まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第91回
〈前編〉アニメの門DUO TRIGGER取締役・舛本和也さんと語る
アニメの放送延期が続出した原因は「海外依存8割の動仕」にあるが解決は困難
2023年09月23日 15時00分更新
■「動画・仕上げ」は海外に約9割依存
■中国が閉じたら日本のTVアニメは作れない
まつもと わかりました。ちなみにTRIGGERさんの作品に影響はありましたか? たとえば時期的に映画『グリッドマン ユニバース』など。
舛本 影響がなかったわけではありませんが、弊社内に15名ほどの動画スタッフさんがいらっしゃいまして、そういった方たちの踏ん張りでなんとかなったという側面が大きかったですね。
まつもと つまり、中国に動画を出していたけれども、それはいったん国内で引き上げ、仕上げも国内の協力会社に依頼する、と。
舛本 そうですね。
まつもと 動画スタッフが社内にいることの意味は大きいと思いますし、そこから直接国内の仕上げの会社に声をかけられる、つまりそのラインを押さえることができる関係がある、というところもまた結構大きいですよね。
舛本 今回は本当にありがたかったなぁと思っています。
まつもと 一方、そうした対応がとれる会社ばかりではありません。現在、動画・仕上げ作業を中国に依存する割合はどのくらいなのでしょうか?
舛本 正確な数字が出ているわけではないので、あくまで僕の肌感覚という言い方しかできませんが、だいたいお仕事の80%、キツい作品ですと90%以上を海外の動画・仕上げさんにお願いしていることが普通じゃないかなと思います。
まつもと こういう話をするときって食料自給率をイメージするのですが……もう海外なしでは成立しない。絵コンテ・レイアウト・原画といった「画像」の状態から、「映像」に変わるタイミングの作業が、じつは8~9割までを海外に依存している。
『日本のアニメ、これから大丈夫なのか?』と思ってしまうのですけれど、たとえば円安の進行や国家同士の関係が変化して、もし中国が「もう受けられません」となったら、日本のTVアニメってどうなっちゃうんでしょうね?
舛本 あくまでこれも僕の私見という言い方にはなりますけれども、放送ができない、作れないという状況に容易になっちゃうかなと思いますね。
まつもと これ、ヤバいですね?
舛本 まあ、ヤバいですね。
まつもと 蛇口を握られているというか。「もう閉めますよ」と言われたら出てこなくなっちゃう。
■解決策は国内アニメーターを1万人増やすこと!?
まつもと これは解決できるのでしょうか?
舛本 アニメ業界全体の大きな流れがあるので、たぶん解決という言葉で探れる案って理想論でしかないのです。だから現実的な改善に至るには、ちょっと複合的に物事を考えなければいけないという前提があります。
そのうえで、先ほどのまつもとさんがおっしゃったご質問だけに答えると、できないでしょう、という言い方になっちゃいますかね(笑)
まつもと まずシンプルに考えると、地方で動画・仕上げを専門にやっていらっしゃる会社、数は少ないですけどありますよね。
舛本 はい。
まつもと では、国内に生産拠点を構築する――つまり、動画・仕上げに対応してくれる場所と人を増やす、ということは難しいですか?
舛本 各社が採用枠というかたちで環境を用意して人を呼び、指導が行き渡れば、現実的には可能なのですが。
まつもと 問題は育成ですよね。
舛本 はい。現状ではおそらく人数が足りないでしょう。日本ですべて動仕を引き受けるためには、たぶんアニメーターを5000人から1万人育成しないと。
まつもと 専門学校で動画の勉強をする学生さんは毎年いて即戦力になりますよね。人材の輩出自体はそれなりにされているかなと思うのですが。
舛本 いや、もう絶対的に数が足りないですね。おそらく年間で500人から1000人いかないくらいじゃないですかね、アニメーターとして業界に入られる方というのは。
まつもと 志望者を増やしつつ育成に力を入れることは可能でしょうか?
舛本 それはもちろん。この問題はアニメ業界全体で考えようとすると答えが出ないんです。たぶん、各社が独自の解決案を出して実行に移していく……を繰り返していくしかないだろう、と思っています。
まつもと 会社単位、つまりTRIGGERさんのように社内で動画スタッフの育成を図るということですね。私が取材した例ですと、P.A.WORKSさんは育成機関を作って内製できる部分を増やしています。こういった施策を各社で取り組んでいかないと、中国をはじめとした海外依存を下げることはできないと。
舛本 そうですね。
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