カシオ計算機株式会社の有志エンジニアチームが開発したワイヤレスエフェクトコントローラー「DIMENSION TRIPPER」は、ギターストラップの伸縮でエフェクターを操作する新感覚のデバイスだ。10月12日からクラウドファンディング「GREEN FUNDING」で支援募集を開始。支援金額は3万5200円(税込、送料込)だが、早割特典に間に合えばお得に申し込める。2023年10月17日~20日にCEATEC2023内で開催した「IoT H/W BIZ DAY 2023」では「DIMENSION TRIPPER」がブース出展し、立ち寄った多くのギターファンらが演奏を体験していた。展示会の現場にて、DIMENSION TRIPPER開発メンバーの小林亮平氏から製品の特長と開発経緯を伺った。
ギターストラップを引っ張って、演奏するようにエフェクターをコントロール
DIMENSION TRIPPERは、トランスミッターとレシーバーの2つのデバイスからなる、新感覚のエフェクトコントローラーだ。
ギターやベースなどのエフェクターはスイッチやペダルを踏んで操作するのが一般的だが、本製品ではギターネックを上下する動きでストラップを伸縮させてコントロールする。トランスミッターをギターストラップに取り付け、レシーバーを既存のエフェクターに接続することで、トランスミッターに内蔵されたバネの伸縮による出力値をBluetoothでレシーバーに転送し、エフェクターをコントロールする仕組みだ。
足元のペダルを踏まなくて済むため、演奏しながら自由にパフォーマンスでき、ワイヤレスなので自由に動き回りながらエフェクトをかけられる。
メーカーを問わず、あらゆるギターやエフェクターに取り付けられるのも特徴のひとつ。愛用のギターやエフェクターがそのまま使えるのはありがたい。
トランスミッターは、片側のアタッチメントをギターのストラップピンに引っかけて、もう片側のアタッチメントをギターストラップに取り付け、ギターとストラップの間に挟むように装着する。これでギターのネックを上下に動かすと、シャフトが引っ張られて伸縮の操作ができるようになる。
レシーバーは、6.3ミリステレオプラグを採用。エフェクターはメーカーによって接続端子のTRS配置が異なるが、3種類のTRSスイッチで切り替えることで、BOSSやZOOMなど、さまざまなメーカーのエフェクターに接続できる。
バネの強度は、使用するギターの重量や好みに応じてアタッチメントを回転させて調整可能だ。また、伸縮ストロークは最大20ミリだが、トランスミッターの「CAL」ボタンの長押しで有効ストロークを設定するキャリブレーション機能も備える。
耐久性にもこだわり、バネ部分に使われているロータリーボリューム(つまみ)は、耐久性の高いものを使用し、クラウドファンディングの製品らしからぬ100万回もの使用に耐える規格をクリアしたレベルになっている。
まだ世の中にないものだけに最初は操作に戸惑いそうだが、実際に体験したミュージシャンからは、「楽器を演奏するようにエフェクターを直感的に操作できる」と評価は上々だそう。初めて使った人でもできるだけ自然な操作感になるように、プロのギタリストに試作品を何度も試してもらい、仕様をブラッシュアップしてここまで作り上げてきたという。
実際のユーザーに届けるため、10月12日からクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」にて支援の募集を開始。支援金額は3万5200円(税込、送料込)になるが、早割特典に間に合えばお得に申し込める。募集期間は2023年11月30日まで、目標額745万円の達成でプロジェクト成立となる。All or Nothing形式となっており、プロジェクトが達成すれば量産化に入り、2024年夏の出荷を予定している。
Bベンダーギターのバネストラップを子どもの箸箱で自作
ギター好きエンジニアのアイデアから始まったプロジェクト
DIMENSION TRIPPERのプロジェクトが始まったのは、2020年秋。回路設計エンジニアの藤井氏がフェンダー社のBベンダーギターを欲しかったことが発端だ。
Bベンダーギターは、ストラップピンにバネが組み込まれており、ストラップを引っ張ると弦の張力が変わり音程が変わることで知られている。ただし、現在は販売されていないため、藤井氏は自作に挑戦。身近にあった子どもの箸箱と輪ゴムを使ってスライドボリュームを組み込み、マルチエフェクターにつないだところ、ピッチベンドやワウなど、いろいろなエフェクターが操れることに気付いたという。社内のギター弾きの社員にも試してもらったところ、「面白い!」と盛り上がったのがプロジェクトの始まりだ。
ちょうどカシオ計算機では、社内のエンジニアを対象にしたマーケティング研修プログラムがあり、「DIMENSION TRIPPER」となるプロジェクトは、そのプログラム内での取り組みのひとつとなった。
「最初に作ったプロトタイプは子ども用のスライド箸箱の伸び縮みで音が変わるものでしたが、 2つ目はスピーカーやエフェクターも内蔵したオールインワン型を開発しました。すると、ボディが大きくなってしまったため、インタビュイーからの反応が良くなく、『こだわりのスピーカーやエフェクターがあるからそれはいらない』と言われてしまいました。そこで、再び機能を削ぎ落として、最初の箸箱をブラッシュアップする方向になったのですが、今の形になるまでには時間がかかりました」と小林氏は話す。
マーケティング研修のプログラムにはいくつか審査ステップがあり、そのステップごとに予算の額が増える仕組みだ。クラウドファンディングが認められるには、3つの審査ステップを通過する必要があり、その審査を突破するためにブラッシュアップを重ねていったという。
メンバーは、回路エンジニアの藤井氏とメカ設計エンジニアの小林氏に加えて、ソフト設計エンジニアの榊原氏が入った3名。全員エンジニアだが、開発だけでなく、インタビューやマーケティング調査も彼らが行っている。なお、藤井氏だけでなく、小林氏らもギターの愛好家であり、前のめりでプロジェクトに参画している。
「スライド箸箱のプロトタイプを作ったときは、面白いとは思ったけれど、これがユーザーにとって価値があるのかはわかりませんでした。そこから3年かけてインタビューと試作を繰り返すことで、徐々に商品価値が言語化されていきました」(小林氏)
箸箱のプロトタイプから足掛け3年。社内のコンテストで入賞して正式業務として認められ、2023年10月からクラウドファンディングでの販売となった。ちなみに、カシオ計算機としてクラウドファンディングを使うのは初めての試みだ。
ただしこの製品、クラウドファンディングの成立=市販化決定というわけでもない。あくまで市場性の検証を行う実証実験段階にある。カシオ計算機には楽器関連商品もあるが、そのラインアップにあるのはピアノやキーボードなど。プロジェクト成立の後は、カシオ計算機の商品のひとつとしてラインナップに加わる可能性もあるのだろうか。
小林氏は、「クラウドファンディングが成功してもすぐ事業化されるとは限りません。数が売れればいいというわけではなく、お客様の反応や使用後のレビュー、市場性を含めて正式に事業化するかは改めて判断されます」と話す。
ブースで実機を触ってみた来場者の反応も上々だった。ターゲットは、エフェクターを持っているレベルの中級者以上のギタリスト。CEATECに来場したプロのギタリストからは、「エフェクターを20個くらいライブで使いこなすような音楽ジャンルで、新しい音楽表現の可能性がある」と言われたそう。
複数のエフェクターを使うアーティストは、両足をかかと立ちして2つのペダルを無理やり操作することもあるという。DIMENSION TRIPPERがあれば、ストラップで1つのエフェクターを操作し、片足でペダルを操作することで、幅広い音作りが容易にできそうだ。
クラウドファンディングのプロジェクト期間中は、二子玉川の蔦屋家電+で実機を展示している。カシオ計算機のエンジニアのアイデアという現場発で生まれたこれまでになかったガジェットについて、支援を検討している方は店舗で操作感を体験してみてはいかがだろうか。
※本記事は、プロジェクトオーナーのプロジェクトが必ず成功することや、プロジェクトの品質、リターン内容を保証するものではありません。プロジェクト進行中に関するトラブル、返金要求、リターン返品要求はプロジェクトオーナーの責任のもと行われます。プロジェクト不成立時には製品が届かなかったり、返金が受けられないなどのリスクがあります。出資は自己責任でお願いします。