「Salesforce Data Cloud」の国内提供時期を発表、「Einstein GPT」など生成AIの取り組みも紹介
生成AI活用は「信頼できるデータソース」が必須 ― セールスフォース小出会長
2023年07月25日 07時00分更新
セールスフォース・ジャパンは2023年7月19日、同社の次世代インフラアーキテクチャ「Hyperforce」上で稼働する顧客データプラットフォーム(CDP)の「Salesforce Data Cloud」と、パーソナライズされた顧客体験の提供を自動化する「Salesforce Marketing Cloud Engagement」が、2024年1月までに日本国内で一般提供開始されることを発表した。
同日の記者発表会では、Hyperforce、Data Cloud、Marketing Cloud Engagementのそれぞれの位置付けや機能を説明するとともに、これまで「Salesforce Einstein」を通じて予測AIをCRMに組み込んできた同社が新たに注力する「生成AI」の取り組みも紹介された。
「予測AI」から「生成AI」へと注力領域をシフトするセールスフォース
発表会ではまずセールスフォース・ジャパン 代表取締役会長兼社長の小出伸一氏が、Data CloudとHyperforceの概要、そしてなぜそれがいま必要なのかについて説明した。
Data Cloudは、セールスフォースの各種“Customer 360”クラウド製品とネイティブに連携して顧客に関する膨大なデータをリアルタイムに取り込み、それらを自動的に調整、統合して単一の顧客プロファイルを作成する、セールスフォース独自の新しい顧客データプラットフォーム(CDP)だ。小出氏はこれを“信頼できるデータ(顧客データ)の供給源”と位置付ける。
ちなみにData Cloudは、昨年の「Dreamforcce 2022」において「Salesforce Genie」として発表され、その後「Salesforce CDP」に改称、さらに再度の改称を経て現在の名前になっている。
このData Cloudを支えるインフラがHyperforceだ。小出氏は、Data Cloudのような大規模CDPのインフラには、スケーラビリティやアジリティだけでなく、セキュリティやプライバシー、信頼性、さらにデータレジデンシー(データの国内保存)といった要件が求められると語る。Hyperforceは、パブリッククラウド上でそうした要件を満たすための独自インフラアーキテクチャであり、各国リージョンへの展開が進められている(2023年中に17カ国への展開を予定)。なお、日本ではまずAWS東京リージョンを利用して提供を開始している。
インフラレイヤーのHyperforce、データ基盤レイヤーのData Cloudとも“レイヤーの低い”領域の取り組みであり、一見すると地味に見えるが、なぜこれらが重要なのか。小出氏は、これから生成AIの活用を進めていくうえでは「信頼できるデータソース」が必須になるからだと説明する。
「生成AIがビジネスに役立つ回答を生むためには、(生成AIに提供する)『データの質』がすべてだ。Data Cloudは、企業内の信頼できるデータソースとして機能し、CRMの文脈でAIにデータを提供する。それによって企業は生成AIをより効果的に活用し、さらにパーソナライズされたサービスを顧客に提供できるようになる」(小出氏)
セールスフォースでは2014年からCRM向けAIに取り組み、2016年には「Salesforce Einstein」をリリースしてCRMにAI技術を組み込み、ユーザーが簡単にAIを活用できる環境を用意してきた。小出氏も「AIを活用したCRMでは、セールスフォースの右に出る企業はないと自負している」と、これまでの実績を強調する。
ただし、セールスフォースのCRMにおけるこれまでのAIの役割は「予測」が中心だった。こうした予測AIから生成AIへの注力領域のシフトが、現在見られる動きだ。すでに今年3月には「Einstein GPT」を発表し、セールス、サービス、マーケティングといったユーザーの生産性向上を生成AIで支援していく方向性を示している。
「生成AIは企業に新たなイノベーションをもたらす存在であり、生産性、ビジネスモデル、顧客体験、ツールやスキル、そして企業の製品戦略といったものを新たなかたちに変革する力を持っている。企業は今こそ、AIを中心に戦略を考える必要がある」(小出氏)
信頼できるデータソースを提供する「Salesforce Data Cloud」
続いて同社 専務執行役員 カスタマーサクセス統括本部 統括本部長の宮田 要氏が、Data CloudとMarketing Cloud Engagementの詳細について説明した。
前出のとおり小出氏は、生成AIの活用に必要なものは「信頼できるデータソース」だと語った。宮田氏は、この「信頼できる」には2つの要件があると説明する。「データ自体の質」という意味での信頼性、そして「データ管理や保護」に対する信頼性だ。今回の発表は、この信頼できるデータソースを実現するための取り組みを強化するものだという。
現在、多くの企業がデータ活用、AI活用、業務の自動化/省人化などを目的として大量のデータを収集するようになっている。CRMの領域でも、単に顧客個人の属性データ(IDデータ)だけでなく、たとえばWebやモバイルの利用履歴、エンゲージメント履歴、製品の購入履歴、果てはフィットネスデータなどが収集できる環境にある。
こうした多様なデータを活用して優れた顧客体験につなげる必要があるが、そこで課題となるのが「データ連携」だ。宮田氏は、データ連携を実現させるうえではIT部門に大きな作業負荷がかかっており、「実際、IT部門の業務時間の36%は、独自の連携機能の設計開発テストに費やされている」と指摘する。データ連携機能を自社開発すると、継続的な保守管理作業が必要になるうえ、セキュリティやプライバシー、コンプライアンス規制にも自社で対応していかなければならない。
この課題を解決するべくリリースされたのがData Cloudだという。Salesforceが展開する“Customer 360”アプリやパートナーアプリなどとコネクタ経由でネイティブに連携し、大量のデータをリアルタイムに取り込んで整理、統合する。セールスフォースによるマネージドサービスのため、保守管理やセキュリティ、コンプライアンス対応といった手間もかからない。
こうして「信頼できる単一の顧客データソース」を構築し、顧客に関するあらゆる情報が詰まった顧客プロファイルを作成することにより、社内のさまざまな業務、さらにはさまざまなツールで活用できるようになる。
宮田氏は活用例として、たとえば営業部門で見込み客がコンテンツに接触したタイミングをリアルタイムに把握してアクションを起こす、サービス部門で顧客からの問い合わせを受ける前にこれまでの状況を把握してケースを効率良く解決する、eコマース部門で商品のレコメンドをパーソナライズして売上を伸ばす、といった顧客体験の向上が可能になると説明した。
Data Cloudのデータは、AI機能のEinsteinをはじめ、ワークフロー自動化機能の「Salesforce Flow」、ローコードアプリ開発の「Salesforce Lightning」などとの連携も可能だ。
そして今回発表されたもうひとつの製品、Marketing Cloud Engagementも、Data Cloudとネイティブに連携する製品だ。AIとデータを駆使してパーソナライズされたカスタマージャーニーを実現し、Salesforceの調査では、配信メッセージに対する顧客エンゲージメントを32%向上させる効果があったという。
具体的には、キャンペーン計画/実行ツールの「ジャーニービルダー」上でさまざまなチャネルやメッセージを連携させて、ひとつながりのパーソナライズされた顧客体験を構築する。実行時にはAIが、コンテンツを配信する最適なチャネル、タイミング、頻度を自動で判断、実行してくれる仕組みだ。メッセージに対する顧客側の反応に応じた分岐パスを作成し、より効果的なエンゲージメントに結びつけることもできるという。
プライバシーデータ保護など、生成AI活用時の課題を解消する技術も
同社 マーケティング統括本部 プロダクトマーケティング シニアディレクターの松尾 吏氏は、Salesforceにおける生成AIの取り組みの一つとして「Einstein GPT Trust Layer」を紹介した。
Einstein GPT Trust Layerは、CRMや外部アプリにある顧客データを使って外部の生成AIモデルで処理を行う際、顧客データに基づいて生成AIへの指示文であるプロンプトを作成すると同時に、顧客のプライバシーデータが流出しないよう保護(データマスキング)したり、生成AIによる“もっともらしい嘘(ハルシネーション)”などの有害な回答をブロックしたりするレイヤーだ。コンプライアンス確保のための監査も実施する。
松尾氏は、企業がAI活用を進めるうえでは個人データの取り扱いに対して顧客から信頼を受ける必要があり、そのためにこのレイヤーを設けたことを説明する。
「最も重要な点は、お客様のデータがセールスフォース外部に格納されることが絶対にないこと。外部のモデルがプロンプトを処理すると、プロンプトや生成されたコンテンツはただちに消去される。どんな理由があろうと、顧客データがセールスフォースの外に格納、保持されることはない」(松尾氏)
なお生成AIに指示を出すプロンプトは、テンプレートと「動的グラウンディング」という手法により作成されるという。松尾氏は、顧客に送付するマーケティングメールの自動生成を例に説明した。
「(動的グラウンディングによって)お客様の名前だけでなく、顧客になってからの年数や契約の種類、最近のアクティビティ、さらにセールスフォースの最新製品や今後のイベントなどとどう関連しているかといった顧客情報以外の情報もすべて組み込まれる。これにより、顧客にパーソナライズされた意味のあるメールがすぐに生成され、時間の節約や生産性の向上につながる」(松尾氏)
松尾氏は、セールス、サービス、マーケティング、eコマース、ITといった各職種ごとに、業務のなかで生成AIを活用できる仕組みが提供されていると説明した。なお、Salesforceで利用できるAIモデルはOpenAIのものに限らず、AnthropicやCohere、Salesforce自身が提供するモデル、さらにはユーザーが自社開発したモデルも利用できるという。