中小企業層にもマネージドEDR=「ESET PROTECT MDR」の提供拡大へ
キヤノンMJとESET、EDR/XDR市場でのシェア拡大に向けた戦略を語る
ESETジャパンとキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は2024年2月14日、「ESET事業戦略発表会」を開催した。スロバキアから来日したESET CEOのリチャード・マルコ氏は、ESETのビジネスの現況と2024年の注力テクノロジー、今後のビジョンなどを語った。またキヤノンMJ セキュリティソリューション企画本部 本部長の輿水直貴氏は、EDR/XDRをマネージドサービスとして提供する「ESET PROTECT MDR」ビジネスへの注力方針と、そのために取り組む具体的な施策を示した。
年率20%成長が見込まれる国内EDR市場、MDRを軸にシェア拡大目指す
キヤノンMJでは、およそ20年前の2003年からESET製品の国内総販売代理店を務めてきた。ただし、両社共催による戦略説明会は今回が初めてだという。キヤノンMJ 取締役 上席執行役員の蛭川初巳氏は、今回共催した理由について「マルウェア対策で高いブランドを築いてきたESETが、エンドポイントを包括的に守るためのセキュリティベンダーとして進化し続けていることを、多くの企業にお伝えしたいため」だと説明する。
「ESETの高度な技術力と、キヤノンMJグループの質の高い提案力や顧客をサポートする力、その2つを掛け合わせて、両社のパートナーシップもさらに強化しながら、今後もお客様に高い価値を提供していきたい」(蛭川氏)
現在のエンドポイント(PC)セキュリティ市場は、マルウェアの侵入/感染を事前に予防するEPP(Endpoint Protection Platform)と、セキュリティ侵害発生後の迅速な検知/対応を行うEDR(Endpoint Detection & Response)の2つで構成されている。蛭川氏が述べた「エンドポイントを包括的に守るセキュリティベンダー」という言葉は、ESETがEPPとEDRの両方をラインアップしていることを指している。
そして、キヤノンMJがこれから注力していくのがEDR、そしてマネージドサービス型EDRであるMDR(Managed EDR/XDR)だ。
キヤノンMJの輿水氏は「ひと言で言えば、マルウェア対策(EPP)の市場は成熟市場、EDRの方は成長市場」だと説明する。富士キメラ総研の予測によると、2022~2027年の年平均市場成長率(CAGR)は、国内EPP市場が1.4%にとどまるのに対して国内EDR市場は19.4%と高い伸びを見せる。2027年には、EDRの市場規模がEPP市場を逆転する見込みだ。
ただし、EPP市場では国内シェア第2位にまで成長したESETも、EDR市場では後発ベンダーという立場であり、シェアもごくわずかだ。そこでキヤノンMJでは、EDR市場におけるESETのシェア拡大に注力していく。
「正直なところ、まだEDR市場においてわれわれ(ESETおよびキヤノンMJ)はプレイヤーとして認知されておらず、顧客数は増えているもののシェアとしては低い。ただし、すでにEDR、MDRを提供する体制については準備が整っている」(輿水氏)
中小企業向けMDR新製品の提供、パートナーを通じた提案強化などの施策
EDRシェア拡大の取り組みのひとつが、1月に提供開始を発表した「ESET PROTECT MDR Lite」だ。これは、セキュリティ専任担当者のいない中小企業(従業員100~499名規模)をターゲットとしたMDRで、キヤノンMJグループとESETが連携して運用作業(24時間365日の脅威監視と侵害の検知、侵害後の自動化による初動対応)を代行する。最小50ライセンスから導入できる。
輿水氏は、EPPとEDRでは役割(対象とする脅威)が異なるため、どちらか一方だけではエンドポイントを十分に守ることはできず「両方とも堅牢な製品を使う必要がある」と強調した。「この両方ともで高いレベルを持つのがESETであり、包括的にエンドポイントを保護することが可能だ」(輿水氏)。
ESET PROTECT MDRの国内導入事例も紹介した。
キヤノンMJ自身が導入した大規模な事例(エンドポイント2万台規模)では、IT部門がセキュリティ対策の企画や構想に注力するために、EDRの運用をアウトソースしている。その結果、長い時間がかかりがちなチューニングを約1カ月で終わらせ、およそ4カ月で導入を完了できたという。また、ランサムウェア感染など重大度の高いインシデントを検出した場合には、すぐにPCをネットワークから自動遮断する仕組みも作り、運用負荷を軽減しているという。
またダイレクトマーケティング事業や図書館事業を展開する中堅企業のヴィアックス(従業員1858名)では、MDRの導入によって24時間365日のセキュリティ監視を最低限の投資とリソースで実現したほか、全国およそ100拠点のセキュリティを一元的に管理し、リモートからでも素早く問題を解決できる体制が整ったという。
輿水氏は最後に「MDRはより幅広いお客様に必要とされるソリューションだと考えている」と述べ、販売パートナー支援やSIパートナー連携強化を通じた「ソリューション提案体制の強化」、キヤノンMJグループ内のEPPエンジニアに対するEDR/XDRトレーニングの強化やサービスエンジニア採用を通じた「運用サービス提供体制強化」の2軸で、取り組みを強化していく方針だと説明した。
なお、中小企業層におけるMDRへの理解度やニーズは高まっているのか、という質問に対しては「お客様からのお問い合わせ、さらに案件化するケースは非常に増えている」としたうえで、「われわれとしても、まずはMDRにどういう利点があるのかをお伝えすることを一番重視して対応している」と述べた。さらに、EPP市場でシェアを伸ばしていることを強みとして、同一ベンダー製のXDR(MDR)の導入/運用のしやすさをアピールしていくと説明している。
ESET CEO:日本市場でのさらなる成長機会に期待を示す
ESETのマルコ氏は、ESETビジネスの現況や今後のビジョンについて説明した。
1993年創業のESETは過去25年にわたってビジネス成長を続けており、2023年の売上高は6億8570万ユーロ(およそ1100億円)、そして「この成長はさらに継続すると予想している」(マルコ氏)という。現在、グローバルに23のオフィスと12のR&D(研究開発)センターを構え、従業員数は2300名を超える。特にR&Dについては継続的に注力しており、「R&D投資は5~6年ごとに2倍増となっている」と語る。
日本のエンドポイントセキュリティ市場について、マルコ氏は、2023~2027年のCAGRで10%の伸びを予測していると述べた。中堅/中小企業領域の成長が期待できるほか、エンタープライズ領域ではEDR/XDR、さらにマネージドサービス(MDR、MSSP)や脅威インテリジェンスサービスも成長を促進する要因になると見ている。
日本の法人向け市場における成長余地のひとつとして、マルコ氏はクラウド管理型のESET PROTECTソリューションを挙げた。法人向け総売上高に対するクラウド版ESET PROTECTの比率は、日本はグローバルよりも低く25%程度にとどまる。グローバル平均は30%超、米国市場に至っては90%以上だという。「日本はクラウド採用が若干遅れているが、これは、オポチュニティ(成長機会)がまだあると言うこともできるだろう」(マルコ氏)。
またマルコ氏は、ESET PROTECTが提供するXDRはエンドポイントだけでなくネットワーク、クラウド/オンプレミスのインフラ、ユーザーID、アプリケーションと幅広い保護対象を網羅していること、MDRではもともとエンタープライズ向けに提供してきたものを中小企業でも利用できるようにしていることを説明した。
最後にマルコ氏は、今年2024年に展開する予定の技術として、エンドポイント上のファイルがランサムウェア攻撃によって暗号化された場合にロールバックを行う“ランサムウェア修復”や、ESET PROTECTコンソールで脅威インテリジェンスに関する自然言語での質問応答を行う“AI LLMチャットボット”の2つを紹介した。