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「部分的にアップグレードする」「将来の更新にも備える」といったノウハウを伝授

小規模オフィス/店舗ネットワークをWi-Fi 6へ手軽、安価にアップグレード! Arubaのプロにコツを聞いた

2023年10月30日 10時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: 日本ヒューレット・パッカード(HPE)、アプローズ

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 2020年後半ごろから本格的な普及が始まったWi-Fi 6(802.11ax)。それ以前のWi-Fiと比べて、多数のデバイスの同時接続に強く、より安定して高速な通信ができる特徴を持つ。皆さんの手元にあるスマートフォンやパソコン、その他のWi-Fi接続デバイスも、新しいものならばすでにWi-Fi 6に対応しているだろう。

 しかし、小規模なオフィスや店舗、宿泊施設などのネットワーク環境(アクセスポイント)は、まだWi-Fi 6より前(Wi-Fi 5=802.11ac、Wi-Fi 4=802.11nなど)のままであることが多い。せっかくユーザーがWi-Fi 6対応デバイスを持っていても、そのメリットが生かし切れていないケースが少なくないのだ。

 とは言っても、Wi-Fiを設置している会社や店舗にしてみれば、Wi-Fiのアップグレードに大きなコストはかけられないし、改修工事で何日もネットワークが止まるのは困る。そこで今回は、ビジネス向けWi-Fi/ネットワーク製品のグローバルメーカーである“ネットワークのプロ”、HPE Aruba Networkingの藤内理志氏に、「ネットワークをできるだけ低コストかつ手軽に“Wi-Fi 6対応”へアップグレードするためのポイント」を聞いた。

日本ヒューレット・パッカード Aruba事業統括本部(HPE Aruba Networking)製品マーケティング部 部長の藤内理志氏

Wi-Fi 6対応アクセスポイントに入れ替えるだけでアップグレードできる

 ビジネス向けWi-Fi機器(アクセスポイント)のWi-Fi 6対応が始まったのは、日本では2021年中ごろのこと。現在までにオフィスや店舗、ホテルといった現場のネットワークでは、どの程度Wi-Fi 6への対応が進んでいるのだろうか。まずはこの点を藤内氏に聞いてみた。

 「Wi-Fi 5からWi-Fi 6へのアップグレードは、大規模な企業のオフィスネットワークを中心に進んでいます。ただし、小規模なオフィスや小売店舗などでは『とりあえずつながればいい』という意識が強く、古いWi-Fi環境のままというケースも少なくないでしょうね」

 その一方で、アクセスポイントに接続するデバイス側のWi-Fi 6対応は大きく進んでいる。たとえばスマートフォンのiPhoneならば、「iPhone 11」(2019年発売)以降のモデルですでにWi-Fi 6に対応している。「オフィスのパソコンも、リースならば2~3年ごとに入れ替わりますから、Wi-Fi 6対応はかなり進んでいるはずです」(藤内氏)。つまり、アクセスポイントさえWi-Fi 6にアップグレードすれば、それが使える環境はすでに整っていると言える。

 オフィスや店舗にあるWi-Fi 5以前のネットワークを、Wi-Fi 6にアップグレードすることで得られるメリットは何なのか。藤内氏は「最大のメリットは、多数のデバイスが同時に、高速かつ安定して通信できることです」と説明する。

 Wi-Fi 6では、新たに「OFDMA(直交周波数分割多元接続)」「双方向MU-MIMO(マルチユーザーMIMO)」という通信技術が採用された。詳しい解説は省くが、これらの技術を採用したことで、Wi-Fi 6はそれ以前のWi-Fiよりも「複数台のデバイスが同時に通信を行っても、それぞれの通信が遅くなりにくい」特徴を持つことになった。

 重要なポイントは、1台のアクセスポイントに接続するデバイスの台数が多い環境ほど、この特徴が生きてくるということだ。つまり一般家庭よりも、オフィスや店舗、宿泊施設といった現場のほうが、Wi-Fi 6にアップグレードするメリットは大きい。

 「たとえば、複数の社員が同時にWeb会議に参加するオフィス、来店客がフリーWi-Fiを使って動画再生を楽しむカフェなど、そうした現場では確実にWi-Fi 6のほうが快適に使えます」

 実際にHPE Arubaでも、Wi-Fi 5とWi-Fi 6で接続した40台のPCで、同時に動画をストリーミング再生させるテストを行ったことがある。「Wi-Fi 5よりもWi-Fi 6のほうが“コマ落ち”が少なく、安定して動画を再生できました」(藤内氏)。

 加えて、現在では10G(10Gbps)のインターネット回線サービスも始まっている。せっかく高速なインターネット回線を契約していても、Wi-Fiがボトルネックになって、その能力が生かし切れていないのではもったいない。

 「インターネット回線の契約を変えなくても、アクセスポイントを置き換えるだけでもっと快適なネットワークが提供できるんだ、ということをご理解いただければ、『ちょっと置き換えてみようかな』という話になると思います」

「低コスト」で「手間をかけない」アップグレードのコツは?

 Wi-Fi 6にアップグレードするメリットはわかった、でも現実には大きなコストや手間はかけられない――。そういう声もあるだろう。できるだけ低コストで、手軽にWi-Fi 6へのアップグレードを行うにはどうすればいいのか。続いてそのポイントを聞いてみた。

 ポイントの1つめは「ネットワーク全体ではなく、部分的にアップグレードしていく」というものだ。ネットワークのアップグレードと言っても、これまで使ってきた機器を総入れ替えする必要はない。既存のルーターやスイッチ、ネットワークケーブルなどはそのまま使い、アクセスポイントだけをWi-Fi 6のものに交換すればよい。

接続デバイスの台数規模に応じて選択できる「Aruba Instant On」シリーズのWi-Fi 6対応アクセスポイント(左:AP25、右:AP22)。ルーター機能内蔵のためこれ1台で導入でき、価格もリーズナブルだ

 複数のアクセスポイントを設置している場合、まずはユーザーが多く集まる場所(たとえばオフィスの執務室や会議室、ホテルのロビーなど)からWi-Fi 6のものに交換していくのが鉄則だ。前述したとおり、Wi-Fi 6は複数デバイスの同時接続に強いので、そうした場所のほうがメリットを発揮しやすい。

 ちなみに、アクセスポイントを新しいものに交換すると、古い(Wi-Fi 5以前の)アクセスポイントが余ることになる。藤内氏は、これも無駄にせず「IoTデバイス専用のアクセスポイントとして再活用するとよいでしょう」と提案する。2.4GHz帯のチャンネルのみ使うよう設定変更し、コピー機/複合機やスマートレジといったIoTデバイスを接続すれば、アクセスポイント間の負荷分散や使用チャンネル(周波数帯)の分離となり、追加コストなしでより安定、高速なWi-Fi環境が実現できる。

将来的なネットワークのアップグレードに備える、2つのアドバイス

 藤内氏が挙げるもうひとつのポイントは、「将来的なネットワークのアップグレードも考え、備えておくこと」だ。

 すでに現在、Wi-Fi 6EやWi-Fi 7といったWi-Fi 6以降の次世代規格が登場している。またインターネット回線も、今後は1Gを超えるより高速なサービスが一般化していきそうだ。こうした変化に合わせて、数年後にはまたWi-Fiのアップグレードを検討することになるのは間違いない。その際には、できるだけコストや手間をかけずにアップグレードできることが望ましい。

 ここで藤内氏は2つのことをアドバイスした。「有線ネットワークのアップグレードも検討していくこと」、そして「管理しやすいネットワークに変えていくこと」だ。

 まず1つめについては、今後を考えるとマルチギガ(2.5G、5G)や10Gを使った有線ネットワークが必要になると説明する。たとえば藤内氏が10Gインターネット回線+Wi-Fi 6環境で行ったスピードテストでは、Wi-Fiの実効速度で1.4Gbps超を記録したという。

 「したがって、ネットワークの中心にあるのが1Gスイッチ(最大1Gbps)であれば、今後はそのスイッチがスピード低下の原因(ボトルネック)になります。マルチギガや10G対応のスイッチに置き換えることは、将来を見越した投資と言えるでしょう」

 たとえば10Gインターネット回線+Wi-Fi 6(以降)のネットワークを構成する場合、ルーターとは10Gで、各アクセスポイントとは2.5Gで接続できるスイッチが適している。これならば、将来的なWi-Fiのアップグレードにも十分対応できる。

 ちなみにマルチギガ(2.5GBASE-T、5GBASE-T)の場合は、敷設済みのLANケーブルがカテゴリ5e以上であればそのまま利用できる(10GBASE-Tはカテゴリ6A以上が必要)。ネットワークの再敷設工事なしで、マルチギガ対応スイッチに交換するだけで導入できるのもメリットだ。

2023年9月、Aruba Instant On 1960シリーズのラインアップに2.5GBASE-T対応のPoEスイッチが加わった。PoEは最大480Wと大容量。
●希望小売価格(税抜):22万5000円 ●メーカー型番:S0F35A#ACF

Aruba Instant On 1960シリーズスイッチ。Wi-Fi 6アクセスポイントへの接続がLANケーブル1本で済むPoE++対応のマルチギガポートと、高速ルーター接続向けの10Gアップリンクポート(10GBASE-T、SFP+)を備えたモデルもある

 もうひとつの「管理しやすいネットワーク」については、複数台のアクセスポイントやスイッチをまとめて管理できる、最新のクラウド管理に対応した製品が便利でおすすめできるという。HPE Arubaの場合、「Aruba Instant On」(インスタントオン)シリーズのアクセスポイント、スイッチがそれだ。

 「たとえばアクセスポイントの場合、Aruba Instant Onのアプリで1回設定すれば、新しいアクセスポイントを追加/アップグレードしたときには設定が引き継がれ、わずか2、3分で立ち上がります。1台ずつ設定していく手間がかからず、スマートフォンアプリからまとめて監視ができる、とても管理しやすいネットワークが出来上がります」

Wi-Fi/有線ネットワークのセットアップや監視はすべてスマートフォンアプリから行える。ネットワークマップ、アプリケーションごとのトラフィック量可視化など便利な機能も

Aruba Instant Onの製品群。ネットワークの規模や用途に合わせて多様なラインアップを揃えており、その多くがクラウド/アプリ管理可能だ

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 ちなみにAruba Instant Onシリーズでは、HPE Arubaがエンタープライズ向け製品で培ってきた技術やノウハウを、中小規模のネットワークでも安価かつ簡単に取り入れられるようデザインしている。“エンタープライズゆずりのパフォーマンスと信頼性を持つハードウェアを、誰でも簡単に扱える”のが特徴だ。

 「小規模なオフィスなどでは、コンシューマー向け(一般家庭向け)のWi-Fiルーターが導入されていることもあります。しかし、同じように“Wi-Fi 6対応”をうたっていても、ハードウェア性能はビジネス向けに設計された製品とは大きく違います。デバイス台数が増えればその差が歴然と現れてきますから、やはり安心して使えるAruba Instant On製品をおすすめしたいですね」

Wi-Fi 6接続した40台のPCで同時に映像をストリーミング再生させるテスト。Instant On AP25(左)は問題なく再生できた一方、国産メーカーのコンシューマー向けWi-Fiルーター(右)では遅延やコマ落ち、再生停止するPCが多発した

 あらゆる業界でビジネスのデジタル化が進むなかでは、インターネットやクラウドの利用がこれからさらに盛んになっていく。そして、そこでは高速かつ安定したネットワーク接続が欠かせない。そんな将来をしっかりと見据えながら、妥協のないネットワークのアップグレード検討を進めていただきたい。

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