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LPI-Japanが発表、大規模システムのアーキテクチャ設計/構築ができる上級エンジニアを認定

Linux技術者の最上位認定「LinuCシステムアーキテクト」試験開始

2023年10月13日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 LPI-Japanは2023年10月12日、Linux技術者認定「LinuC(リナック)」の最上位認定試験となる「LinuCシステムアーキテクト(LinuC-SA)認定試験」の開始を発表した。同日より試験予約を開始し、11月6日から全国のテストセンターやオンラインで受験ができるようになる。企業などでの団体受験用にペーパーテストも用意している。

LPIのLinux技術者認定で最上位に当たる「LinuCシステムアーキテクト認定試験」がスタート

LPI-Japan 理事長の鈴木敦夫氏

新しい時代のシステムアーキテクチャを身につけた上級エンジニアの証明

 LinuC-SA認定試験は、ITスキル標準(ITSS)のレベル4に相当し、オンプレミスやクラウド、物理環境、仮想環境を含むLinuxの大規模システムのライフサイクル全体を俯瞰して、柔軟で、拡張可能なアーキテクチャの設計、構築ができる上級エンジニアを認定するもの。具体的には、以下の要素スキルの能力を認定する。

●分散システムの処理構造について、典型的なパターンの特徴を理解し使いわけられる
●プラットフォームやミドルウェア、ネットワーク、ストレージについて、LinuxなどのOSSによる具体的な構成を決定し、構築、設定ができ、クラウドサービスの機能を用いたり、リソースを動的に確保したりするといった構成も必要に応じて選択できる
●非機能要件のそれぞれを実現するための要素技術を理解し、LinuxなどのOSSにより実践できる。また、クラウドネイティブな設計アプローチや開発手法を理解し、システムに採り入れられる
●安定稼働と継続的開発を見据えた監視やテスト体制を設計し、また運用中のトラブル対応を主導できる

LinuC-SA認定試験と、他の技術認定試験の位置づけの違い。オープンな(汎用的な)テクノロジーを対象としつつ、実務的なスキルを求める

 LinuC-SA認定の条件は、LinuCレベル2認定を保有しており、「SA(System Architect) 01試験」と「SA02試験」の両方に合格すること。受験の順番は問わないが、5年以内に両方に合格する必要がある。一般的な学習期間の目安としては「半年~1年程度」としている。

 LPI-Japan 理事長の鈴木敦夫氏は、LinuC-SA認定試験について「システムのアーキテクチャ設計や構築の実務に必要とされる具体的な技術スキルを有し、実作業にも対応できる“プレイング システムアーキテクト”を認定する試験」だと説明し、目標として「年間で1000人以上の認定者輩出を目指す」と述べた。

 「(LinuC-SA認定は)新しい時代のシステムアーキテクチャを体系的に身につけた上級エンジニアの証明になる。社内で育成する技術者の目指すべき到達点に設定でき、ITエンジニアを、より高いステージに引き上げることができる」(鈴木氏)

 認定試験は約40問で構成され、試験時間は90分間(アンケートのための5分間を含む)。出題範囲は、SA01試験がシステムアーキテクチャ、ネットワークとストレージの選定、可用性の設計、性能・拡張性の設計、SA02試験が仮想マシンとコンテナの設計、セキュリティ、監視と分析、継続的開発とテスト・デプロイ、トラブルシューティングとなっている。

LinuC-SA認定の「SA01試験」「SA02試験」出題範囲

認定試験の例題と解説

 LPI-Japan ITエキスパートの安良岡直希氏は、同試験の開発にはアーキテクチャ設計、ネットワーク、セキュリティ、クラウドなどの専門家39名が参加し、出題範囲への助言や問題作成、レビューを行っていると説明した。「アーキテクトの責務はどこまでか、必要な知識をどのように体系化するかといったスコープを明確化、整理するために、長期にわたって議論を行い、試験を作成したのが特徴」(安良岡氏)。

 またLPI-Japan シニアマーケティングマネージャーの吉田聡氏は、「ほとんどの問題はマウスによる選択方式だが、一部には記述問題もある。実技や面接はない」と説明した。

 受験料は2万7500円(税込)。当面は日本語でのみ受験できるが、来年には英語版試験もリリース予定だ。海外受験料は240ドル(税抜)。なお2024年3月末までの期間、SA01試験/SA02試験を対象に、受験料を半額とするキャンペーンも実施する。

 LPI-Japanでは、受験者が効果的に学習できるプログラムを提供していくほか、クラウドおよびDX分野の企業/団体と連携し、認定者の求人と採用を促進する活動も行う考えだ。

「全体を俯瞰できる技術者が不足」100社以上のヒアリングで得た課題

 鈴木氏は、LinuC-SA認定の準備を4年前から進めてきたことを明かした。理事長に就任した2019年春、100社以上のIT現場を訪れてヒアリングを行った結果、ほとんどの企業から「システムの問題を予見したり、トラブル解決ができたりする技術者を育成できていない」「新たな技術への対応やリスキルがうまくいっていない」「個別の技術ではなくシステム全体を俯瞰できる技術者が不足している」といった課題が挙がったという。

 「その背景として指摘されたのが、特定の製品やサービスの操作、利用技術だけを学んでいるということ。“仕組みとしての技術”を学んでいないため、主体的に考えたり、技術を応用したり、問題解決ができないという点だった」(鈴木氏)

 そこで、専門技術を活用し、技術的に統括できる技術者の育成が重要であると考え、まずキャリアマップを作成した。これに基づき、認定制度が持っている、学ぶべき道を示す“導く力”とスキルを“見える化、顕在化する力”を活用しながら、技術者の育成につなげていくと語る。

 なお、LinuCはLinux技術スキルを認定するだけではなく、「ITエンジニアの基礎となるIT技術スキルを認定するもの」だという点も強調した。「今回の最上位認定試験を通じて、具体的な技術を理解し、非機能要件に対応したシステム設計ができる技術者を認定し、プロジェクトを成功に導くキーとなる技術者を育成することができる」(鈴木氏)。

 そのほかLPI-Japanのパートナー/スポンサー各社からも、新しいLinuC-SA認定に対する期待が語られた。

 LPI-Japanの理事であるサイバートラスト 営業本部 営業統括部 ダイレクトソリューション営業部 担当部長の中野正彦氏は、「企業のなかでは、システムアーキテクトの技術スキルが明確でなかったり、育成が難しかったりしている。この課題の解決に新たな試験が活用できる。技術者にとっても、自らの技術スキルを証明することができ、日本の技術者の育成、地位向上にも貢献できる」とコメントした。

 また、NEC サービス技術開発統括部OSS推進センター プロフェッショナルの中島龍史氏は、「個々の技術要素だけでなく、トータルに物事を捉えた本質を理解できる技術者の存在が重要になっている。求められる技術者のスキルを測ることができ、育成できる仕組みとしても、新たな認定試験に期待している。LPI-Jの試験に加えて、商用ベンダーの資格や教育を補完的に活用することで、高度な技術者を育成できる」と述べた。

 日立製作所 デジタルエンジニアリング事業部ミドルウェア本部ソフトウェア生産技術部 コンプライアンスグループ 主任技師の片桐和宣氏は、「特定の技術に尖った技術者は必要であり、ニーズもあるが、ITシステム全体の仕組みを知り、プロジェクト全体を通じて活躍できる技術者が不足している。根っこがしっかりした技術者の育成につながることを期待している」と語った。

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