このページの本文へ

イノベーションワークスペース「Miro」が12個のAI機能をリリース

付箋を感情ごとにクラスタ化とは? 生成AIによるMiroの進化がすごい

2023年07月03日 11時30分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 2023年6月30日、ミロ・ジャパンは2~4月の第1四半期に追加した新機能について記者会見を開催。多彩なサービスと連携する「プログラムボード」やChatGPTやStable Diffusionといった話題の生成AIを搭載した「Miro AI」のデモも行なわれた。

ミロ・ジャパン代表執行役社長の五十嵐光喜氏

Miroはイノベーションを創出するツールとして進化してきた

 Miroは2011年に創業したオンラインホワイトボードサービスだ。現在では、12拠点に展開し、従業員数は1700人以上となっている。FORTUNE 100のうち99%の企業が利用し、全世界で5500万人以上(うち日本ユーザーは120万人)が利用している。

 ミロ・ジャパン 代表執行役社長の五十嵐光喜氏は、「多くの経営者は自社のイノベーションや競争力に不満を抱えている」という。80%の経営者がイノベーションをトップ3の優先事項の一つとして挙げているのにもかかわらず、そのパフォーマンスに満足しているのは10%未満。その上、世界のCEOのうち40%が10年後には自分たちの組織は経済的に成り立たなくなると考えているという。

「これまでイノベーションは、成長もしくは戦略的に進んでいくための手段だと思われていましたが、今の経営者はイノベーションは生き残りのために必須になると考えています。そんな中でMiroは、大きな成果を生み出す力をチームや現場に与える、ということをミッションに10年以上活動しています」(五十嵐氏)

 2011年はオンラインホワイトボードサービスとしてスタートしたが、2018年には視覚的なプロジェクト管理やワークショップ、100以上の他サービスとの統合を実現し、ビジュアルコラボレーションに進化。2022年には図表やワイヤーフレームを作成したり、ワークフローを統合するなど、イノベーションワークスペースとなった。そして、2023年にはAIを搭載し、Miro AIとして進化を続けている。

 Miroは既存のサービスではできないコラボレーションに重要な要素を補完するという。たとえば、ビデオ会議やメッセージ、メール、ビジネスチャット、グループウェアといった生産性向上ツールは、リアルタイムでコミュニケーションできるものの、情報が時間とともに流れてしまう。一方で、考えを集約して、積み上げていく作業も必要になるが、ここMiroが担うという位置づけになっているという。

ホワイトボードからイノベーションワークスペースに進化してきた

 Miroにはビジュアルプロジェクトマネジメント、ダイアグラムとプロセスマッピング、コンテンツとデータの可視化、ワークショップと非同期コラボレーション、プロダクト開発のワークフロー、Miro AIという6つの高度な機能を備えている。

 インテグレーションやアプリ、テンプレート、クロスデバイス拡張性を備えたプラットフォームであり、さらに、企業が安心して使えるように、セキュリティやデータガバナンス、コンプライアンス、スケーラビリティ、アクセシビリティといったエンタープライズ基盤も整備している。

「イノベーションとは、アイデアを出して、それをまとめ上げて、それを具現化して、結果を見て振り返って、というサイクルで回していくものと思っています。この全体を通してイノベーションが出てきて、さらに次のイノベーションへとつながっていきます。この一貫したライフサイクルに渡り、Miroが機能を提供することで、これまでのホワイトボードから真のワークスペースとなったと考えています」(五十嵐氏)

イノベーションをエンドトゥエンドで支援できるMiro

ボード内で他ツールの情報を埋め込み直接確認・編集できる

 続いて、ソリューションエンジニアの高木智範氏による、ビジュアルプロジェクトマネジメントについてのデモが行なわれた。

「企業内では、日々さまざまなプロジェクトが走っていますが、プロジェクトに必要な情報やデータ、ディスカッション、コミュニケーションの内容をすべてボードに収めて使っていただくことをお勧めしています。プロジェクトの立ち上げからデザイン、開発、そして改善に至るまでのすべてのフェーズで、ボードを使って協働していきます」(高木氏)

ミロ・ジャパン ソリューションエンジニアの高木智範氏

 同じ企業内でも職種ごとにオンラインストレージや文書管理システム、ウェブサイト、コミュニケーションツールなど、多くのツールを使っている。しかし、そこから情報を引き出して、加工して、また格納して、それをコミュニケーションに使って、というような仕事をしていると、情報が散らばってしまい、非効率な状態になってしまう。

 とは言え、プロジェクトには様々な職種の方や役割の人がいるので、無理やり一本化するのも難しい。そこで、Miroのボードに来れば、すべての情報源にアクセスできるようにして、プロジェクトを進めているべきだという。

「プロジェクトでは情報やツールの点在という課題があります。例えば、要求仕様がドキュメントファイルで来て、それを読み解きながら、ホワイトボードや紙に書いて議論して、その結果を写真に残して、設計段階になったらダイヤグラムツールで設計に落とすという流れが一般的です。そうすると、どこかで変化があった時に、キャッチアップができなくなり、大きなずれにつながります。結果として、山のようなメールやチャットが流れ出し、情報はとても流動的なものになってしまうというような課題があります」(高木氏)

 Miroはこのホワイトボードの部分からスタートしたが、現在では流れのすべてをカバーするプラットフォームとなっている。そのプラットフォームを支える機能の一つが「コンテントハブ」だ。さまざまなツールと連携する際、単なるリンク集ではなく、ボード上で直接情報にアクセスできるのが特徴だ。

Miroはリンク集ではなくコンテンツ自体を集約できるコンテントハブとなる

 たとえば、Miroは130を超えるアプリケーションと連携ができるようになっており、FigmaやConfluence、ExcelなどのURLをMiroに貼り付けると、コンテンツが埋め込まれて、直接データを確認したり修正したりできるようになる。ボードから離れずに作業できるので、情報が分散せずに済む。タブを行ったり来たりする必要がないので、効率もいい。ほかにも、YouTubeの動画やドキュメント、アナリティクスツールなども埋め込める。

 タスク管理ツールとも連携できる。通常、プロジェクトのプランニングをする時はみんなでタスクを付箋に書き出して、プライオリティを設定したり、タスク間の依存関係を図示したりする。タスク管理システムを連携させれば、議論に使いたいアイテムをMiroに持って来て、みんなで見ながらプライオリティーを設定したり、依存関係を図示したりできる。

 加えて、2023年4月に追加された「プログラムボード」では、プロジェクトの中身をまとめてMiroに持ってきて、開発期間ごとにタスクを自動的に並べてくれる。プロジェクト全体を見渡して、タスクを管理したり、プランニングできるのが特徴だ。こちらも、タスクを動かせば、タスク管理システム側にも反映されるので、タスク管理システム側だけを見て仕事をしている開発者の人にも、確実にディスカッションの内容が伝わるというわけだ。

 この多数の依存関係も設定して可視化できるほか、他のプロジェクトとの間にも依存関係を設定できるので、会社中のプロジェクト全体を見渡して議論したり、管理できるようになっているという。

「プログラムボード」では会社全体のプロジェクトを依存関係込みで管理できる

Miro AIがアイディア出しやその整理、イメージ画像作成などを支援

 Miro AIについてのデモはヘッド・ソリューション・エンジニアの石動裕康氏が行なった。現在、Miro AIはベータ版で、12個の機能がリリースされている。

「1つ目が、付箋の生成です。アイデア出しをする時の最初のきっかけ、たとえば、飛行機の種類を色々出す時に、ぱっと思いつきません。Miro AIを使うと、色々な種類の飛行機が書かれた付箋が生成されて、議論を始められます」(石動氏)

 Miroはアイディア出しがしやすいツールなので、ついつい付箋をたくさん貼り付けてしまいがち。その情報をまとめるのに手間がかかるのだが、Miro AIを使えば、感情ごとにクラスタ化することができる。

 たとえば、肉が好きか、というディスカッションでいろいろな付箋が貼られた後、全部を選択して、感情ごとにクラスター化するというボタンを押すだけで、肯定的なもの中立的なもの否定的なものといった形でまとめてくれる。一瞬でまとまるので、そこからさらに議論を発展させることもできる。

 ちなみに、Miro AIはChatGPTのOpen AIが提供する機能を利用している。もちろん、コンシューマ向けではないので、入力したデータがAIの活用に利用される心配はない。

付箋を選択してMiro AIメニューを開く

付箋紙の内容を感情でクラスタ化できた

 議論を進める中で、ビジュアルでイメージしたいといったこともある。そんな時、Miro AIで画像を生成するようになった。生成した画像から、背景を消す機能も搭載している。デモでは、海の真ん中にある石油のプラットフォームを描画し、サクッと背景を削除していた。画像生成AIにはStable Diffusionを利用しているので、プロンプトの入力は今のところ英語にする必要がある。

 Miro AIではマインドマップの生成もサポートした。たとえば、「イベントの準備」と入力すると、日程や人員、広報、場所、プログラムといった項目やさらに細かい項目が一気に自動生成された。このマインドマップを見て、では会場をどうすか、という議論をできるようになるので、大きな時短となる。

「手順も生成できるようになりました。たとえば、SAML認証の流れを作ってください、と入力するとMiro AIがユーザーとIDPとサービスプロバイダーと、サービスに対してどんな情報が送られる、というシーケンスを一瞬で作ってくれます」(石動氏)

 同じようにコードの生成もできる。デモではじゃんけんゲームのPythonスクリプトを一瞬で生成していた。この出力を元に、ディスカッションしたり、アイディアを出したりすることが可能になるという。

マインドマップやシーケンス、コードなどもMiro AIが生成してくれる

「Miroは単なる付箋紙のホワイトボードではなく、イノベーションをエンドトゥエンドで支援、実現するワークプレースです。元々、日本人はカイゼンとかワイガヤとか大部屋とか、人が集まってディスカッションをして事業を生み出すというDNAがあります。Miroは、まさにそれをデジタルで実現するワークスペースとなったと思います」と五十嵐氏は締めた。
 

■関連サイト

カテゴリートップへ

ピックアップ