2024年1月9日、AMDはCES 2024に連動した講演においてさまざまな発表を行った。本稿は自作erが特に興味を持つであろうコンシューマー向けCPUとGPUに関連するトピックをまとめたものだ。
なお、これは事前にプレス向けに共有された資料を基に執筆されているため、もしかしたら資料にないトピックも飛び出しているかもしれない(そうでないことを祈りたい)。
最強の内蔵GPUを備えた「Ryzen 8000Gシリーズ」は1月31日発売
まずCPU部門では、待望のSocket AM5向けAPU「Ryzen 8000Gシリーズ」が発表された。Socket AM5版のRyzenは最初から内蔵GPU(Radeon Graphics)が搭載されているが、Ryzen 8000Gシリーズは通常のRyzenよりも強力な内蔵GPUを持ち、フルHD&画質低設定であればビデオカードがなくてもゲームが快適に動くというコンセプトの製品だ。
ラインナップは「Ryzen 7 8700G」「Ryzen 5 8600G」「Ryzen 5 8500G」が自作PC市場向けに1月31日に発売され、やや遅れて「Ryzen 3 8300G」も投入される。ただしRyzen 3 8300Gはメーカー製PC向けの製品となるため、CPUの単体売りはないだろう。
価格に関してはRyzen 7 8700Gは「Core i5-13400F+GeForce GTX 1650」の組み合わせよりは安い(北米基準)と価格優位性を仄めかす程度に止まった。
Ryzen 8000Gの技術的な側面は未公開な部分が多いが、CPUコアはモデルにより構成が異なる。Ryzen 7 8700GおよびRyzen 5 8600Gは全てZen 4コアで構成されるが、Ryzen 5 8500GはZen 4×2コア+Zen 4c×4コア構成。Ryzen 3 8300GはZen 4×1コア+Zen 4c×3コア構成というように、下位モデルはモバイル向けのRyzen 5 7545Uのような“同種ハイブリッドデザイン”が採用されている。
一方、内蔵GPUは全てRDNA 3世代である「Radeon 700Mシリーズ」となるが、上位モデルになるほど内蔵GPUのCU数も多くなる。最高のパフォーマンスを得たいならRadeon 780Mを擁する最上位のRyzen 7 8700G一択だろう。
また、Ryzen 7 8700GおよびRyzen 5 8600Gには、さらにAI処理専用の“NPU”も搭載されている。つまりこのシリーズはモバイル向けの「Ryzen 8000シリーズ」をベースにTDPを65Wに引き上げパワーを引き上げたもの、と表現できるだろう。特にNPUを搭載した上位2モデルでは、将来的にMicrosoftのCoPilotのパフォーマンスも有利になることが予想される。
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Adobe製アプリでは50以上の機能が、DaVinch Resolveでは20以上の機能がRyzen AIによる高速化という恩恵を享受することができる。あるアプリの特定の機能しか高速化されないが、これはインテルでもNVIDIAでも同じことだ
肝心の性能だが、インテルのCoreプロセッサー(第14世代)に内蔵されたGPU(UHD Graphics 770)よりも実ゲームにおいて2倍〜4倍のゲーミングパフォーマンスが得られ、「Cyberpunk 2077」なら画質低設定+フルHDならば平均60fps以上でプレイできるとAMDは謳う。そしてこれは前述の通りCore i5-13400F&GTX 1650の組み合わせよりも安く、さらに同条件のゲームならより高フレームレートが期待できる。
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まずは内蔵GPU対決。Core i7-14700K対Ryzen 8000Gシリーズでは「Far Cry 6」のように差が出ないタイトルもあるが、「Hitman 3」のようにRyzen 7 8700Gが4倍のフレームレートを出すこともある。いずれもフルHD&画質低設定時のデータだ
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Ryzen 7 8700Gに搭載されたRadeon 780Mのパフォーマンス。フルHD&画質低設定時の平均フレームレートは「Cyberpunk 2077」で63fps、「F1 22」では120fpsも出せるという
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Radeon 700Mシリーズも「HYPR-RX」を利用することで、AMDによるRadeon向けフレーム生成技術である「AFMF(AMD Fluid Motion Frames)」にアクセスでき、「Starfield」ではフルHD&画質低設定で平均60fpsでプレイ可能になる
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Ryzen 7 8700GはCore i5-13400FとGTX 1650の合計よりもやや安い程度で売られる見込みだが、ゲームによっては8700Gの方がより高いフレームレートでプレイできるという。こちらもフルHD&画質低設定時のデータだ
ちょっ面白いのは、今回AMDはRyzen 8000Gシリーズに対して“ビデオカードを追加してアップグレード”というアピールをしている点だ。別に従来のAPUもビデオカードを組みこむことでパワーアップできるが、あえてアピールしたということは、フルHD&画質低設定では今のユーザ(特にPS5等のパワーを知っている人)には、ちょっと引きが弱いとAMDは考えているのかも、と筆者は推測(邪推に近いが)する。
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Ryzen 7 8700GにRadeon RX 7900 XTXを追加したら、フルHD&高設定で高フレームレートが出せますよ、というアピール。RX 7900 XTX積めばそうなるだろう……という感じではあるが、ビデオカードを装着すれば(できれば)アップグレードができる、これがPCの強みなのである
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クリエイティブ系処理でもRyzen 7 8700GはCore i5-13400F+GTX 1650の組み合わせより強い。「HandBrake」の速度に至っては4倍以上高速化しているが、これはハードウェアエンコーダ利用前提の数値のようだ
Socket AM4にも1月31日に新モデル追加!?
Ryzen 8000Gシリーズよりも衝撃的なのは、Socket AM5登場により世代落ちとなったSocket AM4に新しいCPU/ APUが追加され、1月31日(北米基準)に販売が解禁される、という発表だ。ただ本稿の執筆時点では国内販売があるのかまでは判明していない、という点はお断りしておく。
Ryzen 7 5700X3D(予価249ドル)/ Ryzen 7 5700(予価175ドル)
「Ryzen 7 5800X3D」は2022年4月にAMDが初めて3D V-Cacheを実用化した製品だが、同年9月にSocket AM5版のRyzenが発売されたため事実上途絶えたと思われていた。後に「Ryzen 5 5600X3D」が出たものの、特定ルート(米Micro Centerのみ)でしか販売されていない。
だが、今回「Ryzen 7 5700X3D」という新たな3D V-Cache搭載モデルが投入された。コア数はRyzen 7 5800X3Dと同じ8基だが、動作クロックが400MHz低く設定されている。純粋なCPUパフォーマンスという点ではRyzen 7000シリーズには及ばないが、ゲーム向けのCPUという点ではまだ一線級の力を発揮できる余地がある。内蔵GPUがないのでビデオカードは必須だが、高性能ゲーミングPCを組む予算を抑えたい人向けの選択肢になるだろう。
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Ryzen 7 5700X3Dの仮想敵はCore i5-13600K。フルHD&画質高設定ではRyzen 7 5700X3Dの方が高いフレームレートが出るという。ちなみにビデオカードはどちらもRTX 4080だ
一方、Ryzen 7 5700は以前OEM向けに出荷されていたものをPIB(Processor in box)として自作PC市場向けに流通させた製品。8C16TでTDP 65W、最大ブースト4.6GHzというスペックはRyzen 7 5700Xと共通だが、こちらはCPUクーラーが同梱される。
Ryzen 5 5600GT(予価140ドル)/ Ryzen 5 5500GT(予価125ドル)
Socket AM4用のAPUといえばRyzen 5000Gシリーズだが、今度は型番末尾が“GT”とすることで内蔵GPUは単なる“G”よりも若干強力になっている。とはいえ内蔵GPUのベースはVegaなのでRyzen 8000Gシリーズほどのパフォーマンスは期待できない。あくまでSocket AM4マザーを安く動かしたい時のためのAPUなのだ。
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Socket AM4用のAPUとして新たに2モデルが追加。無論CPUクーラー同梱だ。どちらもRyzen 5であるためCPUコアは6C12T。両者の違いはブーストクロックだが、内蔵GPUのCU数に差異があるかまでは判明していない
お詫びと訂正:AMDから資料に誤りがあったと連絡があったため、該当画像を変更致しました。記事掲載当初はRyzen 5 5500GTのコア/スレッドが4コア/8スレッドとなっていましたが、正しくは6コア/12スレッドとのことです。(2024年1月11日22:00)
VRAM 16GB構成の「Radeon RX 7600 XT 16GB」は1月24日発売
最後の大ネタはRadeonの新モデル投入だ。RDNA 3の下位モデルは昨年5月にリリースされたRX 7600を皮切りに、RX 7700 XT→RX 7800 XTと展開していった。だがその際RX 7600とRX 7700 XTの性能差が大きいことに気がついただろうか? 1月24日(北米基準)に予価329ドルで発売とアナウンスされた「Radeon RX 7600 XT 16GB」はそのギャップを埋め、フルHD最高高画質でゲームを楽しむためのGPUといえる。
仮想敵はRTX 2060であり、レイトレーシングを含めたフルHDゲーミング性能では1.9倍程度になるという。無論DisplayPort 2.1やHYPR-RX(AFMF)が使えるなど、RDNS 3世代ならではの伸びしろも魅力的だし、何よりVRAMが16GB仕様なので画質を盛りまくってもVRAM消費量を気にすることはない。
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RX 7700 XTファーストレビュー記事からの引用。RX 7700 XTとRX 7600 XTの間には大きな性能のギャップがあった
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RTX 2060あたりのGPUを使っていると、最新タイトルではフルHD&最高画質プレイにはもう適さないというAMDの主張。旧世代Radeonだとどのあたりが相当するのか、という情報を絡めないあたりがさすがAMDの資料と言うべきか
RX 7600 XT 16GBのCUは32基、メモリーバス幅も128bitであるため、既存のRX 7600を流用したGPUといえる。ただTBP(Total Board Power)を25W引き上げた190Wにし、ゲームクロックも230MHz高い設定にしているのがポイントだ。
GPU設計は同じでVRAM増量というと、NVIDIAの「GeForce RTX 4060 Ti (16GB)」を想起する人も多いだろう。RTX 4060 Tiの場合はクロックもTBPも変わっていなかったため、8GBと16GB版でゲームのパフォーマンスがほとんど変わらなかった。ただAMDはNVIDIAと同じ轍を踏まないように、クロックやTBPを引き上げてパフォーマンスを出やすくしたことが読み取れる。
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RX 7600とRX 7600 XT 16GBのスペック比較。CU数やメモリーバス幅は全く同じだが、TBPやクロック周りにテコ入れが入り、VRAM容量が関係ない状況でもRX 7600 XT 16GBの方が性能が出るように調整されている
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RTX 2060/ RX 7600/ RX 7600 XT 16GBのパフォーマンス比較。RTX 2060に比べるとRX 7600で十分なパフォーマンス上昇が見込めるが、RX 7600 XT 16GBにすれば解像度をWQHDにしても平均60fps以上が期待できる
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DLSS FG(Frame Generation)を利用できるRTX 4060に対しても、RX 7600 XT 16GBはアドバンテージがある。HYPR-RXでAFMF、もしくはFSR 3のフレーム生成機能を併用すれば、RTX 4060+DLSS FGの組み合わせにも勝てる。さらに言えばAFMFはゲーム側の対応は関係ない。ゲーマーにとって大きなアドバンテージだ
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Radeonはドライバー(AMD Softare: Adrenalin Edition)の改善で進化するが、RX 7600 XT 16GBに合わせて投入される新バージョンでは動画のアップスケール機能の実装やストリーミング品質の強化、VLCへの最適化などが実装される
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Adrenalin Edition 24.1では、それ以前のバージョンよりもH.264/ H.265/ AV1再生時の画質が向上(左側)するほか、NVIDIAのVideo Super Resolutionに相当する動画のアップスケーラーも実装される。720pの元動画(右上)が1440pへアップスケール(右下)された様子が示されている
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生成系AIやクリエイティブ系処理においてVRAM搭載量は命である。RX 7600と比較すると、RX 7600 XT 16GBはより大きなデータを扱える。ただ性能は1.1倍から1.3倍と小幅な向上にとどまるので注意が必要
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RX 7600 XT 16GBは1月24日(北米基準)、予価329ドルで販売が開始される。国内における発売日や価格については不明だ。しかし、なぜライバルと同じ時期にこうも違う毛色の製品を投入するのか……レビュアーとしては頭の痛い問題だ
2024年1月は検証がアツい!
以上がCES 2024におけるAMD発表のまとめだ。特にRyzen 8000Gシリーズは小形PC自作の風景を一変させてしまう可能性を秘めている。全ての製品をレビューができるかは分からないが、可能な限り拾いあげて検証してゆくつもりだ。
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