Ferrum Audioは、ポーランド発の新進オーディオブランドだ。同社CEOのマルチン・ハメラ氏が初来日した。
Ferrum Audioの製品はいずれもデスクトップサイズのハイエンド機器。小型軽量、高性能、新機軸といった特徴に加え、機能美を追究した外観デザインを持つ。ノブの質感、ボタンのクリック感など、細部にこだわった作りだ。
2019年創業と若い企業だが、2020年のDCパワーサプライ「HYPSOS」(実売20万円弱)を皮切りに、アナログヘッドホンアンプの「OOR」(実売30万円台前半)、USB DAC兼ヘッドホンアンプの「ERCO」(実売30万円台半ば)を続々と発表。2023年6月にはハイエンドD/Aコンバーターの「WANDLA」(実売40万円台後半)の販売も始まっている。
スタンダードになりつつあるeARC対応のオーディオ機器
WANDLAはドイツ語でコンバーターを示す“WANDLER”をポーランド風に言い換えた造語。キャッチフレーズは“The Converter”で、敢えて日本語にするなら“これぞコンバーター”といったニュアンスだ。
豊富なデジタル入力を持ち、専用機ならではの高品質な再生を目指している。マルチファンクションチップが載った自社開発の「SERCE(セルチェ)モジュール」やSygnalystと共同開発した独自のデジタルフィルターを搭載。明度調節可能なタッチパネルを使った簡便な操作性なども特徴だ。
本体の1/3を占めるのが電源部だ。ここにはHYPSOSのノウハウが存分に生かされている。DAC ICはESS Technologyの「ES9038 PRO」。最大768kHz/32bitのPCMやDSD256(DoP)の伝送に対応する。ボリュームはNISSHINBOの「MUSES72323」を左右独立で使用。ESS DACが標準で持つデジタルボリュームへの切り替えも可能だ。
SERCEモジュールは、32bitのArm Cortex-M(STM32H7)を中心に従来5つのチップに分かれていた機能を集約して、シグナルパスの最適化/合理化を果たしたボード。伝送に伴う音質劣化要因を極力抑えた仕様にしている。
SERCEモジュールで動かすソフトウェア(OS)も自社開発。Ferrum Audioは、ハードからソフトまでを自社で一貫して手掛ける垂直統合型の製品開発が得意だという。豊富なデジタルフィルターも高い処理性能を生かしたものだ。ESS DACが標準で持つフィルターはもちろんだが、すでに述べたように、Sygnalystとともに新たなフィルターを開発。PC向けの高音質音楽プレーヤー「HQPlayer」が搭載するフィルターと同種で、オーディオ機器では世界初だという。「HQ Gauss」(ガウスフィルター)と「HQ Apod.」(アポダイジングフィルター)の2種がある。
また、DDF(Dynamic Digital Filtering)も面白い試み。ユーザー投票で意見を集め、地域やユーザー属性に合わせたフィルターを開発していこうとするもので、結果は後日のアップデートなどに反映する。WANDLAのソフトウェアは、WindowsおよびmacOSに対応した「Ferrum Control App」を使って簡便なアップデートが可能。ユーザーとともに進化し続ける機器になっている。
ESS9038 PROは電流出力が大きく高負荷であるため、I/V変換回路の性能も問われる。そこで高速かつ高スルーレートのI/V変換回路を新規に開発したという。DACチップはメーカーによって音の傾向があると言われがちだが、これはDAC ICを選ぶとその周辺に置く回路の設計もある程度決まってしまうからとも言える。WANDLAはDAC ICからの出力を受けるI/V回路を自社開発したことで、「ESS DAC搭載機種の音はこう」という固定観念を打ち破るような、Ferrum Audioらしい音が実現できたという。
I/V変換回路のバッファーにはTIの「BUF634A」を使用。独自のアナログ・アンチエイリアシング・フィルターで低歪み化も図っている。
本体には光、同軸、USBといった一般的なデジタル入力端子のほかに、I2S入力やHDMIケーブルを使ったeARC入力、アナログ入力を装備。I2Sは電子基板上で音声信号をやり取りする規格で、いわばPCのバスに流れているデータを変換なくそのまま入力できるものと言える。eARCについては最近搭載機種が増えているが、テレビ本体、またそのテレビにつながっている機器の音声を簡便に再生できるため音楽再生以外の利用シーンが広がる。