences Authority(健康科学庁)の審査および機器登録手続きを完了している。

 PMDA(医薬品医療機器総合機構)が公開している製品資料では、胃内視鏡画像を使った性能評価試験において、人間の専門医、非専門医よりも高い感度でがん病変を検出したことが記されている。

 gastroAI-model Gのライセンス価格(税抜)は、初期費用が100万円、年間利用料が240万円。年単位の利用契約で、常に最新バージョンへのアップデートが提供される。

 AIメディカルサービス 国内事業責任者の成毛雅貴氏は、gastroAI-model Gの販売戦略として、まずはキーオピニオンリーダーとなる医師が在籍する中核医療施設への導入を進め、使用した結果の学会発表や論文発表を経てエビデンスのあるかたちで市場評価を形成し、メインストリーム市場に波及させていきたいと語った。

日本の内視鏡医療は世界トップレベル、その知見をAIで世界へ展開する

 多田氏は、特に胃がんでは早期ステージで発見することが患者の命を救うことにつながるが、人間の目で行う内視鏡検査では「どうしても病変の見逃しが起こる」と、現状の課題を指摘する。

 AI技術の助けを借りてこの「見逃し」をゼロに近づけるべく、2017年から研究開発を続けてきたのが、今回発売されたgastroAI-model Gだ。国内外100以上の共同研究機関からサポートを受け、世界トップクラスの医療機関から教師データの提供を受けて開発したという。

 「(内視鏡検査による)早期の胃がんの診断は非常に難しい。この診断を、人が一生かかっても覚えきれないような(大量の)データを学習したAIが支援することで、がんの見逃しを半減させる。内視鏡検査の質の向上と均てん化(医療の地域格差をなくすこと)に貢献できると確信している」(多田氏)

特に胃がんや食道がんは早期発見が重要だが、人間の目だけではどうしても「見逃し」が起こる

 さらに多田氏は、日本は内視鏡医療の発祥国であり、レベルの高い内視鏡医が多くいること、内視鏡検査が普及していることから、高品質なデータも大量に得られると説明する。それを基に「日本の内視鏡AIは世界市場をリードできる」と述べ、グローバル展開を進める方針を示した。

 事実、日本の人口当たりの内視鏡医数は他国と比較して顕著に多く、世界1位だ。その結果、日本では胃がんが早期ステージで発見されるケースが多く、胃がんの罹患率に対する死亡率を低く押さえ込むことができている。裏を返せば、内視鏡医の質/量が足りていない海外において、gastroAI-model Gのような内視鏡AIに対する潜在的ニーズは日本よりもさらに高いと考えられる。

 「(日本と違って)胃がんを早期発見することができていない国では、胃がんになる=胃がんで亡くなる、になってしまっている。われわれのプロダクトを世界展開することで、世界の患者を救うことができると確信している」(多田氏)

日本が内視鏡AIの開発をリードし、内視鏡医が足りないために早期発見ができていない国々に展開することで、多くの患者を救えると多田氏は語った

 AIメディカルサービスでは今後、gastroAI-model Gにおいて、動画での検出対応や複数病変の同時判定といった機能/性能拡張、食道や大腸といった解析対象器官の拡大、そして上述したように海外への販売展開を図っていく方針だ。

gastroAI-model Gの今後の製品展開

 なお同日発表したエルピクセルとの業務提携を通じて、AIメディカルサービスではgastroAI-model Gに加えて、エルピクセルの大腸(下部消化管)内視鏡検査向けの画像解析ソフトウェア「EIRL Colon Polyp」の提供を開始する。これにより、医療機関に対して上部/下部対応の内視鏡画像診断支援AIをトータルサポートで提供するとしている。

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