電動キックボードに関して改正道路交通法が7月1日に施行。これまで原付一種扱いだった電動キックボードの一部車両が新たに「特定小型原付」に指定されて、車体の大きさや最高時速などの基準を満たした車種については、免許なし、ヘルメット着用も任意で運転できるようになりました。
特定小型原付指定の電動キックボードは、車道に加えて自転車専用レーンも通行可能。最高時速6km以下、最高速度を示すランプを点滅させて走行するなどの条件を満たせば、歩道も走行可能です。年齢は16歳以上、ナンバープレート着用と自賠責保険加入必須など条件付きではあるものの、普及にはずみがつきそうです。
一方で、懸念されているのは安全面。海外では安全面への懸念から「電動キックボード離れ」の動きが起きていると言います。今回の法改正にはどんな意味があり、改正後はどんな点に注意すればいいのか。電動キックボードなどのパーソナルモビリティに詳しい、交通コメンテーターの西村直人さんに聞きました。
買い手を失った電動キックボードが日本に
── あらためてなぜ今回、道路交通法が改正されることになったんでしょう?
公的に言えば「移動体の自由、多様性」ということですが、真意を言えば外圧に負けたとなるでしょうね。事故や転倒が増えていることから、世界中で電動キックボードの活用を縮小する方向になっています。
── 世界で電動キックボード離れが起きて、買い手を失った電動キックボードが日本に向かった格好というわけですね。いつごろの話ですか?
コロナ禍で、公共交通機関に乗らない「パーソナルな移動」ということから電動キックボードに注目が集まったんですが、その後ですね。たとえば欧州の石畳と電動キックボードの相性はとても悪い。小さなタイヤが溝にハマり、ハンドルが取られ転倒リスクが高くなるからです。でもこれは乗り物が悪いのではなく、たとえばトラムの線路が敷設されている道路と共有するなど、インフラとの整合が図りにくく、結果的に乗るのが難しいからやめるという方向が多いと聞きます。この流れは欧州だけでなく、たとえばアジア地域の国々では「特定道路のみで使用する」という方向になっています。たとえばシンガポールは「平坦な特定区間で乗りましょう」という形で規制をかけていますね。
── 公道を走行する上で安全面の懸念があるということでした。電動キックボードと、いわゆる原付一種のスクーターは安全性としてどこが違うんでしょうか?
二輪車というものはタイヤの直径と体幹で安全性が担保されるものなんですが、電動キックボードはほとんどのタイヤ径が8インチ~10インチ(1インチ/2.54cm)。8インチだと約20cmです。安定して走れるのは半径の3分の1までの高さと言われているので、これだと約3cmぐらいの高さまでしか安定して走れないわけです。
── そんな中、日本では電動キックボードに関しての改正法が施行されたと。メディアでは規制緩和に注目され、「免許不要になると危険ではないか」と懸念されていたわけですが、そもそも安全面に懸念があったから法律を改正して規制することになったという側面もあったわけですか。
その通りです。危険がないのなら道路交通法で縛る必要はないわけですから。電動キックボードに乗った経験のある白バイ隊員との会話のなかで「これはやっぱり危ないよね」という話になった。現行法の中で、みんなに納得してもらえる落としどころを探ったというのが、今回の改正法でしょう。
── 安全性を担保するために、免許不要でありながらも様々な条件を付けたと。
「2段階右折しなきゃいけない」とか、あの辺りの条文は警察庁が一所懸命に言ったんじゃないでしょうか。ただ、特定小型原付の説明にある「運転に関し高い技能を要しない」というのは大きな誤解があり、事実ではありません。一度乗ってみるとわかりますが、体幹がしっかりしていないと乗れません。それでもその条文を含めておかないと成立しないために入れられたもだと思います。
── 運転に関する条件を読んでみると、いわゆる免許講習を受けずに乗るのはかなり難しいのではないかと感じました。
そうなんですよ。利便性と言いながら規制でガチガチにしている。アクセルとブレーキを同時に踏むようなことをしているわけです。「こんなに厳しいんだったら乗るのやめた」となることもあるでしょう。警察庁としては事故がなくなればいいわけですし。50〜60年かけて安全性を積み上げてきた原付一種というものがあるわけだから、そっちに行ってほしいという気持ちもあるんじゃないかと想像しています。また、特例特定小型原動機付自転車として、特定小型原動機付自転車に、さらに制約を設けたカテゴリーも今回、同時に新設されています。