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クラウド連携で生まれたすき間を埋める新しいメーカー系SIの形

自治体kintone案件での反省から生まれた新会社トヨクモクラウドコネクト

2023年11月01日 12時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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 11月1日、サイボウズとトヨクモは新会社トヨクモクラウドコネクトを設立する。その背景にあるのは、コロナ禍で一気に伸びた自治体のニーズに応えるという目的がある。トヨクモ 代表取締役社長の山本裕次氏、取締役 田里 友彦氏、新会社の社長に就任する小川昌宏氏に新会社に至った経緯や目的について話を聞いた。

自治体に拡大したkintone 連携サービスで支えるトヨクモ

 サイボウズとトヨクモの出資で設立される新会社トヨクモクラウドコネクト。事業内容はSaaS連携ソリューションパックの提供、構築・運用支援で、コロナ禍で一気に利用が拡大した自治体でのkintone利用をより定着させていく狙いがある。

 トヨクモ 代表取締役社長 山本裕次氏は、「複数のSaaSを組み合わせたときに、いったい誰がサポートするのか?という課題が顕在化してきました。こうした問題を解決しないと、せっかくDXが拡がっても、リスクも拡がってしまいます」と指摘する。

トヨクモ 代表取締役社長 山本裕次氏

 では、自治体案件で顕在してきたkintone活用のリスクとはなにか?2023年9月現在、kintoneの導入社数は3万社を超えている。FormBridgeやkViewerを擁するトヨクモも順調に利用者数を伸ばしており、kintoneユーザーのほぼ3社に1社はトヨクモ製品を導入しているという。なかでも急成長を遂げているのは自治体での利用で、大阪府、神戸市、神奈川県、加古川市、市川市、愛知県、高山市、岐阜市など、すでに契約数は400以上に上る。

 トヨクモ製品が自治体で利用される理由は、住民とのやりとりに使いやすいからだ。kintoneアカウントがなくても、kintoneにデータを取り込めるFormBridge、kintoneのデータを参照できるkViewerは、今まで社内での情報共有のみに閉じていたkintoneに対して、社外の取引先とつながる選択肢を提供している。

 また、「Toyokumo kintoneApp認証」という仕組みを使うことで、kintoneアカウントを持たない取引先や顧客との情報共有を簡単に、セキュアに行なえる。kintoneから容易にメールを送れるkMailerや帳票出力できるプリントクリエイターなどのサービスも用意しており、不特定多数のユーザーをカバーするB2Cに近い利用形態もサポートできるようになっている。

想定しなかったアクセスで遅延発生、個人情報公開の事例も

 トヨクモ製品を導入した自治体はオープンにkintoneを活用できるこの仕組みを使って、住民とコロナウイルスに関する問い合わせ対応を行なっている。

 たとえば、神奈川県庁 健康医療局医療危機対策本部室は、緊急事態宣言解除後の経済活動の再開の際に、濃厚接触の疑いのある人にLINEで通知する仕組みをkintoneで構築した。対象は神奈川県内の28万店舗で、緊急事態宣言の解除が前倒しになったため、開発期間は5日間しかなかった。

 超短納期のこの案件は、FormBridgeで店舗からの申請を受け、登録されたkintoneからプリントクリエイターで作成したQRコードをkMailerで店舗に送付するという方法で乗り切った。しかし、シンプルなクラウドで短期間で開発した案件には歪みもあった。トヨクモ 取締役 田里友彦氏は「中小企業の方々がスピーディに必要なシステムを開発してもらえるという点では、神奈川県はまさに成功事例です。でも、われわれとしては、まさか28万店舗がアクセスするなんて思ってなかったんです」と語る。

トヨクモ 取締役 田里友彦氏

 たまたま乗り切った神奈川県庁 健康医療局医療危機対策本部室だが、抗原検査キットの配布で同じkintoneのシステムを用いた結果、受け付けたFormBridgeに障害が発生してしまった。kintoneへのAPI同時接続数を超えたため、多くの回答がエラーとなり、データ反映まで遅延が発生してしまったという。「先着順とアナウンスしてしまったので、アクセスが殺到してしまった。しかも、ユーザーさんから事前に共有してもらってないので、弊社として対策も打てませんでした」(田里氏)。

 神奈川県ではアクセス過多が遅延を生んだが、設定ミスによる情報漏えいという事例もあった。別の自治体ではワクチン接種の予約システムのアクセス設定が適切に行なわれず、短時間ながら個人情報が公開状態になっていた事例もあるという。

ユーザー企業、サイボウズ、トヨクモの課題と限界とは?

 大規模利用によるサービス停止、情報漏えいやその疑い、ミスを誘発するような設計。こうしたトラブルの多くは、実はユーザー側の導入担当者がITプロではないという点に起因する。ベンダーではなく、導入担当者自身が設定し、レビューや承認なく公開まで行なってしまったことが原因として大きい。とはいえ、業務をわかっている現場の担当者がアプリを作れるというのが、kintoneの強みであるため、短絡的にITのプロがアプリを作ればOKという話ではないのが悩ましい。

開発の主体が変化

 また、kintone側の課題としては、今まで想定していなかった大規模な案件に利用されるようになり、プロダクトとしての限界が露呈しつつあるという点だ。実はこれに関しては、以前から指摘されていたことだが、APIの同時接続数などkintoneの仕様に関わる部分で、一両日で解消できるわけではない。また、API自体は提供しているが、APIを用いたカスタマイズに関しても、サポートの範囲を超えてしまう。

 トヨクモとしては、大人数でも安定稼働するように製品の強化を進めてきた。しかし、カスタマイズや設定はあくまでユーザー側の責任範囲なので、サポートの範囲を超える。設定変更や情報漏えい、不正アクセスの確認、アクセスログの分析も難しいし、他社と共同で調査を行なわなければならない事例も多い。シンプルで安価を追求してきたトヨクモ製品なので、保守・運用を実現できるパートナーもなかなか見当たらないという。

まずはアクセス集中に対応 今後は検証されたパッケージの提供へ

 こうした課題を解決すべく、トヨクモとサイボウズが設立したのが、トヨクモクラウドコネクトだ。ソフトウェア開発というより、保守や運用という文化を持つ組織になるため、組織をあえて別にする必要があった。「ユーザーのやったことだからと放置せず、メーカーとしての責任をきちんと感じて、こうした課題に取り組んで行くのが、新会社の役割です」と山本氏は語る。

 新会社トヨクモクラウドコネクト 代表取締役社長 小川昌宏氏は、「ローコード、ノーコードのツールを提供するメーカーとユーザーの間には、どうしても責任分解点のすき間が発生します。ユーザーの利用形態が大規模になり、現場の担当者が直接使う事例が増えてくると、そこを埋めるプレイヤーが必要になります」と指摘する。

トヨクモクラウドコネクト 代表取締役社長 小川昌宏氏

 こうした経緯で設立されたトヨクモクラウドコネクトでは、「クラウドを組み合わせて、検証して、パック化したソリューション」を提供するのが役割。短期的にはアクセス集中のような顕在化している課題に対応する「Toyokumo kintone App仮想待合室」を用意していくが、長期的にはメーカーの立場ならではのシステム設計、構築支援、サポートを提供していくという。「自治体はどこも似たような業務をやっているので、動作検証されたパッケージを安価で短納期で提供できれば、多くの自治体でメリットが出るはず」と山本氏は指摘する。

 自治体案件をきっかけにした今回の新会社設立だが、今まで中小企業が中心だったkintoneがエンタープライズ環境で利用されるようになってきた課題に向き合う一つの方策としても注目される。

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