4年ぶりの会場開催となったSORACOM Discovery 2023基調講演レポート
生成AI×IoT、グローバル展開、衛星通信など 今年もソラコムはトピック満載
iSIM商用化、Satellite NB-IoT対応、STARLINKの再販まで
2015年にSORACOM Airを提供して以降、ソラコムはさまざまなSIMテクノロジーを投入している。デバイスへの埋め込みを可能にするeSIMの提供、eSIMプロフィールのダウンロード、eSIMへの書き込みを可能にするiOSアプリ、そしてコンシューマーブランドのSoracom Mobileなど。前述したサブスクリプションコンテナもこうしたテクノロジーの1つだ。
今回発表されたのは、昨年から実証実験を行なっていたiSIMの商用化開始だ。iSIMは通信モジュールとSIMをワンチップ化しており、省スペース・低消費電力・低コストを実現するというもの。ソラコムはiSIMにplan01sをプリインストールし、サブスクリプションコンテナにも対応する。iSIM対応モジュールは「BG773」(Quectel)と「Type 1SC」(村田製作所)の2種類で、発売開始は2023年内を予定している。「新しいウェアラブルデバイスが日本から世界にデビューするのを楽しみにしている」と玉川氏は期待を語る。
また、衛星通信に関してもアップデートが披露された。昨年はAstrocastと提携した衛星通信でのメッセージサービスを発表したが、今年はSatellite NB-IoTへの対応を発表した。3GPP R.17で規定されているSatellite NB-IoTは、既存のNB-IoTのセルラーテクノロジーを用いてIoT向けの衛星通信を実現するもの。今回ソラコムは、NB-IoT対応の衛星事業者である米Skyloと協業し、対応モジュールを利用することで、セルラー通信も、衛星通信も、両方とも実現できる環境を実現する。テクノロジープレビューとして、2023年度内に発表される。
さらに親会社のKDDIが行なっているStarlinkの法人向けサービスであるSTARLINK BUSINESSの再販開始も発表された。STARLINKのデバイスや回線契約のみならず、仮想SIMを搭載したWiFiルーターもバンドルした「SORACOM・STARLINK BUSINESSキット」として提供。STARLINKの衛星通信をバックボーンとして利用しつつ、仮想SIMを用いることで、SORACOM Arc経由でSORACOMサービスにアクセスできるという。2023年7月中に受付を開始している。
ここでユーザー企業として登壇したのは、筑波大学ベンチャーのピクシーダストテクノロジーズ 取締役CROの星貴之氏。波動制御技術に強みを持つ同社がSORACOMを採用したのは、テレビやラジオなどの音を高齢者でも聞きやすい「ガンマ波サウンド」に変調する「kikippa(キキッパ)」というテレビスピーカー。SORACOM Airを搭載することで、聞きやすいアルゴリズムを自動反映したり、聴いた時間を記録することが可能になった。また、WiFiを使わず、インターネットに接続できるほか、視聴時間などを確認する見守りも実現しているという。「開発工数の削減やセキュリティの向上、出荷後のファームウェア更新なども可能になった」と星氏はSORACOM導入の効能を語った。
玉川氏が、もう1つトピックとして語ったのは、SORACOM側で転送先やプロトコル変換を担うSORACOM Beamを活用することで、ユーザーがサービス終了の憂き目にあっても、デバイスごとの設定変更が不要になる点をアピール。具体例として、2023年8月にサービスを終了するGoogle Cloud IoT Coreの転送先を変更できる機能追加を発表した。Googleが移行先として推奨しているClearBladeにも対応するという。「IoTは5年、10年と使い続けるもの。そのサステイナビリティを支えていきたい」と玉川氏は語る。
高まるIoT×生成AIの可能性 松尾研究所とのラボも設立
続いて取り上げたのは、大流行となっている生成AIへの取り組みだ。ソラコムは従業員の福利厚生としていち早くChatGPT Plus利用料金を全額補助し、Slack経由でChatGPTを利用可能なBotも運用している。今後はSORACOMのドキュメントを元に技術的な質問に応えるBotも稼働開始している。
ソラコムが目を付けたのは、「ChatGPTやLLMをIoTに活用できないか?」というポイント。そして、IoTデータの傾向分析や異常検知を簡単に行なうために今回リリースされたのが、「SORACOM Harvest Data Intelligence」になる。サービスは非常にシンプルで、SORACOM Harvest Dataに追加された「AIに聞く」ボタンを押し、設定された質問を選択するとChatGPTが応えてくれるというもの。
たとえば、「データになにか特筆すべき箇所や傾向、異常値はありますか?」という質問を選択すると、SORACOM Harvest Dataのデータを調べ、平均、最小値、最大値、傾向、異常値などを自然言語で説明してくれる。サービスはAzure OpenAI Serviceを採用しており、パブリックベータとして本日から無料で利用できる。
また、こうしたIoT×生成AIの可能性を高めるべく、東京大学 松尾豊教授の松尾研究所と共同でIoT×GenAI Labを設立することも発表された。IoTと生成AI、LLMのエリアに特化し、新規プロダクトの開発や顧客向けのプロフェッショナルサービスを手がける。「これからなにが起こるかわからないけど、やらないより、やったほうが絶対にいい。どんどん新しいことにチャレンジしていきたい」(玉川氏)。