高層ビルや歴史的建造物など、丸の内の建物群を現場のレポートを交えながら紹介する連載「丸の内建築ツアー」。4回目は、丸の内エリアで保存され、超高層ビルと融合した近代建築物の中で最も超高層ビルと馴染んでしまっていて気がつかない「日清生命館/大手町野村ビル」について紹介していきたいと思います!
日清生命館から大手町野村ビルへと至るまでの歴史
大手町野村ビルは、東京都千代田区大手町二丁目に建つ地上27階、地下5階、高さ138m、1994年2月竣工の超高層ビルです。遠目で見ると、ベージュ色の外壁に水平方向のガラスの組み合わせのごく普通の平成初期に建てられた超高層オフィスビルに見えますが、実はこのビルも近代建築物と超高層ビルが融合したものとなっています。
低層部分の交差点側に目を向けると、時計塔が組み込まれていることがわかります。これは、1932年10月20日に竣工した佐藤功一設計の地上7階 (時計塔9階)、地下1階のビル「日清生命館」を保存したものです。
時計塔や尖塔、列柱といった文化的価値の高いファサードが保存
日清生命館は、日清生命保険の本社屋として建設され、竣工から約10年が経過した第二次世界大戦中の1941年12月に日清生命保険は野村生命保険に吸収されたことから、野村財閥の所有となり、野村生命保険や野村銀行東京支店が入ったほか、名称も「丸ノ内野村ビルディング」と改名されています。そして戦後の1950年8月15日に東京生命保険に譲渡され、大和銀行東京支店として供用されていました。バブル期に大和銀行と東京生命保険の共同出資で超高層ビルへの建て替え計画が浮上し、解体されますが、大和銀行と東京生命から外観の一部保存要望が出たことに加え、東京都からも時計塔や尖塔、列柱といった文化的価値の高いファサードの保存要請がなされました。それにより、設計を請け負っていた大成建設は、当時近くに建っていた「東京銀行協会ビルディング」と同様に低層部分に近代建築物のファサードを組み込み、価値ある意匠を保存しつつ超高層ビルを建設する手法を採用し、このような建築の形態が実現しました。
超高層ビルそのものは1994年2月にⅠ期工事として竣工、その後、1997年2月に建物北側のガラス張りのアトリウムやアトリウム手前の公開空地整備が完了し、竣工しました。
大手町のランドマークとして親しまれた時計塔は今も稼働
保存された低層部分のコーナーに位置している時計塔は、大手町のランドマークとして親しまれたもので、建て替えが行われた現在でも位置は当時のままとのことです。また、時計は現在も稼働しているものであるほか、交差点からの視認性も高く、超高層ビルが背後に組み込まれても目立つ存在です。また、北西側基壇部頂部には、尖塔が残されており、装飾の施された石積みの外壁が徐々にセットバックしていく姿が特徴となっています。
日清生命館の外観ファサードはルネサンスにゴシック風を加味したデザインとされており、石張りにテラコッタの繊細なゴシック風装飾を組み合わせた点が特徴的です。特に窓部にはブロンズ製の格子が嵌め込まれた場所があり、窓間には繊細なレリーフが施された場所もあります。
南側エントランスは日清生命館時代の石材の用いられた重厚な門形の庇と金属の重厚な扉、荘厳な見た目の門灯、庇部の持送りが残されていますが、正面左側の壁は取り払われ、エントランス前の吹き抜け空間につながる通路に生まれ変わりました。
新設された大手町野村ビルのガラス張りアトリウム空間
1997年2月にⅡ期工事が竣工した際に新設された建物北側のガラス張りのアトリウム空間は、地上部に旧日清生命館と同様に花崗岩を壁面に使用し、旧来部分と調和を図りつつも、見上げるとガラス張りで明るい近未来的な空間が広がっています。また、エレベーターホール側の壁面は石の門が象られており、日清生命館のエントランスを彷彿させる姿になっていました。
現在はこちらがメインエントランスとして機能しており、大手町駅方面へ接続する地下通路への出入口も存在しています。ちなみに過去に公衆電話コーナーとして活用されていたと思われる場所には「大手町野村ビルの概要」や「日清生命館の概要」、「建築家 佐藤功一」を紹介するパネルが展示されていました。
ということで、今回は「日清生命館/大手町野村ビル」について現地からレポートしてきました。これまでの建造物とは少し違い、歴史的な建物でありながら、ごく普通の超高層ビルにも見え、丸の内の街に溶け込んでいるかのようでした。一方で、時計塔をはじめとして、よく見てみると歴史が詰まった貴重な建築物の側面もあり、今回も楽しいツアーになりました。ビルの歴史を知ると何気ない丸の内の景色もいつもと変わって見えてきますね。
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