このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

アップルへの「アプリストア開放義務づけ」はなにをもたらすのか

2023年06月02日 17時00分更新

文● 西田 宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「アプリストアの解放」より「決済の解放」が本質

 そもそも、問題の本質はなんなのだろうか? 「アプリストアの手数料30%が問題」と言われるが、これも「場合による」。

 販売顧客の管理やカード会社と折衝する体力のない小規模事業者が、世界にアプリを売る市場と考えると、30%はそこまで暴利なわけではない。そもそも、それら小さな規模の事業者は手数料比率がもっと低いわけで、30%を悪者にするのはちょっと違う。ゲーム機や電子書籍プラットフォームでも、30%を1つの目安とするビジネスが実施されているのだが、それをアプリストアと比較する声はない。

内閣官房デジタル市場競争本部のモバイル・エコシステムに関する競争評価・中間報告に対するアップルのコメントより

 ただ、アプリ内決済などをする場合に、「アプリストアでの決済以外を使うともっと安くできる」と考えている企業は相当数いると思う。ならば、「アプリストアの解放」ではなく「決済の解放」が最優先課題ではないか。アップルやGoogleのアプリストアを使ったとしても、決済は別口で行えるように解放することができれば、アプリストアによる審査の問題を課題とする人は減るのではないか。

 また、ウェブアプリを活発に使えるよう、自社製ウェブブラウザーの強制を止めさせることも重要だ。

 産業としてなにが優先で、なにが重要なのか。冷静に判断すると、また別の落とし所が出てくるだろう。そして、「解放されたが結局競争は起きなかった」という状況にならないよう監視することこそ、重要な話かと思う。

 政府が「ビッグテック掣肘論」で凝り固まらず、本当の利益と自由を守る発想で交渉することを望みたい。

 

筆者紹介――西田 宗千佳

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)、新著「メタバース×ビジネス革命」(SBクリエイティブ)などがある。

 

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

ASCII.jp RSS2.0 配信中