ARIとともに商品動態を見える化 データを活用して課題を解決
こうしたフランスベッドのメディカル事業のDX化を支援するパートナーとなったのが、DXソリューションを手がけるARアドバンストテクノロジ(ARI)になる。
2010年1月に設立されたARIは、クラウドとデータ・AI活用を得意とするシステムインテグレーター。渋谷に本社を構え、2023年6月には東京証券取引所 グロース市場に上場を果たしている。BXデザイナー(ビジネストランスフォーメーションデザイナー)として、顧客の創造的なビジネスゴールの実現を支援している。データ・AI活用においては、「dataris(デタリス)」というサービスブランドを掲げており、データ活用のコンサルティングや分析のみならず、データ基盤の構築、BIツールやAIの導入、内製化支援まで幅広く手がける。
ARIとの出会いは2021年11月。フランスベッドの池田一実副社長がクラウドやAIなどを活用したDXのパートナー企業としてARIを黒須氏に紹介し、ともに渋谷のARI本社を訪れたのがきっかけだ。「基幹システムにある何百万件とあるデータを抜き出し、1つ1つの商品に振られたシリアル番号とお客さまを関連付け、日々変化する商品の動態を管理するのは、われわれのマンパワーだけでは無理でした」と黒須氏は振り返る。
ARアドバンステクノロジ執行役員の髙橋英昌氏は、「メディカル事業のDX化をやりたいという話だったので、まずは、サンプルデータを分析しつつデータドリブンでビジネスゴールの整理、設定、そこに向けた課題を洗い出し、ビジネスインパクト(売上貢献、コスト削減)を試算し、優先順位を決めることを提案しました。」と語る。
具体的にはモデルとなるセンターにある商品のシリアル番号と顧客コードを元に商品動態を追いながら、稼働率や在庫をモニタリング。ARI側ではフランスベッドのメディカル事業のビジネスフローを学習しつつ、フランスベッド側では具体的な施策の提案を練ったという。「今現場で求められている豊嶋さんや、鈴木さんが見たいデータを、BIツールのTableauで可視化できるように支援しました」とARIでBIツール導入を手掛ける高城国広氏は語る。
ARIのサポートは、ビジネス面での課題をどのようにデータ化し、改善施策につなげていくかが大きかった。豊嶋氏は、「社内でどんな問題が起こっているか、どう改善すればよいかは理解していたのですが、データとリンクさせるところがうまくできなかった。ARIさんには在庫数、メンテナンス状態、年間に出荷した数、戻ってきた数などを分析し、業務を効率化でき、さらに発注すべき商品はどれなのかを見られるようにサポートいただきました」と語る。
内製化支援も大きかった。実データでTableauを活用できるよう、社内での勉強会も実施したという。鈴木氏は、「私はもともとシステム部門にいたわけでもないですし、Tableauは独自の用語もありました。だから、今までExcelでやっていたことをTableauでできるように、自ら手を動かす機会を作ってもらいました。これがとてもありがたかったです」と振り返る。
当初、ExcelのVLOOKUPで更新していた商品動態は、Tableauを用いることで、可視化できるようになった。鈴木氏は、「Excelを使っていたときに比べて、作業効率は格段に上がりました。以前は数字の羅列だったのですが、Tableauの場合は見たい値がピンポイントでわかるので、過剰在庫や仕入れまでの指摘は早くなりました」と語る。従来、課題だった基幹システムからのデータ入手に関しても、「Tableau Bridge」を導入することで迅速になる見込みだ。
データ分析で実現した仕入れと在庫の最適化 億単位のインパクト
データ分析体制を構築したメディカルDX購買課は、ABC分析を実施し、仕入れと在庫の最適化を推進した。レンタル稼働の高いAグループに関しては仕入れのONOFFをコントロールし定点モニタリングを実施、B・Cグループは仕入れを抑制し、未メンテ品のメンテプライオリティを上げてレンタル在庫をフル稼働させるようにした。また、商品企画部門が担当しているカタログにどの商品を掲載するかもデータ分析によって判断している。「出荷よりも、返却が多いCグループの商品は、カタログに載せても在庫があふれてしまいます。前段お話したメンテ効率も加味した商品採用も含め、カタログに掲載する商品については我々がどんどん介入していきたいと思っています」(黒須氏)。
現在は全国のセンターを東西に分けたセンター統括室を経由することで、データに基づいて仕入れ数を提示し、在庫過多にならないようにコントロールしている。また、在庫が不足しても、新品を投入するのではなく、近隣エリアのセンターにある在庫を活用することにした。「今までは他センターからの要望で在庫品を移動すると、自らの在庫がなくなるのでかなり消極的だったのですが、今は全国のレンタル資産の最適化のために率先して在庫移動ができる環境になりました」と黒須氏は語る。
ビジネスフローの理解、データ分析体制の構築と作戦の立案にそれなりの時間はかかったが、仕入れと在庫の最適化により、億単位での効果が出ているという。黒須氏は、「豊嶋、鈴木の2人はメディカル事業部の業務の流れに精通しています。彼女たちが『こうしたらよくなる』と考えた企画や施策をチューニングし続けた結果、今まで誰もメスを入れることができなかった在庫の削減や経営陣が求めていたレンタル原価率の低減につながることができ、大きな成果を出すことができたんです。本当にすごいことですよ」と効果について語る。
実際、ある倉庫拠点では、無駄な仕入れ在庫がなくなり、倉庫内がすっきりした。倉庫現場の担当者からは「倉庫がこんなに広いとは思わなかった」と言われ、適切な仕入れ指示に感謝の言葉が得られたという。ABC分析により、売れる商品のみをきちんと仕入れているため、返却やメンテナンスより出荷が上回っている健全な状況になってきているわけだ。今後は需要予測や返却予測などAIを用いた専用のダッシュボードを開発し、センターの担当者が自ら仕入れや在庫を管理できるようにしていきたいという。
最近では、仕入れのみならず、生産計画にまで携わるようになってきた。同社がレンタルや販売をしている福祉用具のうち、主力のベッドは自社工場で生産している。今までは販売動態に基づいた生産指示のみであったため、ニーズを読み違えた生産依頼で過剰在庫になっていたこともあった。結果、生産部門と販売部門の情報共有を行なう生販会議をメディカルDX購買課がグリップすることになったという。
「他社からの仕入れではなく、自社の生産ラインのコントロールなので、ビジネス面でもかなりインパクトがあります。鈴木と相談し、仕入れと在庫と同じABC分析をしてみたところ、過剰在庫になる背景も把握できるようになりました」(黒須氏)とのこと。生販会議で適正な生産数を提示するようになったという。
次はメンテナンスの最適化と営業リコメンドまで DXはまだまだ続く
仕入れと在庫の次に取り組んでいるのは、本丸であるメンテナンスだ。レンタル原価率上昇要因のひとつである未メンテ品の増加に関しては、物理的な工数削減は難しいため、メンテナンスの優先順位付けが重要になるという。
ARIのデータサイエンティストで在庫最適化を担当している松本公平氏は、「分析を始めたときは、仕入れと在庫が鍵だと思っていたのですが、本当に介入しなければならないのは、メンテナンスの優先順位でした。売れ行きがいいものをメンテナンスをかけると、どんどん出荷されていくのですが、逆に売れ行きが悪いモノにメンテナンスをかけると在庫になってしまいます。どこに介入すれば、もっともインパクトが出るのか、機械学習による需要予測を行い適正在庫モデルを構築、検証していきたいと思っています」と語る。
仕入れ、適正在庫、メンテナンスなど、いわば守りのDXが終わった後は、営業や製品開発などに活きるいわゆる攻めのDXに進んでいく予定だ。高城氏は、「今は営業の商品リコメンドにチャレンジしています。今まで売れていたモノを販売するのではなく、在庫の観点や会社の戦略に基づいたリコメンドを行なえるようにしたい」と語る。
これができると、新入社員でも、データに基づいた信頼性の高い営業が可能になる。「ご利用者様の身体状況や介護度などの情報を入力すると、『こういうベッドや車いすが最適ですよ』と、ケアマネジャーにお勧めできる。営業スキルの平準化をDXで実現したいと考えています」と黒須氏は語る。ARIをパートナーとしたフランスベッドのDXへの試行錯誤は今後も続く。
(提供:ARアドバンストテクノロジ)
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