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記憶がうつ病などの精神疾患を発症させる仕組みを解明=東北大など

2023年04月25日 06時18分更新

文● MIT Technology Review Japan

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東北大学と東京大学の研究グループは、ストレスを受けたときの記憶が脳内で強化されすぎることが、うつ病などの精神疾患を発症させる一因であることを解明した。過剰な精神的ストレスを受けると、不安やうつの症状を発症するが、その症状には大きな個体差があり、個体差が存在する理由は分かっていなかった。

東北大学と東京大学の研究グループは、ストレスを受けたときの記憶が脳内で強化されすぎることが、うつ病などの精神疾患を発症させる一因であることを解明した。過剰な精神的ストレスを受けると、不安やうつの症状を発症するが、その症状には大きな個体差があり、個体差が存在する理由は分かっていなかった。 研究グループは、過剰な精神的ストレスを受けた際の症状の個体差を説明する仕組みの候補として「記憶」に着目。嫌なストレス記憶が脳内で強化されすぎることが、精神症状発症の一因になるという仮説を立てた。そこで、記憶と情動の両方で重要な役割を果たす腹側海馬に注目して、ストレス記憶が精神症状の発症にどのように関係するのかを調べた。 マウスはヒトと同じように、ほかの個体から攻撃されるようなストレス刺激を受けると、うつ状態に陥る。そこで今回の研究では、マウスを使った実験を試みた。まず、ストレスをかける前のマウスから腹側海馬の組織を微量採取し、遺伝子発現解析を実施した。その結果、カルビンジンという遺伝子を強く発現していたマウスは、ストレス刺激を受けるとうつ状態に陥りやすいと分かった。そして、腹側海馬のカルビンジン遺伝子を人為的に欠損させたマウスは、ストレスを受けても症状を発症しにくいことも分かった。 さらに、マウスの腹側海馬に金属電極を埋め込んで、ストレスをかけたときの脳波の変化を観察した。その結果、ストレス感受性が高いマウスは、ストレスを受けた後に腹側海馬で「リップル波」と呼ぶ脳波を多く発していることが分かった。カルビンジン遺伝子を欠損させたマウスや、ストレス抵抗性が高いマウスでは、このような脳波の変化は確認できなかった。 また、脳波を常に計測して、リップル波を検出した直後に電気的なフィードバック刺激を流して、リップル波だけを消失させるシステムを構築し、ストレスをかけたマウスが発するリップル波を消去したら、うつ症状の発症を抑えることができた。最後に、ストレスをかけたマウスを強制的にウォーキングマシンに乗せて運動させてみた結果、腹側海馬のリップル波はほとんど観察できなくなった。 研究成果は4月20日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌にオンライン掲載された。海馬の構造やリップル波の機能はマウスとヒトの間で非常に類似しており、今回明らかになった記憶が精神疾患を発症させる仕組み、そして運動で発症を抑制できることはヒトでも共通する可能性があるという。

(笹田)

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